天安門前を自転車で走ったら、動画が消えた。「なぜ?」と調べていくと、たどり着いたのは当局が37年間封じてきた歴史だった。
中国の若手男性アイドル・楊博文氏が、北京の天安門前を自転車で走る動画を投稿した。国慶節(10月1日の建国記念日)を前に、「愛国」や祝賀の気持ちを表したものだったという。
ところが、その動画が突然削除された。
削除前には15万回以上再生され、6万件を超える「いいね」と3万件を超える保存があった。
一見、何の問題もない動画である。では、なぜ消されたのか。
多くの人が指摘したのが、37年前の天安門事件との関連だった。
1989年6月4日、北京では自由や民主化を求める学生や市民に対し、中国当局が軍を投入した。兵士は市民に実弾を発砲し、戦車も投入された。多くの人が殺害されたが、その死者数さえ37年たった今も明らかになっていない。

中国当局は当時、民主化運動を「反革命暴乱」と位置づけ、軍の投入を正当化した。だが、軍が自国の市民に銃を向け、多くの命を奪った事実を正面から検証すれば、当時の武力鎮圧そのものの正当性が問われることになる。
だからこそ、天安門事件は今も中国最大級の政治的タブーとなっている。事件について自由に語ることも、犠牲者を公に追悼することもできない。
そして37年後、一人の若者が自転車で、その「触れてはいけない歴史」にぶつかった。
1989年当時の映像には、一人の青年が自転車で天安門広場へ向かう有名な場面が残されている。外国人記者から「なぜ行くのか」と尋ねられた青年は、「It’s my duty(自分の責任だから)」と答え、そのまま自転車で走り去った。
今回、楊氏が天安門前を自転車で走る姿が、この37年前の光景を思い起こさせたのではないかとみられている。
ただし、楊氏本人が天安門事件を意識していた証拠はなく、それが動画削除の理由だったのかも確認されていない。
皮肉なのは、ここからだ。
「なぜ消されたの?」
「自転車に乗っただけなのに?」
天安門事件そのものを知らない若いファンたちは、素朴に理由を尋ねた。しかし、事情を知る人たちも、中国のネット上では答えをそのまま書きにくい。
「昔のある出来事」
「ここでは言えない」
「海外のネットで調べれば分かる」
「言ったらアカウントを止められる」
そんなふうに言葉を濁しながら、知らない若者を答えへと導いた。そして調べた先にあったのが、1989年6月4日の天安門事件だった。
似た出来事は2022年にも起きている。人気ライブ配信者の李佳琦氏が、天安門事件の前夜にあたる6月3日、ライブ配信で戦車型のケーキを見せた直後、配信が突然終了した。
「なぜ消されたの?」
「なぜ戦車がダメなの?」
理由を知らない若者が調べていくと、天安門事件に行き着いた。
ここに、中国のネット検閲が抱える皮肉な矛盾がある。
歴史を隠せば、若い世代はその歴史を知らない。知らないから、何がタブーなのかも分からない。何気なく触れ、それが突然消される。
すると今度は、「なぜ?」と調べ始める。そして、その答えを探した先に、隠していた歴史が待っている。
中国政府は37年が過ぎた現在も、天安門事件に関する情報を厳しく統制し、追悼や真相究明を求める声を封じている。一方、中国の外では今も追悼が続き、事件を語り継ぎ、中国の人々へ情報を届けようとする活動も続いている。

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