米国で、「シクロルフィン(cychlorphine)」と呼ばれる新型の強力な合成オピオイドが急速に広がっている。過量摂取による死亡が相次ぎ、全米の保健当局や法執行機関が警戒を強めている。
依存症問題の専門家、ニコラス・カルダラス博士は、シクロルフィンを「フェンタニルをさらに強力にしたもの」と表現している。米FOXニュースに対し、毒性と薬理作用が極めて強く、その効力はフェンタニルの10倍に達するとの見方を示した。ごく微量でも呼吸停止や死亡を招く恐れがあるという。
米麻薬取締局(DEA)によると、フェンタニルの鎮痛作用はモルヒネの約100倍、ヘロインの約50倍とされる。
カルダラス氏は番組内で、シクロルフィンの危険性を強調し、「この新型合成薬物の前では、フェンタニルでさえキャンディーのように思える」と語った。
オピオイドの過量摂取に用いられるオピオイド拮抗薬「ナルカン(ナロキソン塩酸塩)」は、シクロルフィンにも効果がある。ただし、薬物の作用が極めて強いため、救命には複数回の投与が必要となる場合があり、継続的な経過観察も欠かせないという。
さらに、一般的な病院の尿検査による薬物スクリーニングや、広く使われているフェンタニル検査紙では、シクロルフィンを検出できない。救急現場で原因物質の特定が遅れる「診断上の盲点」となり、適切な治療を難しくする恐れがある。
麻薬取締局は、フェンタニルを含む薬物を摂取した人の中には、自分が何を摂取したのか認識していないケースもあると指摘。同局は、安全な薬物使用のためには、資格と免許を持つ医療専門家が提供する医薬品を使用することが重要だと強調している。
全米各州で死亡例 若年層の誤摂取にも懸念
ホワイトハウスの国家薬物統制政策局(ONDCP)が今年4月に公表した警告によると、2025年7月~26年2月までに、シクロルフィンに関連する過量摂取による死亡を全米で少なくとも55件確認した。
テネシー州では早くから被害が報告され、少なくとも41人の死亡を確認したという。このほか、オハイオ、テキサス、カリフォルニア、イリノイ、オクラホマ各州など、少なくとも13州が公衆衛生上の警告を発している。
シクロルフィンは、覚醒剤(メタンフェタミン)やコカインに混入させたり、処方薬を装った偽造錠剤に含めたりするケースがある。こうした流通形態により、薬物に何が含まれているかを知らないまま摂取し、過量摂取に陥る若者が出ることを懸念している。
米国の保健・薬物問題の専門家らは、シクロルフィンなど新型合成薬物の拡大について、近年の国際的な合成薬物供給網の変化を背景とする動きとみている。特に、フェンタニルやその関連化学物質を巡る供給網の変化が、新たな薬物の出現につながっているという。
合成薬物の供給網が変化 米中の規制協力にも課題
麻薬取締局や米議会の調査報告によると、米国で深刻な問題となってきたフェンタニルをめぐっては、その製造に使われる前駆体化学物質の供給源として、中国の大規模な化学産業に長年注目してきた。これらの化学物質を中南米などに輸出し、メキシコのカルテルなどが合成加工を行った後、米国に密輸する経路だ。
米中両国がフェンタニル系薬物やニタゼン系薬物(nitazenes)など、特定の薬物に対する規制を強化するたびに、違法な製造業者が化学構造を変更し、規制の対象外となる代替物質を開発する動きも問題となっている。シクロルフィンのように、従来の検査法では検出が難しい新たな薬物の出現も、こうした規制上の課題の一つだ。
中国の化学企業が規制の抜け穴を利用して前駆体化学物質を輸出し、政策上の税還付などの恩恵を受けているとの指摘も出ている。
今年6月、ヤング・キム下院議員(共和党)は、中国共産党(中共)政権がフェンタニル危機で果たしている役割をめぐる下院小委員会の公聴会で、中共政権が少なくとも17種類の致死性化学物質の輸出を補助していると指摘した。同氏は、これらの化学物質には合法的な用途がないと述べた。
一方、米トランプ大統領は昨年12月、フェンタニルを大量破壊兵器に指定する大統領令に署名。大統領は、米国の敵対勢力が米国民を殺害する目的の一つとして、フェンタニルを米国内に流入させていると警告している。
これに対し、中共政府側は、フェンタニル関連物質について包括的な規制を導入していると主張。米国の薬物危機は、国内における医薬品の乱用や規制の不備に起因すると主張している。
米中両国は現在も、国境を越えた薬物犯罪の取り締まりや前駆体化学物質の管理を巡り、協議と協力を続けている。ただ、合成薬物の製造技術や供給経路が変化する中、規制の実効性を確保することは引き続き大きな課題となっている。
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