ミラノ五輪 世界女王 アリサ・リュウと谷愛凌 氷雪人生の価値観対決

2026/02/13
更新: 2026/02/13

2026年ミラノ冬季五輪で、フィギュアスケート世界女王、アメリカ代表のアリサ・リュウと、フリースタイルスキー世界女王、中国代表の谷愛凌(アイリン・グー)が、スポーツを超えた象徴的な存在として注目を集めている。

ともにカリフォルニア育ちの華人系アスリートだが、一人はアメリカ国旗を背負い、もう一人は「中国レッド」のユニフォームを纏うことで、米中の価値観対立を映し出す存在となった。

共通点:カリフォルニア、片親家庭

二人は少年期をカリフォルニアで過ごし、片親家庭で育ったという共通点を持つ。

SNS「X」上では、12歳のシャイなアリサと、14歳で既に長身だった谷が並んで映る古い動画が拡散し、当時は外見や雰囲気に大きな差はなかったと話題になっている。

どちらの親も、それぞれの事情から中国を離れてアメリカに渡った華人であり、二人はその後、世界の頂点に立つアスリートへと成長したが、人生の選択は大きく分かれることになった。

正確に言えば、4年前の北京冬季五輪の時点で、すでに二人とその家族は、異なる道筋をはっきりと選び取っていたのである。

分岐点:代表選択と「どの価値観に立つか」

谷愛凌は、もともとアメリカ代表として国際大会に出場し、2019年のワールドカップで金メダルも獲得していたが、同年6月、中国代表として競技する道を選んだ。

2022年北京冬季五輪では3種目で計2個の金メダルと1個の銀メダルを獲得し、現在も中国代表の「顔」としてミラノ大会に出場している。

一方、アリサ・リュウは13歳でアメリカ史上最年少の全米女王となり、2022年北京五輪に出場した直後、16歳で電撃引退を表明した。

その後リンクに復帰し、2026年ミラノ五輪では団体戦に出場、女子ショートプログラムで高得点を挙げてアメリカの金メダル獲得に大きく貢献した。

2026年2月6日、イタリア・ミラノのミラノ・アイススケート・アリーナで、2026年ミラノ=コルティナ・ダンペッツォ冬季五輪のフィギュアスケート団体戦・女子シングル・ショートプログラムが実施された。米国代表のアリサ・リュウ(Alysa Liu)は、力強い演技を披露した。(Matthew Stockman / Getty Images)

SNS上では、「アリサ・リュウと谷愛凌はまったく異なる道を歩んでいる。一人はアメリカと普遍的価値を選んだ自由な魂、もう一人は中国共産党(中共)の懐に飛び込み、米中双方の利益を享受する洗練された利己主義者だ」といった対比的なコメントも見られる。

かつて米下院議員候補だったリリー・タン・ウィリアムズ氏は、「華人系アメリカ人には、アメリカの価値観を大切にする人々と、中国共産党寄りの人々という2つのグループがある」と指摘し、そのうえで「アリサ・リュウは米国の愛国者であり、人を評価すべきは人種ではなく人間性だ」と強調している。

谷愛凌への批判:沈黙する人権問題と「二重基準」

今回、二人の対比が改めて脚光を浴びた直接のきっかけは、アメリカスキーヤーのハンター・ヘス選手が「アメリカ代表として五輪に出場することに複雑な感情がある」と語り、トランプ大統領が彼を「Real Loser(本物の敗者)」と批判した一件だった。

谷愛凌は試合後の取材でヘス支持を表明し、「大統領による政治的な批判はオリンピック精神に反する。攻撃された選手たちが気の毒でならない」と語ったが、これがアメリカ国内ネット世論の強い反発を招いた。

批判の焦点は、彼女が中国国内の人権問題には一切言及しない一方、アメリカ大統領を公然と批判している「二重基準」にある。

元NBA選手エネス・カンター・フリーダム氏は、「谷愛凌は自由な国で名声を築きながら、独裁国家を代表して出場し、強制労働施設と関わりのある企業の広告で金を稼いでいる。人権問題が話題になるたびに彼女は姿を消す。これは中立ではなく明確な選択だ」と投稿した。

ハドソン研究所のマイケル・ソボリック氏も、「米大統領を批判するスポーツ選手は珍しくない。しかし、谷愛凌が中国共産党によるウイグル人への迫害や政治犯の拘束を一度も批判してこなかったことこそ、『オリンピック精神』に反してはいないか」と疑問を呈した。

