ノルウェーの郷土防衛隊が軍事演習中、使用していた中国製スマートカーが兵士の行動や軍事施設の暗証番号を録画・保存していたことを発見した。情報流出への懸念が高まるなか、ポーランドや米国なども中国製コネクテッドカーへの規制や安全対策を進めている。
専門家は、車載カメラやGPS、遠隔通信機能が情報収集に悪用される恐れがあると警告している。
中国製スマートカーが軍事演習を録画 ノルウェーで発覚
ノルウェーの経済紙「ダーゲンス・ナーリングスリーブ」が10月8日に報じたところによると、同国の郷土防衛隊が9月14~18日に実施した首都演習で、軍がレンタカー会社ハーツのノルウェー法人から借りた中国製車両が、周囲を撮影し、その映像を保存していたことが判明した。
演習に参加した中尉によると、保存されていた映像には、兵士の乗り降りや車両の走行経路、送迎した人物、停車場所のほか、兵士が軍事施設の出入り口の暗証番号を入力する場面まで映っていた。
問題となった車両のうち、少なくとも2台は中国の長安汽車傘下のブランド「ディーパル(Deepal)」だった。軍は録画に気づいた後も、代替車両が足りなかったため、演習終了まで使用を続けた。
AFP通信は10月17日、ノルウェー郷土防衛隊の報道官が、兵士らが車載システムに保存された録画映像を発見した事実を認めたと報じた。ただし、データが中国を含む第三者に送信されたかどうかは確認できていない。
ノルウェーのサンドビク国防相は10月16日、議会への書面回答で、軍は演習前にサイバー上の脅威を含む総合的なリスク評価を実施していたものの、今回使用した中国製レンタカーについては個別のリスク評価を行っていなかったと明らかにした。
兵士らは録画を発見した直後に報告し、保存されていた映像は削除したという。
緑の党のラース・ロンベルグ・ヘンリクセン議員は、機密情報が外部に送信された疑いを払拭できるまで、中国関連の車両の使用を停止し、欧州の代替メーカーを探すよう政府に求めた。
今回の問題を受け、軍によるレンタカーの調達方法やデータ管理、機密施設への車両の出入りに関する規則にも注目が集まっている。
車載カメラやGPSに情報漏えいの懸念
米国の経済学者黄大衛氏は大紀元の取材に対し、「これは世界規模の危機だ。単なる商業競争や貿易保護主義の問題ではない。国家安全保障やデータ主権に関わる問題であり、目に見えない『トロイの木馬』への根深い恐怖がある」と語った。
同氏は「EVは24時間稼働する移動式の監視装置になり得る。中国製スマートEVは、利用者が気づかないうちに通信することもできる。単なる移動手段ではなく、走る巨大なデータ収集装置だ」と述べた。
車載レーダーや高解像度カメラ、GPSによる位置情報、周辺環境の認識機能に加え、遠隔通信や無線によるソフトウエア更新など、現代のスマートカーはさまざまな機能を搭載している。
黄氏は、こうした機能を利用すれば、車内外の人物の会話や音声、映像なども収集・送信できると説明した。
さらに、「人の瞳孔や声、指紋、暗証番号までひそかに記録できる」とし、個人情報の流出や監視だけでなく、軍事情報の収集にも悪用される恐れがあると警告した。
台湾国防安全研究院の研究員、沈明室氏も、中国製コネクテッドカーについて「事実上、さまざまな情報を収集し、送信する大型の装置だ」と述べた。
沈氏によると、こうした車両が欧州や韓国に輸入された場合、軍事基地や政府機関、重要インフラの周辺環境を詳しく把握し、正確な位置情報を記録することが技術的に可能だという。
収集した情報が中国に送信されるのではないかとの疑念も生じていると指摘した。
ポーランドは軍事施設への乗り入れ禁止 欧州でも警戒
ノルウェーだけでなく、欧州やオーストラリアでも、中国製スマートカーの安全性を調査する動きや、軍事施設での使用を制限する措置が広がっている。
AP通信の2月18日の報道によると、ポーランド軍は中国製自動車の軍事施設への乗り入れを禁止すると発表した。車載センサーが映像や音声、位置情報などの機密データを収集する恐れがあるためだ。
ドイツ公共放送ARDは2月25日、ドイツの連邦憲法擁護庁と情報技術の安全を担当する中央機関が、複数の中国自動車メーカーの車両を共同調査したと報じた。
