中国 ある日突然、誰かの「妻」にされた

中国農村「拾われた妻」

2026/11/03
更新: 2026/11/03

女性を「拾ってきた」と言い、そのまま妻にする。逃げれば連れ戻し、逆らえば殴る。子供を産ませ、何十年も故郷に帰さない。

日本ではにわかに信じがたい話だが、中国の農村では、こうした境遇に置かれた女性たちが、今も見つかっている。

彼女たちにも、かつて名前を呼んでくれる家族がいた。帰りたい家があり、自分で選べたはずの人生があった。

 

左は、中国の女性人身売買の実態を記録した1989年出版の書籍『古老的罪悪(古くから続く罪悪)』。右は2022年、江蘇省徐州市で首を鎖につながれた状態で発見され、「鉄鎖女事件(鎖につながれた女性事件)」として中国社会に衝撃を与えた女性。女性が「妻」として売られる問題は、数十年を経てもなお中国で繰り返されている(大紀元合成)

 

「道端で拾った妻」と30年

今年9月、中国山西省の農村で、約30年前に「道端で拾われた」という女性の存在が明らかになった。

女性は65歳だという。身分証はなく、出身地も分からない。

女性の「夫」を名乗る男性によると、約30年前、叔父が女性を道端で見つけて連れてきて、自分の妻にしたという。

女性は逃げようとしたが連れ戻され、男性は「言うことを聞かない」として殴ったことも認めた。さらに、女性の存在について「地元当局も知っている」と語った。

 

中国山西省の農村で、約30年前に「拾われた」とされる身元不明の女性と、その生活環境(動画のスクリーンショット)。2026年9月17日、山西省長治市壺関県。

 

 26年ぶりに見つかった北京の女性

今年9月には、北京で行方不明になった孫美華さんが、26年ぶりに家族のもとへ戻った。

かつて英語を話し、貿易関係の知識も持っていたという孫さん。山東省の農村で見つかったときには、白髪が増え、会話も難しい状態になっていた。

それでも、彼女の記憶には、消えずに残っていたものがあった。自分の名前。家族の名前。そして「北京」という文字。

支援者たちは、そのわずかな手がかりを頼りに家族を捜した。ようやく身元が判明し、孫さんは兄と再会した。しかし、両親はすでに亡くなっていた。

孫さんは、なぜ北京から遠く離れた農村で、26年間も暮らしていたのか。

村人からは、男性に性的に搾取され、金もうけに利用されていたとの証言も出ている。人身売買が強く疑われる事件だが、当局による詳しい調査結果は明らかにされていない。

ようやく家族のもとへ帰れた孫さん。しかし、失われた26年間も、もう会えない両親との時間も、取り戻すことはできない。

 

26年間行方不明だった北京出身の孫美華さん。失踪前の姿(左)と、山東省の農村で発見された際の姿(右)。(ネット画像)

 

 13年間の失踪 問われた「妻」の意思

2026年11月には、山西省で13年間行方不明だった修士号を持つ女性の事件が、再び注目を集めた。

女性は精神的な病気を抱え、失踪当時は自分の身を十分に守れない状態だったという。

発見されたとき、女性は村の男性と暮らし、子供を産んでいた。さらに、別の村民2人から繰り返し性的暴行を受けた疑いが浮上し、刑事裁判になった。

一方、長年同居していた男性について、検察は2026年1月、家庭を築く目的で一緒に暮らしていたことなどを理由に、起訴しないと決めた。

女性には、性的な行為について自分の意思を十分に示したり、身を守ったりする能力がなかったと鑑定されていた。

それなのに、長年一緒に暮らし、子供が生まれたことを、本人が望んだ関係だったと考えてよいのだろうか。「妻」と呼ばれていたことと、本人が妻になることを望んだかどうかは、まったく別の問題だ。

 

13年間行方不明だった中国の大学院修了女性。発見前(左)と保護後(右)の比較写真。家族は虐待を受けていた疑いを訴えている。(ネット画像)