中国のテニス選手・彭帥による中共の高官張高麗への性的暴行告発など、国際的に注目された人権問題についても、谷は沈黙を守っている。

北京五輪以来、中国のネット上では谷愛凌への批判はタブー視され、ミラノ五輪の開幕に合わせて検閲は一段と強化された。

微博で「谷愛凌は結局どこの国の人なのか」と書き込めば投稿は即座に削除されるなど、彼女の名前そのものが「敏感ワード」として扱われていることがうかがえる。

中共の勧誘と脅迫を拒んだアリサ父娘

一方、2005年にカリフォルニア州リッチモンドで生まれたアリサ・リュウには、まったく異なる家族の物語がある。

父の劉俊氏は、1989年の天安門学生民主化運動に参加し、その後アメリカに政治亡命して弁護士になった人物である。

報道によれば、中共当局はかつて高額なトレーニング費用やスポンサー契約を提示し、アリサを中国代表に勧誘したうえ、圧力や脅しも加えたが、父娘はこれを断固として拒否したという。

劉俊氏は「私たちはアメリカを選んだ。なぜならここは自由とチャンスを象徴する国だからだ」と語り、この経験が娘を「誘惑を拒み、価値観に忠実であるアスリート」として際立たせたと振り返っている。

ある在米華人は、アリサの選択を「アメリカが自分たちに与えた庇護への、最高の恩返しだ」と語る。

アリサは2022年北京五輪に出場した際、中共当局による自分と家族への監視を察知しながらもアメリカ代表としてリンクに立ち、米政府は随行スタッフによる全面的な保護を提供したと報じられている。

当時、彼女は7位に終わったが、2026年ミラノ五輪では団体戦で金メダルを獲得し、「北京のときは試合が早く終わってほしいと思っていたが、いまは本当に楽しんでいる」と心境の変化を語っている。

2026年2月8日、ミラノ=コルティナ冬季五輪の2日目、フィギュアスケート団体戦の表彰式後、米国代表として金メダルを獲得したアリサ・リュウ(Alysa Liu)は、ミラノのスケートリンクで米国国旗を肩にかけ、喜びをあらわにした。(写真提供:Elsa / Getty Images)

国籍はラベルか、価値観の試金石か

中国共産党は表向き「二重国籍を認めない」と宣言しているが、実際には多くの華人系外国人選手を高額で招き、中国代表として起用してきた。

金メダルを獲得すれば「英雄」として祭り上げられる一方、成績が振るわなければ国内ネットで中傷の的となり、極端な「愛国狂熱」の標的にされる例も少なくない。

オリンピック憲章第41条は、出場資格として「代表する国の国籍を有していること」を定めている。

しかし、22歳の谷愛凌が米国籍を正式に放棄したという証拠はいまだ確認されておらず、「二重国籍を認めない」とする中共の公式立場との整合性をめぐる疑問は解消されていない。

過去のインタビューでは、谷愛凌が「誰も私をアメリカ人ではないと否定できないし、誰も私が中国人であることを否定できない」、「アメリカ合衆国にいる時は私はアメリカ人であり、中国にいる時は私は中国人である」と発言した。2022年2月8日の金メダル獲得後、二重国籍が禁止されている中国との「二重国籍疑惑」が報じられるなど論争の中、外国人記者から繰り返しアメリカ国籍の有無について問われるも、明言は避け続けていた。

谷愛凌は中国国内で最も人気のあるスター選手の一人であり、多数の国際ブランドの広告塔として莫大な収入を得ている。

『フォーブス』誌が2025年12月に発表した「世界で最も高収入の女性アスリートランキング」では、テニスのココ・ガウフ、アリーナ・サバレンカ、イガ・シフィオンテクに次ぐ第4位にランクインした。

谷愛凌の中国での主要スポンサーの一つである安踏体育用品は新疆ウイグル産の綿の使用を公言している。

2022年2月15日、北京冬季五輪でフリースタイルスキー女子スロープスタイル決勝に臨む中国代表の谷愛凌(Marco Bertorello/AFP/Getty Images)

米中間の綱引きにおいて問われているのは、単なるメダルの色や年収の多寡ではなく、「価値観の勝者は誰か」という点だという指摘もある。

北京駐在のある外国メディア記者はX上でこう書いた。「結局のところ、氷雪の舞台の外で真の勝者となるのは、金銭ではなく良心を選んだ人々である」と。

アリサ・リュウと谷愛凌の対照的な歩みは、「国籍とは単なるラベルではなく、どの価値観を守るのかを示す試金石である」という事実を、あらためて世界に問いかけている。

林燕