中国軍、チベットにミサイル基地新設 専門家「インドへの挑発」

2020/09/03
更新: 2020/09/03

中国は4月、チベット自治区ガリ地区にあるカイラシュ・マーナサローワル(Kailash Manasarovar、中国名・岡仁波齊峰)遺跡の一部である湖の近くに軍事インフラの建設を開始した。印紙インディア・トゥデイは8月22日、建設が完了すれば、巡礼地は「軍が駐留する戦闘地帯」になりうると報じた。

インドのメディアによると、この建設は、何億人ものインド人に崇められている宗教的な場所への冒涜にあたる。専門家は、これは中国によるチベット自治区の軍事化の一環だと見ている。

カイラシュ山とマーナサローワル湖は、一般にカイラシュ・マーナサローワル遺跡として知られている。ヒンドゥー教やチベット密教など4つの宗教によって崇拝され、インド文化、民間伝承、精神的教典と結びつく聖地だ。

「これは中国共産党によるインドへの継続的な挑発だと思う。ラダックの実質境界線(LAC)からインド東部・中部地域まで、あらゆる箇所で起こりうる問題だ」と、作家で英ロンドンのシンクタンク「ブリッジインディア」地政学アナリストであるPriyajit Debsarkar氏は大紀元の取材に答えた。

信仰に無配慮な共産党政権

インドと中国は5月以降、中印国境紛争で複数回、小競り合いを起こしている。6月15日には石や棍棒を使った激しい衝突となり、インド側には20人の犠牲者が出た。中国側は被害を発表していない。

それ以来、両国は高官級で会談を重ねてきたが解決に至らず、関係が悪化している。

Debsarkar氏は「チベットでの地対空ミサイル配備は中国の権威主義的なやり方で、インドへの挑発だ。インドは中国の脅威と攻撃的な侵略に対して引き下がることなく戦っている」と述べた。

ワシントンにある保守系シンクタンク・ハドソン研究所の「インドと南アジアの未来に関するイニシアチブ」 (Initiative on the Future of India and South Asia)ディレクターであるAparna Pande氏は、大紀元の電話取材に対し、中国政府は宗教や文化には関心がないと語った。

現代の中国人について「彼らは古くからの中国の慣習をまったく気にしていない。宗教は大衆のアヘンだと思っており、彼らが気にしている唯一のイデオロギーは共産主義だ」とPande氏は述べた。同氏は、中国国内のウイグル族や法輪功学習者が受けた扱いを例としてあげた。

米オブザーバー・リサーチ基金の戦略アナリスト、ハーシュ・パント(Harsh Pant)氏は、中国がカイラシュ・マーナサローワルに軍事施設を建設することは、インド国内の反中感情を高めるだけだと指摘した。

パント氏は「これがヒンズー教徒にとって最も神聖な宗教的場所であるという事実は、中国政府がインド人の感情軽視を示している」と語る。「すでに問題を抱えている両国関係の緊張を高めるだけでなく、インド国民の対中感情を悪化させ、インドの政策立案者が中国に立ち向かう決意をさらに強めることになるだろう」と同氏は付け加えた。

タイムズ・オブ・インディア紙によると、インド外務省の後援で毎年、6月から9月中旬にかけてカイラシュ・マーナサローワル地域で巡礼が行われる。しかし、今年は新型コロナウイルス(中共ウイルス、COVID-19)のために中止となった。

チベット自治区の軍事化の一環

カイラシュ山を越える人々(GettyImages)

インドのPandit Ravishankar Shukla大学防衛専門のGirish Kant Pandey教授は、大紀元の電話取材に対し、新たなミサイル基地は中国共産党によるチベット自治区の軍事化の一環であると語った。

「配備されるのは東風21(DF-21)という射程2200kmの準中距離弾道ミサイル(MRBM)だ。首都ニューデリーを含む北インドのすべての都市をカバーできる」と Pandey氏は述べた。

同氏によると、中国政府はチベット自治区を軍事地域に変えている。2006~10年にかけて180件の戦略プロジェクトを実施したが、国防予算には含まれていないという。これらには4つの大型滑走路、14の小型滑走路、東から西へのインドと中国の国境に17のレーダー基地の建設がある。

中国政府にとって、カイラシュ・マーナサローワルは神聖な場所ではなく戦略的な場所にある山であり、ヒマラヤ山脈は中国の拡大政策の障害とみているとPandey氏は付け加えた。

中国共産党にとって「ヒマラヤは、地域の人々が敬うような文化的にも歴史的にも神聖な山脈だと考えていない。ただ、南アジアへの拡張を阻んでいる山であり、征服したいと考えている。ヒマラヤの平和など念頭にないだろう」とPandey氏は述べた。

さらに同氏は、中国はインド主要都市を射程に収めるミサイルを配備することで、ヒマラヤという戦略的な場所を制覇するために必要なものを揃えていると誇示する狙いがあるとみている。

Pandey氏は、中国はすでに日本、台湾、オーストラリア、米国、ASEAN諸国を狙ったミサイルを配備していると述べた。

「中国の観点からみれば、インドとインド洋地域を射程に収めるミサイル配備が重要だ。(ミサイル設備が追加された)カイラシュ・マーナサローワルの基地はこれを補うものだ」とPande氏は述べた。

聖地への道路にも反応

前出のDebsarkar氏は、中国が聖地にミサイルを配備したのは、最近インドが戦略的価値のあるヒマラヤ峠への道を敷設したことへの対抗だとみている。「しかし、インドの目的は巡礼を容易にすることだ」と語った。

インド政府は5月8日、ヒマラヤの峠をつなぐリプリークへの道路を開通した。

中国政府は公式声明として、「インドと中国の国境を越える大規模な道路建設に反対している」としている。

インディア・エクスプレスによると、まだ完成していない標高5000メートル、長さ80キロメートルの道路は、インドとネパール国境の紛争の争点となった。インドの専門家たちは、中国の命令を受けた与党ネパール共産党が道路建設地の領土の所有権を主張して抗議したと考えている。

インド軍のM・M・ナラバニ(M.M.Naravane)陸軍参謀長は、ネパールの反対は「誰かの命令だろう」と信じる十分な理由があると暗に中国を示唆した。

(VENUS UPADHAYAYA/翻訳・佐渡道世)

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