「せめて1度だけでも、彼に勝たせてあげたい」――。
そんな言葉が、国境を越えて共有された。
世界中の華人による「執念の戦い」の末、中国の俳優、アラン・ユー(于朦朧、Yu Meng Long)が、「世界で最もハンサムな顔100人」で5位に選ばれた。
米国の娯楽系ランキング企画TC Candlerは12月28日、2025年版の「The 100 Most Handsome Faces of 2025」(「世界で最もハンサムな顔100人」ランキング)を発表した。今年9月に北京で転落死したと公式に発表されたアラン・ユーが、初めて選出され、5位という高順位に入った。

アラン・ユーの死をめぐっては、当局が早い段階で事件性を否定した一方、転落に至る詳しい経緯や当時の状況はほとんど明らかにされていない。関連情報の削除や発信の抑制が相次いだこともあり、死因そのものに対する疑念は国内外でくすぶり続けている。事件から3か月以上が過ぎた今も、ファンを中心に、真相を求める声が消えることはない。
注目を集めたのは順位だけではない。結果発表の公式映像では、彼の名前の下に
「Gentle soul that deserved better(ひときわ優しい魂。本来なら、もっと大切にされるべきだった)」という言葉が添えられ、「安らかに眠れ」という言葉に続いて、「真相」「正義」「納得のいく説明」といった英語が画面に表示された。
世界的な娯楽ランキングの場で示されたこれらの言葉と反響は、この出来事が今なお多くの人の中で問いとして残り続けていることを、静かに伝えている。

さらに公式ページの説明欄には、彼の死の真相究明を求める署名サイトへのリンクも掲載され、単なる追悼にとどまらない広がりを見せている。
ランキング発表の公式映像が公開されてから24時間足らずで、コメントは1700件を超え、その多くが追悼と同時に、「彼に正義を」「真相を明らかにしてほしい」と訴える内容だった。

この5位という結果について、支持者の間では「自然発生的な人気の結果ではない」との受け止めが広がっている。中国国内で情報発信が強く制限される状況が続く中でも、事件を終わらせまいとする動きは国内にとどまらず、海外へと広がっていった。
アラン・ユーは才能ある歌手であり俳優だったが、生前は所属事務所のもとで活動の自由が大きく制限されていたとされ、知名度は決して高くなかった。業界の最前線とされる一線の俳優とは距離があり、中国国内では中堅クラスと見なされることも多かったという。
支持者の間で共有されている理解は、単なる仕事上の不遇ではない。
芸能界入り直後の25歳から亡くなるまでの約12年間、長期にわたる性的虐待や暴行、精神的虐待を受け続けるという想像を絶する過酷な環境に置かれていたと言われている。
行動は厳しく管理され、位置情報を把握する装置を足に装着されていたとされるなど、移動や私生活は完全に制限され、外部への自由な発信は認められなかった。恋愛も禁じられ、食事量すら管理され、満足に食べることが許されていなかったなどの状況が、市民による調査で集められた多くの資料や記録をつなぎ合わせる中で、彼が置かれていた実像として理解されている。

契約関係をめぐっては、所属事務所との間で著しく不利な条件を強いられていたとする指摘に加え、アラン・ユー名義で数十社に及ぶ会社が設立されていた事実が確認されている。これらは公的な登記情報などから裏づけられており、本人の意思や関与とは無関係に名義が利用されていた可能性が高いと受け止められている。
一方で本人は、生前、ネット通販の数十元(日本円で数百円〜1,000円程度)のセール品の服を自ら購入して着用し、賃貸の部屋で生活していた。不動産や自家用車を所有していた形跡もなく、名義会社の規模と本人の生活実態との著しい落差が疑問視されている。

それでも彼は、公の場では前向きな姿勢を崩さず、仕事を投げ出すことなく活動を続けてきた。どんな逆境に置かれても前を向いて生きようとする姿勢を最後まで失わなかった点に、強い共感が集まっている。「私たちが数か月続けてきた行動は、彼が耐えてきた12年に比べれば取るに足らない」という言葉が共有されているのも、その受け止めを象徴している。