 

中国女性の苦難を象徴する「鉄鎖女」(鉄の鎖につながれた女性)

2022年1月、江蘇省徐州市の農村で、一人の女性が発見された。真冬の寒さの中、薄着のまま、首には鉄の鎖。電気も水道もない小屋に閉じ込められていた。

女性は人身売買によって何度も売られ、最後に行き着いた家で8人の子供を産んでいた。「鉄鎖女(鉄の鎖につながれた女)」と呼ばれたこの女性の映像は、中国のSNSで瞬く間に広がった。

この事件で、多くの人の心に深く刻まれたのは、女性が発した一言だった。

「この世界は、私を捨てた」

どれほどの苦しみを味わえば、人はこんな言葉を口にするのだろう。

その悲痛な言葉に、多くの人が胸を痛めた。

「世界は、あなたを捨てていない」。そう書いたカードを掲げ、女性を励まし、救出を求める人々が相次いだ。海を越え、海外でも彼女のために声を上げる人たちが現れた。

米国在住の彫刻家・陳維明氏は、この女性を題材にした彫像を制作した。首に鎖を巻かれ、悲しげに立つ女性。その背後には、彼女を押しつぶすかのように、巨大な「中国」の文字がそびえている。

それは、一人の女性の苦しみだけでなく、彼女を救えなかった社会そのものに問いを投げかける作品だった。

 

在米の彫刻家・陳維明氏が製作した「鉄の鎖の女性」の彫像(同氏のツイッターより)

 

事件から4年以上が過ぎた今も、3月8日の国際女性デーが近づくと、華人圏のSNSでは彼女の写真が繰り返し投稿される。

人々が忘れようとしないのは、「女性の権利は本当に守られているのか」という問いが、まだ終わっていないからだ。

2023年、「夫」とされる董志民には、虐待と不法監禁で懲役9年の判決が下された。女性の売買に関わった5人にも実刑判決が言い渡された。

しかし、そこで事件が終わったわけではない。

女性は精神科病院で治療を受け、その後も外部から本人の様子を確かめることは難しい状態が続いた。現在、どのような生活を送り、どこまで自由を取り戻せたのか、詳しい状況は明らかになっていない。

あれほど多くの人が、彼女を救いたいと願った。「世界は、あなたを捨てていない」と声を上げた。

それでも、その声が彼女に届いたのかさえ分からない。

鎖は外された。加害者にも判決が下された。けれど、彼女は本当に自由になれたのだろうか。

 

中国江蘇省の農村で2022年2月に発見された、少女の頃に拉致され人身売買されてきたと見られる中年女性。「鉄の鎖の女性」と呼ばれる女性(中国のネットより)

 

 今なお続く罪と沈黙

これらの女性たちは、必ずしも誰にも見つからない場所に隠されていたわけではない。

村で暮らし、子供を産み、周囲にはその存在を知る人がいた。それでも、何年も、何十年も、故郷に帰れなかった。

中国の一部農村では、結婚相手を見つけにくい男性のために女性を売買する犯罪が長年問題となってきた。

しかし、女性がどこから来たのか、本人はここにいたいのか、家族が捜していないのか。そうした問いが置き去りにされ、「その家の妻」として扱われてきた。

女性が逃げようとしても、身元が分からなくても、暴力を受けていても、それが「よその家のこと」として見過ごされ、被害は何十年も続いた。

明るみに出た事件は、氷山の一角にすぎない。今も中国のどこかで、誰かの「妻」として自由を奪われ、助けを待ち続けている女性たちは、決して少なくないはずだ。

彼女たちの悲劇は、過去の事件ではない。今も続いている人権侵害なのだ。

李凌
中国出身で、日本に帰化したエポックタイムズ記者。中国関連報道を担当。大学で経済学を専攻し、中国社会・経済・人権問題を中心に取材・執筆を行う。真実と伝統を大切に、中国の真実の姿を、ありのままに、わかりやすく伝えます!