中国で20代・30代のうちから遺言書を作成する若者が急増している。中華遺言データベースの調査では、30歳未満の遺言書作成者は前年比42.3%増、平均年齢は13年連続で低下した。背景には晩婚化や家族構成の変化、そして不動産・預金だけでなくゲームアカウントやペットの世話まで書き残す「新しい遺言書」の広がりがある。
「遺言書を作りたい」。26歳になったばかりでインターネット業界に勤める姜さん(仮名)は先日、杭州インターネット公証処を訪れ、遺言書について相談した。友人が突然の事故に遭ったことがきっかけだった。事故のリスクは年齢に関係ないと感じたという。近年、姜さんのように自分から遺言書を作る若者が増えている。
『潮新聞』の報道によると、姜さんは次のように話す。年配の世代は死後の話を避け、遺言書を縁起が悪いものと考えがちである。しかし多くの若者にとって、遺言書は人生でやり残したことを事前に整理しておくためのものである。悲観的な意味はなく、むしろ冷静なリスク管理の一つだという。
姜さんのように自分で死後の準備をする若者は、特別な例ではない。中華遺言データベースがまとめた『2025年度白書』によると、中国で遺言書を作る人の平均年齢は13年連続で下がっている。30歳未満で遺言書を作った人の数は、2024年と比べて42.3%増えた。また、この1年間に登録された「2000年以降生まれ」の遺言書は200件を超えた。
高齢者中心から中高年、そして若年層へ
杭州インターネット公証処の潘偉珠副主任は、「遺言書を作ることは、もう高齢者だけのものではない。どの年代にとっても、人生設計や資産管理のための大切な手段になりつつある」と話す。
潘副主任によると、2006年にこの仕事を始めたころ、相談に来るのはほとんどが70代から80代の高齢者だった。目的の多くは、不動産を子供たちに公平に分け、争いを防ぐことだった。しかし今では、18歳になって一人で法律上の手続きができる能力を持つ若者が相談に来ることも珍しくないという。
潘副主任は、2015年ごろから中高年層が遺言書を作る中心的な世代になったと説明する。特に、親の介護と子育てを同時に担う家庭で、リスクへの意識が強まったという。また、晩婚化や未婚化、離婚や再婚をする家庭の増加といった家族の変化により、財産を誰に残すかを自分で決めたいと考える若者も増えている。
例えば、ある30歳の女性は結婚前に遺言の公証を済ませた。自分が亡くなった場合、自分名義の不動産と預金はすべて両親に残すと決めた。この不動産は、両親が長年ためたお金で買ったものである。女性は、万が一自分に何かあっても、両親の生活を守りたいと話した。
潘副主任によると、結婚前は財産を両親に残す人が多い。しかし結婚したり子供が生まれたりすると、遺言書を作り直し、財産を配偶者や子供に残すよう変える人も多いという。このため遺言書は、一度作って終わりのものではなく、人生の節目に合わせて見直していく大切な法的文書に変わりつつある。
結婚や出産で書き直す人も増加
さらに近年は、独身の人や結婚しない人、離婚後に一人で暮らす人も増えている。遺言書だけでは十分に対応できない場合も多い。そこで、「任意後見」と遺言書を組み合わせたサービスが、上海や杭州などで注目され始めていると潘副主任は話す。
「意定監護」とは、本人が判断能力のあるうちに、信頼できる人をあらかじめ選んでおく制度である。病気や事故で本人が判断できなくなった場合、その人が代わりに医療の判断や介護、財産の管理を行うことができる。死後にしか効力を持たない遺言書の弱点を補う仕組みである。
ゲームアカウントやペットも相続対象に
遺言書を作る人の若年化とともに、その中身にも変化が見られる。
これまでは不動産や預金といった従来型の財産が中心だった。しかし最近は、ゲームのアカウント、ペットの世話、寄付、臓器提供の意思、葬儀の希望などを書き残す若者が増えている。
姜さんも、不動産や預金、投資信託に加えて、高校時代から続けているオンラインゲーム『夢幻西遊』のアカウントについて遺言書に記した。これまでに10万元以上(日本円で約200万円以上)をつぎ込み、アカウントには珍しい装備を数多く持っているという。万が一事故に遭った場合は、10年来の付き合いがあるゲーム仲間にアカウントを引き継いでほしいと姜さんは話す。
姜さんは、「若者にとって遺言書は、財産を分けるためだけのものではない。気持ちを託し、人生の思い出を残す手段でもある」と述べた。
デジタル資産相続の課題と限界
ただし、ゲームアカウントなどデジタル資産の相続には、実際には難しい問題が多いと潘副主任は指摘する。多くのインターネットサービスの規約では、アカウントの所有権は運営会社にあり、利用者には利用する権利しかないとされている。そのため、遺言書に相続人を書いても、実際の引き継ぎはサービス側の規約に左右されることがある。多くの場合、遺言相続の公証手続き、場合によっては裁判所の判断が必要になるという。
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