中国で医療保険加入を義務化 保障水準は明記せず

2026/09/01
更新: 2026/09/01

8月28日、中国共産党(中共)の全国人民代表大会常務委員会は「医療保障法」を可決した。同法は、従業員基本医療保険に加入しておらず、ほかの公的医療保障も受けていない国民に対し、都市・農村住民基本医療保険への加入を義務付けている。2027年1月1日に施行する。

一方、医療費をどこまで保険で負担するかという最低基準や、個人が負担する保険料の上限、政府による最低補助額については定めていない。ネット上では「悪法だ」と批判する声が上がっている。

第4条は、国民には法律に基づいて基本医療保険に加入する権利と義務があると規定。第10条では、従業員は従業員基本医療保険に加入しなければならないと定めた。

さらに第11条では、従業員医療保険に加入しておらず、ほかの公的医療保障も受けていない国民は、都市・農村住民基本医療保険に加入しなければならないとしている。

医療保険への加入を義務化 保障水準は明記せず

医療保険への加入を国民の義務としたことについて、湖南省の法学教授、王彤氏(仮名)は大紀元に「明らかに国民に医療保険への加入を強制するもので、中共が国民から金を取るための手口だ。この悪法には、医療費の最低給付割合も個人負担の上限も書かれていない。国民には『加入しなければならない』との義務を繰り返し課す一方、全国一律の具体的な数値基準はなく、どの程度の保障を提供するかは地方政府の判断に委ねられている」と語った。

同法は、都市・農村住民基本医療保険について、個人による保険料負担と政府補助を組み合わせると規定している。

保険料は、経済・社会の発展状況や住民1人当たりの可処分所得を踏まえて設定するとしている。個人が負担する保険料と政府の補助額は、各省、自治区、直轄市の医療保障部門と財政部門が決定するか、地方当局が決定するよう指針を示す。

王氏は次のように指摘した。

「地域の実情に合わせるように見えるが、実際には1人当たり所得という指標を根拠にしているだけで、低所得者や社会的弱者が実際に負担できるかどうかは考慮していない。地方政府に与えられた裁量が大きすぎる。『豊かな省ほど保障が手厚く、貧しい省ほど負担が重い』という地域間の格差を広げかねない。医療保険料は年々上昇しており、やがて国民が負担しきれなくなる恐れがある」

あるネットユーザーは8月29日、「何が『悪法』なのか。新たに制定された『医療保障法』こそ、まさにその典型だ」と投稿した。

「国民には『必ず加入しろ』と義務付けながら、『どこまで保障するか』は約束しない。しかも低所得者により重い負担を強いる。貧しいほど保険料を払えず、払えなければ保障も受けられない」

同法は、生活困窮者や最低生活保障を受ける世帯の構成員、再び貧困に陥る恐れがあると認定された人などが住民医療保険に加入する場合、個人負担分について「規定に基づき補助する」と定めている。ただし、具体的な補助率や最低額、対象者の認定条件については法律に明記していない。

加入中断への不利益措置を強化 低所得者に重い負担

「医療保障法」第12条は、国が継続加入を促す仕組みを整え、加入を促す優遇措置や制約措置を整備すると定めている。

ただし、保険への加入を中断した場合に、再加入後どのくらいの期間、医療保険の給付を受けられないのかや、追加納付の基準については直接定めていない。

現行の住民医療保険制度では、2025年から、所定の期間内に加入しなかった人や加入を中断した人が再加入した場合、3か月間は医療保険の給付を受けられない。

さらに、未加入期間が1年長くなるごとに、給付を受けられない期間が1か月ずつ延長される。

保険料を追加納付すれば、この延長分の一部を短縮できる。1年分を追加納付するごとに1か月短縮できるが、最初の3か月は短縮できない。

4年以上連続して加入していなかった場合、追加納付をしても、医療保険の給付を受けられない期間は原則として合計6か月以上となる。

この期間中に発生した医療費は、後から医療保険の給付を受けることもできない。

四川省の人権活動家、方さんは、「この制度で最も大きな打撃を受けるのは失業者や低所得者だと思う。当局は事実上、就労を迫っているが、今の中国でまともな仕事がどこにあるのか。結果として『貧しいほど保障を受けられない』という悪循環に陥る」と指摘した。

強制加入を法律で明文化 行政による強制徴収に余地

「医療保障法」第20条は、税務当局が「規定に基づき基本医療保険料(出産保険料を含む)を徴収しなければならない」と規定している。

一方、罰則などを定めた「法的責任」の章では、主に医療保障当局や運営機関、指定医療機関・薬局、医療保険の不正利用や医療保障基金の違法使用などを処罰の対象としている。

住民医療保険への加入を拒んだ一般市民に対する罰金額については規定していない。

また、第44条は、加入者を含む信用情報を用いた管理制度を設けると定めているが、加入を拒否した人にどのような不利益を科すかは明記しておらず、公共サービスの利用制限などについても規定していない。

広東省の法律学者、周漢民氏(仮名)は、罰則などを定めた章では住民医療保険への加入を拒む一般市民への罰金額を直接定めていないものの、「加入しなければならない」と法律で義務付けたことで、行政当局が強制的な徴収措置を取る余地が残ったと指摘する。

周氏は、「中共は今後、かつての人口抑制政策と同じような手法を取り、地方の実施細則や行政文書を通じて、保険料の追徴、税務当局による強制徴収、信用情報を使った管理、公共サービスの利用制限などを導入し、保険料の徴収を強制する可能性が高い。非常に恐ろしいことだ」と語った。

周玉