新FRB議長がインフレ対策で「体制転換」を表明 

2026/05/19
更新: 2026/05/19

 「4、5年前にさかのぼる致命的な政策の誤りが、依然として我々が向き合うべき遺産として残っている」とケビン・ウォーシュFRB議長は述べた。

 

新たに就任が承認されたケビン・ウォーシュ連邦準備制度理事会(FRB)議長は、インフレと闘うための新たな戦術を打ち出したが、物価上昇の抑制に向けた道のりは険しい。

ウォーシュ議長は4月21日の上院承認公聴会で、前議長ジェローム・パウエル氏のもとでのFRBについて「政策運営における体制転換」を呼びかけた。パウエル氏の在任中、年間インフレ率はバイデン政権下で8%を超え、2021年以降はFRBの目標を下回る水準に抑えることができていない。

ウォーシュ議長は「いったんインフレが経済に定着してしまうと、それを引き下げるのはより費用がかかり、より困難になる。したがって4、5年前にさかのぼる致命的な政策の誤りは、依然として我々が向き合うべき遺産として残っている」と語り、勤勉な米国民が間違いなくその影響を実感している、と続けた。

米国民は、物価上昇が賃金の伸びを上回るなかで苦しんでいる。4月時点のインフレ率は3.8%で、FRBが設定する2%の目標を依然として上回り続けている。

新議長のインフレ抑制策はどのようなものか。アナリストらは、ウォーシュ議長が異なるアプローチを取ると予想している。それには、6兆8千億ドルに上るFRBの巨額の債券保有の圧縮、量的緩和より金利操作の優先、そして他の指標よりマネーサプライを重視する方針が含まれる。

投資銀行家で元FRB職員のクリス・ウェイレン氏は大紀元(エポックタイムズ)に対し、ウォーシュ議長はFRBのバランスシート縮小を進め、この「引き締め」を交渉材料として連邦公開市場委員会(FOMC)に短期金利の引き下げを促す可能性が高いと述べた。同氏によれば、量的緩和の弊害に関するウォーシュ議長の発言は極めて明確だという。

安価なドルが残した遺産

トランプ大統領の第1期政権の短い期間を除き、FRBは2008〜09年の住宅ローン危機以降、安価な資金供給戦略を追求してきた。政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利をゼロ近傍に据え置き、インフレ率が2桁に迫った2022年になって初めて利上げに踏み切った。同時に、FRBは量的緩和(QE)と呼ばれる実験的政策を進め、資金を創出して大手金融機関から債券を買い入れ、米経済にドルを大量に供給した。

2008年から2022年にかけて、FRBはバランスシート上に8兆ドルの新規金融資産を積み上げ、事実上、世界最大級の資産運用機関、そして米国債の単独最大保有者へと姿を変えた。ウォーシュ議長は量的緩和を一貫して批判してきたことから、多くのエコノミストは同議長がこの政策の転換とバランスシートの縮小を図ると予想している。

ウォーシュ議長は承認公聴会で「FRBには金利という手段とバランスシートという手段がある。バランスシートの手段は金融資産を持つ者を不均衡に利し、金利の手段は経済全体に影響を及ぼす」と述べた。

量的緩和と低金利は住宅ローン危機やパンデミック下のロックダウンを受けた需要を下支えした一方で、株式、債券、住宅といった資産価格を押し上げ、富裕層に恩恵をもたらした。同時に多くの米国民の生活水準は低下し、その手にするドルの価値は過去5年間で20%以上目減りした。

米経済研究所(AIER)のエコノミスト、ジュリア・カートライト氏は大紀元に対し、インフレの主要な要因はFRBによるマネーサプライの拡大であり、新議長のウォーシュ氏はこの点について繰り返し言及してきたと述べた。

カートライト氏によれば、FRBは2020年から2022年にかけて新型コロナウイルス対策の給付金の財源を賄うため、約6兆4千億ドルの新規通貨を経済に注入した。今日の米国のマネーサプライ全体の約29%は、2020年1月以降に創出されたものだという。

「これに加えて、イラン紛争がホルムズ海峡を封鎖し、日量約2千万バレルの原油と世界の液化天然ガス(LNG)取引の5分の1を混乱させ、エネルギー、肥料、プラスチック、食品、そして経済のあらゆる投入物価格を押し上げている」とカートライト氏は語った。

マネーサプライを追え

イラン戦争と関税が物価を押し上げているとはいえ、ジョンズ・ホプキンス大学経済学教授で、レーガン大統領の経済諮問委員会(CEA)委員を務めたスティーブ・ハンケ氏は、インフレは本質的に貨幣的現象であり、過剰な貨幣が不足する財を追いかける問題だと主張した。

ハンケ氏は大紀元に対し、インフレを再びびんに封じ込めるためには、FRBが依拠しているポスト・ケインズ派の経済モデルを捨て、貨幣数量説と広義のマネーサプライに目を向け始めなければならない、と述べた。

ハンケ氏によれば、FRBは年率2%のインフレ目標達成と整合的なマネーサプライ伸び率を目標とすると表明すべきだという。貨幣数量説に基づけば、これにはM2の伸び率が年率6%程度であることが求められる。

M2のマネーサプライ指標には、現金、銀行預金、譲渡性預金(CD)や短期金融資産投資信託(MMF)など現金に容易に転換できる資金が含まれる。米国の低インフレ期にあたる2008年から2020年にかけて、マネーサプライ(M2)の年平均伸び率は6.11%、消費者物価指数(CPI)で測ったインフレ率の平均は1.77%だったとハンケ氏は説明する。

実際、ウォーシュ議長はインフレの測定と制御にあたり、短期的な物価変動を超えた異なる指標に注目していくと示唆している。

ウォーシュ議長は承認公聴会で上院議員らに対し、自身が最も関心を持っているのは、地政学的情勢の変化や牛肉価格の変動による一時的な物価変化ではなく、基調的なインフレ率がどのような水準にあるかである、と述べた。

供給サイドの力

トランプ政権はFRBのインフレ対策をどのように支援できるのか。エコノミストらは、規制緩和の継続、関税の引き下げ、エネルギー供給の拡大、そして政府支出の削減といった供給サイドの政策を求めている。

「赤字財政はFRBにマネーサプライの拡大を迫り、金利を必要以上に高い水準に維持することになる」とカートライト氏は述べた。

同氏はまた、トランプ政権が最近インテルなどの企業に出資していることを念頭に置きつつも、民間産業に対しては不干渉のアプローチを取るべきだと主張した。

カートライト氏は、機能する経済では企業はまず価格を引き下げることで競争し、競争が激しいほど価格は下がり消費者の利益になると指摘した。物価上昇の最も根強く、かつ過小評価されている要因は、補助金、企業向け優遇措置、関税、産業政策といった、市場の判断をワシントンの判断に置き換える政府の競争への介入である、と同氏は述べた。

最後にエコノミストらは、政治家はFRB当局者にインフレ抑制前の利下げを迫るのではなく、FRBにインフレとの闘いに専念させるべきだと指摘する。

ハンケ氏は、トランプ政権が取るべき最善の策は金融政策について沈黙を守ることだと述べた。同氏は、レーガン大統領が当時のFRB議長ポール・ボルカー氏に金融政策の手綱を委ね、関与しなかったのと同じことを行うべきだ、と語った。

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。