右:事件の真相究明を呼びかける市民制作のポスター。街頭の電柱に貼られていたもの。(いずれもネット画像)
支持者の間で広く知られているのは、ファンや周囲に対する一貫した優しさだ。イベントや撮影現場では、転びそうになったファンに自ら手を差し伸べて起こしたり、交通量の多い道路で撮影に夢中になっている人の身を案じて声をかけたりする姿が何度も記録されている。危険を感じれば自ら前に出て守り、安心させる言葉を添える。その振る舞いには、作られた演出など微塵も見られなかったという。
彼の死後、その生きざまと置かれていた逆境、そして最後まで折れなかった姿勢が、改めて注目されるようになった。現場の住民が撮影したとされる映像に残されていた「死んでも屈さない」という言葉は、象徴的なフレーズとして広く共有されている。
(ネット上に流出した動画には、アラン・ユーのものとされる悲鳴と、「お前たちが俺を弄び、傷つけ、命を奪おうとしても──俺は屈しない」という最期の叫び声が記録されている)
優しさや誠実さ、逆境に抗い続けた強さ、飾らない人柄といった側面が重なり合い、彼の人物像は次第に立体的に語られるようになった。こうした姿に触れ、生前はファンではなかった人々、いわゆる「路人粉」と呼ばれる層も支持者となった。「路人」は通行人を意味し、「粉」はファンを意味する。熱心な追っかけではなくとも、彼の誠実な生き方に心を動かされたサイレント・マジョリティが声を上げ始めたことは特筆すべき変化である。国家的な情報統制が敷かれる中でも、彼のために真相と正義を求める声が共有され、行動は途切れていない。
(アラン・ユーの「本能的な優しさ」を切り取った動画。倒れた人を真っ先に助ける姿が中国語圏で拡散中)
こうした生き方を、本人はどのような言葉で表していたのか。
そうした姿勢を象徴する言葉として、生前に彼自身が語っていた「生而為人,向陽而生」という一節がある。日本語にすれば、「人として生まれたからには、光のほうを向いて生きていく」という意味になる。逆境の中でも前を向こうとしていた彼の姿勢が、この短い言葉に凝縮されていると受け止められている。

「生而為人 向陽而生(人として生まれたからには、光のほうを向いて生きる)」と語った場面。(映像よりスクリーンショット)
「もし善良であることが命取りになるのなら、子にその道を如何にして教え諭すべきか。もし法が既にその正を失っているならば、子にその法を何故に護るよう説かねばならぬのか。于朦朧に正義を示すこと。世界はあなたにこの責を負っている」という華人圏で拡散されているユーザー作の詩にあるように、ここで問われているのは彼ひとりの不幸ではない。
この問いが示しているのは、自分たちがどんな社会で生きるのか、子どもたちに何を手渡すのかという根源的な問題である。華人社会で続いているのは、アラン・ユーのためだけの行動ではない。自分たち自身のため、次の世代のため、そして正義が正義として通用する社会を守るための執念の戦いである。

「彼の存在を世界に知ってもらいたい」。
そうした思いから、世界各地の華人社会では、彼の映像が昼夜を問わずネット上で拡散され続けた。街頭には署名を呼びかける大型広告が掲出され、市民ボランティアによる街角での署名活動も各地で行われてきた。
「彼の名を世界に残さなければ、真相は埋もれてしまう」「忘れられた瞬間に終わってしまう」――。こうした危機感が共有され、声を上げ続ける行為そのものが、一つの闘いとして積み重ねられていった。

TC Candlerは、外見だけでなく、ネット上での話題性や注目度、ファンからの支持の広がりなどを総合的に考慮して順位を決めるとしている。そうした基準の中で、急逝後も消えることのなかった存在感と、それを支え続けた人々の行動が重なり、アラン・ユーは初めて選出された。追悼と問いかけを同時に背負った5位という結果は、今年のランキングの中でも異例の存在感を放っている。
(TC Candler「The 100 Most Handsome Faces of 2025」の結果発表の公式映像)
「せめて1度だけでも、彼に勝たせてあげたい」。
その言葉は、結果として一つの順位を生んだ。
だが、人々が本当に求めているのは勝敗ではない。
説明されないまま残された死に、納得できる言葉が与えられる日である。
アラン・ユー事件の真相究明を求めるAVAAZ署名。誰でも参加できる国際署名サイト(クリックで署名ページへ移動)
↓アラン・ユー(于朦朧)事件詳細はこちら↓



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