「ペストより恐ろしい可能性」元米高官が懸念 ロシアの研究所職員が原因不明の肺炎で死亡

2026/10/07
更新: 2026/10/07

ロシア東シベリアのイルクーツクにあるペスト対策研究所に勤務していた女性職員が、原因不明の肺炎で死亡した。ロシア当局はペストとの関連を否定し、事態の沈静化を図っている。一方で、接触者の隔離や感染防止策を講じており、当局が事実の全容を明らかにしていないのではないかとの疑念を招いている。

トランプ第一次政権の高官は、今回の事態について「ペストよりはるかに恐ろしい可能性がある」と警告した。

死亡したのは、ペスト対策研究所で勤務していたダリア・シピロワさん(28)。地元メディアによると、シピロワさんは先月29日に入院し、今月2日に死亡した。友人がCNNに明らかにした。

何の病原体がシピロワさんの命を奪ったのか、現時点では明らかになっていない。ロシア当局は、同氏の死因について「原因不明の肺炎」と説明し、ペストによる死亡ではないとしている。

ロシアの保健当局によると、複数回の検査を実施したものの、発症と職場で接触した病原体との関連は確認されなかった。接触が確認された人物の約6割について検査を行い、うち2人から新型コロナウイルス、別の2人からライノウイルスが検出されたが、その他の感染症の病原体は確認されていないという。

元米高官「ペストより恐ろしい可能性」

今回の事態をめぐり、トランプ第一次政権で軍備管理担当特使を務めたマーシャル・ビリングスリー氏が「X(旧ツイッター)」で懸念を表明した。

ビリングスリー氏は、1990年代にソ連の生物兵器計画の中枢にいたケン・アリベック氏が米国に亡命した後、同氏と仕事をした経験があると説明。アリベック氏から、旧ソ連が抗生物質に耐性を持つペスト菌を人工的に作り出したほか、複数の病原体を組み合わせた「キメラ病原体」の研究も行っていたと聞いたと明らかにした。

さらにアリベック氏は、イルクーツクの研究所もこうした生物兵器の計画に関与していたと説明していたという。

ビリングスリー氏は今回の事態について「深刻な懸念を抱かせる」とした上で、「単なる『ペスト』ではないかもしれない。もっと恐ろしいものの可能性がある」と指摘した。

生物安全の専門家も疑問 「死因が分からないのは不可解」

危険性の高い病原体を扱う研究機関で、若い職員が原因不明の肺炎で死亡したことから、生物安全の専門家の間でも疑問の声が上がっている。

米マサチューセッツ工科大(MIT)のケビン・エスベルト教授は、生物安全保障や大規模なパンデミックのリスクを研究している。米FOXニュースによると、同教授はロシア側の説明から、シピロワさんがペストで死亡したとは考えにくいとしながらも、「では何が死因なのかという答えがない」と指摘した。

エスベルト氏は、ロシア当局の説明を前提にすれば「ペストではない」とした上で、研究用の非標的シーケンシングによって病原体を特定することは可能だと説明。「病原体による感染がない状態で肺炎によって死亡するケースはほとんどない。まして28歳の若者だ。死因が分からないというのは驚くべきことだ」と語った。

今回の死亡をめぐる疑念の背景には、旧ソ連が秘密裏に生物兵器を開発し、ペスト菌を兵器化していた歴史がある。米国側の評価によれば、ソ連崩壊後も生物兵器計画の一部は継続していた。

当局は隔離を強化 「新しいウイルス」と説明

ロシア当局は事態の沈静化を図る一方、現地では厳格な隔離や感染防止策を取っている。

CNNによると、イルクーツクの産婦人科では患者に健康状態を確認するための検査を実施し、「ペスト」やその他の感染症を疑わせる症状がないかを問診票に記入させている。

イルクーツク州アンガルスク在住のブロガー、ウリャナ・ガブリュニナさん(29)はCNNに対し、新たな隔離措置のため夫が出産に立ち会えなくなり、妊娠40週の時点で通院先の産婦人科を急きょ変更せざるを得なかったと語った。

同氏が予約に従ってイルクーツク市の周産期センターを訪れた際には、普段付き添っている母親も院内への立ち入りを断られた。医療スタッフは体温を測り、舌の状態を確認した上で、マスクの着用と手指の消毒を求め、2種類の問診票への記入を指示した。

そのうち一つは「疑いのある高危険性伝染病―ペスト確認票」と題され、高熱や胸痛などの症状が列挙されていた。

ただ、医療スタッフは「ペスト」という言葉を口にせず、「正体の分からない新しいウイルスが確認されている」と説明。胎児を守るため、通常より厳しい感染防止策を取っていると伝えた。

ガブリュニナ氏によれば、院内の雰囲気は「落ち着いている。皆がマスクをしている、それだけだ」という。

同氏が最も不安を感じたのは、夫が追加の検査を受けたとしても、出産時の立ち会いを認められないと告げられたことだった。

「肺ペスト」の可能性を指摘する声も

今回の事態をめぐっては、肺ペストではないかとの見方も出ている。

肺ペストはペストの中でも特に重症化しやすく、感染者のせきやくしゃみによる飛沫を介して人から人へ感染する。潜伏期間は比較的短く、感染後早期に発熱やせき、呼吸困難などの症状が現れる。適切な治療を受けなければ、致死率が高い。

ルビオ米国務長官は6日、今回のペスト感染疑惑をめぐり、ロシアに対して情報公開を徹底し、国際社会とより多くの情報を共有するよう求めた。

ルビオ氏は前日にも、感染症が拡大する懸念を示していた。

米ロ間の人的往来は現在、限定的な状況にある。ただ、仮に未知の感染症が地域外へ流出すれば、他の感染症と同様、短期間で広がる恐れも否定できない。

ロシア当局が「ペストではない」とする一方で、厳格な感染対策を続けていることが、かえって今回の事態への疑念を深めている。

張婷