中国AIの違法「蒸留」 ダークウェブに拡大 Anthropicが警告

2026/09/04
更新: 2026/09/04

米中のAI競争は、モデルの性能や価格だけでなく、モデルの蒸留や不正アカウント、輸出規制、国家安全保障をめぐる攻防にも広がっている。米AI大手Anthropicは、一部の中国AI企業について、「競争ではなく窃盗だ」と批判している。

9月3日、CNBCは中国AI企業による脅威について、Anthropicの脅威インテリジェンス責任者ジェイコブ・クライン氏にインタビューした。

クライン氏によると、中国の多くのAI研究機関の周辺では、ダークウェブでの取引や不正アカウント作成を含む地下ネットワークが存在し、違法・不正な手段でClaudeへのアクセスを得ようとする動きがあるという。

関係者はダークウェブ上で、盗まれたクレジットカード情報や乗っ取られたAIアカウントを購入し、それらを使って大量の新規アカウントを作成。AIサービス事業者が設ける地域制限や決済上の制限などをかいくぐっている。

クライン氏はCNBCに、Anthropicは「Claudeやその他のモデルへのアクセスを得ようとする、違法な地下ネットワークが存在している」と語った。

「このネットワークは、当社の制限をあらゆる手段でかいくぐり、大量のアカウントを作ろうとしている」

Anthropic、Moonshotを名指し Claudeの出力を大量取得か

クライン氏は中国AI企業Moonshotを名指しし、同社が「数万、場合によっては数十万の不正アカウントを作成している」と述べた。

こうしたアカウントはAnthropicのシステムにアクセスすると、Claudeに大量の質問を送り、その返答を収集する。得られた回答は、自社のAIモデル、いわゆる「学生モデル」の訓練に使われるという。

一般ユーザーの利用は数十回程度にとどまる一方、不正利用者は数千回に及ぶ質問を送り、さらに数千のアカウントを使って同様の操作を繰り返すケースがある。

Anthropicは、こうした行為をClaudeに対する違法な「蒸留」と呼んでいる。

AI開発における蒸留とは、高性能な「教師モデル」の出力を使い、より低コストで小規模な「学生モデル」を訓練する手法を指す。この手法自体は必ずしも違法ではない。

ただし、盗用した決済情報や偽アカウントを使ったり、アクセス制限を回避したりするなど、無断でモデルの出力を取得した場合、詐欺や利用規約違反、知的財産権侵害、輸出規制違反などにつながる可能性がある。

中国から不正な「蒸留」相次ぐ AI業界全体の課題に

クライン氏によると、Anthropicは中国から同様の不正利用が大量に行われていることを確認している。

中国のAI研究機関は、こうした手法で自社モデルを訓練し、その後、アメリカの最先端AIと競合する製品を、より低価格で提供しているという。

クライン氏は、AIサービス事業者にとってこの問題は「モグラ叩きのような状態だ」と説明する。プラットフォーム側が不審なアカウントを特定して停止しても、不正利用者は新たな決済情報やアカウント、インフラを使って再びサービスへのアクセスを試みるためだ。

クライン氏は「中国からの同様の事例を数多く確認している。これは業界全体が直面している問題だ」と語った。

AnthropicはこれまでにもMoonshotを名指しし、同社のKimi K3の訓練に最新版Claudeの出力を不正利用した可能性があると指摘している。

また、DeepSeek、MiniMax、アリババ傘下の千問(Qwen)についても、同社の最先端モデルを不正に蒸留したと主張してきた。

これらの中国企業はCNBCのコメント要請に応じなかった。

Anthropic「競争は歓迎するが、これは窃盗に近い」

AI業界では、蒸留をめぐる議論が続いている。

一部のテクノロジー企業は、過度な規制によってAIモデルの開発や低価格化を妨げるべきではないと主張する。一方で、他社モデルの出力を無断で利用する行為への対策を強化し、知的財産の窃盗を厳しく取り締まるよう政府に求める業界関係者もいる。

クライン氏は、Anthropicは競争そのものを歓迎しており、蒸留も合法的な形で行うことは可能だとした上で、中国企業によるこうした行為については「競争というより窃盗に近い」と述べた。

また、不正な蒸留によって、本来利用できない高性能モデルにアクセスし、その性能を取り込んだ場合、国家安全保障上の問題につながる恐れがあると警告した。

こうした技術は、悪意ある組織や個人によって、大規模監視や生物兵器開発に悪用される可能性があるという。

クライン氏は、中国のある組織がAnthropicの技術を悪用し、大規模なスパイ活動を行った事例にも言及した。

「競争は良いことだと思う。しかし、誰かがわれわれのモデルを盗み、不正な手段で蒸留を行い、盗んだクレジットカード情報やインフラを使って数百万もの偽アカウントを作り、その上で安全対策のないモデルを開発するのであれば、それこそ懸念すべきことだ」

膨大なAI利用に紛れる不正アクセス 検知は困難

サイバーセキュリティ企業Armadinの最高技術責任者(CTO)で、元Googleエンジニアのトラビス・ランハム氏は、大規模なAIプラットフォームでは1日に数十億回のリクエストを処理するため、悪意あるリクエストが数百万件に上っても、膨大な正規の利用に紛れ込み、発見が難しくなる可能性があると指摘した。

AI企業は、不正アカウントや自動化された悪用を防ぐ一方、競争が激化するなかでサービスの利便性を保ち、誰でも使いやすい環境を維持する必要もある。

ランハム氏は、こうした事情が不正アクセスへの対策をさらに難しくしているとの見方を示した。

林燕