調査では、車両がどのようなデータを収集し、その情報が海外に送信されるのかを検証した。
英紙ガーディアンは10月1日、オランダの情報機関AIVDが、現代の自動車に搭載されるマイクやカメラ、GPSのほか、Bluetooth、Wi-Fi、充電システムなどの接続機能が、車内の会話や乗員の個人情報、移動履歴の収集に悪用されると警告したと報じた。
一部の車両では、マイクやカメラを遠隔操作で起動することも技術的に可能。
オーストラリア放送協会の調査報道番組「フォー・コーナーズ」は9月21日、中国のEVメーカー、零跑汽車(リープモーター)のC10に6台のカメラが搭載され、その一部に中国の監視機器メーカー、大華技術の製品が使われていると報じた。
同社製の監視カメラは以前、安全保障上の懸念を理由に、オーストラリアの一部の連邦政府施設から撤去していた。
各国の対策は、車両のデータ収集機能に関する調査から、軍事施設での使用制限や部品の調達先の安全性を確認する動きへと広がっている。
米国、中国製コネクテッドカーの規制強化へ
ボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、米上院商務委員会は7月22日、中国などの「外国の敵対勢力」に関連するコネクテッドカーや、そのソフトウエア、ハードウエア、主要部品の米国市場への参入を禁止する「コネクテッド車両安全法案」を超党派で可決した。
法案は、機密データの流出や車両の遠隔操作など、国家安全保障上のリスクを防ぐことを目的としている。
ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)の9月4日の報道によると、米国で事業を展開する主要自動車メーカーも、中国製コネクテッドカーと関連するソフトウエア、ハードウエアの米国内での販売、輸入、生産を恒久的に禁止するよう議会に働きかけている。
米自動車業界団体「自動車イノベーション協会」は、2027年1月3日までに禁止措置を法制化するよう議会に求めた。
黄氏は「米議会や国内自動車メーカーによる締め出し、各国の警戒に直面した中国メーカーは、表面的な機能変更によって問題を解決しようとするだろう。しかし、中国の政治体制を考えれば、信頼を得るのは難しい」と述べた。
中共の国家情報法と遠隔操作リスク
専門家は、中国製スマートカーに対する警戒が強まる背景には、車両の技術的な問題だけでなく、中共の産業政策や法制度もあるとみている。
沈氏は、中共がスマートカーを製造業の強化や技術的自立を実現するための重要産業と位置付けていると説明した。
スマートカーは国家的なビッグデータ活用やスマートシティー、ナビゲーションシステムなどとも密接に関係しており、中国の国家戦略の一部となっている。
沈氏が特に問題視するのは、国家情報法などに基づき、当局が企業や国民に対して情報活動への協力を求められる点だ。
同氏は、中共が自動車メーカーに対し、収集したデータの提供を要求できることが、西側諸国の警戒につながっていると指摘した。
黄氏も、中共の国家情報法や関連法令によって、国内企業や国民は国家の情報活動への協力を義務付けられていると説明した。
そのうえで、中国製スマートカーの遠隔操作機能やデータサーバーが、中共の意向によって利用されることを西側諸国は懸念しているとの見方を示した。
沈氏は、情報収集に加え、遠隔操作による危険性にも言及した。
「平時には問題が表面化しなくても、紛争や危機が発生した際、遠隔操作によって数万台の車両を一斉に動かなくしたり、交通網を混乱させたりして、深刻な社会不安を引き起こす恐れがある」と警告した。
黄氏は、中国の新エネルギー車政策について、表向きは気候変動対策を掲げているものの、監視手段として活用する狙いもあると主張した。
「北京はEVを極めて重要な国家戦略の一つとして推進しており、情報戦の具体的な手段として位置付けている」との見方を示した。
さらに、スマートカーによる情報収集について「その能力は一般的な偵察衛星や情報機関の要員をはるかに上回る。収集できる情報の量や範囲、詳しさは、これまでにない規模だ」と述べた。
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