北朝鮮問題があぶり出した日中韓の国家体質

2006/08/13
更新: 2006/08/13

【大紀元日本8月13日】7月5日の北朝鮮のミサイル発射は、国際社会による北朝鮮非難をこれまで以上に高めることになった。同時に、北朝鮮に対する日中韓3カ国の反応を観察することもでき、それを注視することによって、その国の国家体質がどんなものであるかを見極めることを可能にした。北朝鮮という病んだ国家が、期せずして、ある種のリトマス試験紙のような働きをし、日中韓3国の理念や本質を白日の下にさらけ出すといった役割を果たしたのだ。そこで、今回さらけ出された3国の国家体質といえるものを考察しながら、以下に北朝鮮問題に関する私見を述べてみたい。

病める中国

北朝鮮に対して一番の影響力を持ち、同時に最大の擁護国であるのは中国だということに異論を挟む人はいないだろう。事実、ミサイル発射直後に開かれた国連安全保障理事会では、当初拘束力のないプレス声明の発表のみにとどまることを主張し、日本が中心となって採択に向け提出した北朝鮮制裁決議案に真っ向から対立した。さらに、制裁決議案が採決に持ち込まれた場合には拒否権の発動も辞さないという強い姿勢を示し、北朝鮮擁護の立場を改めて国際社会に明らかにした。

拉致やミサイル発射など、北朝鮮が引き起こすさまざまな問題の最大の被害者は日本であると、とかく論じられがちだ。しかしよく考えてみると、一番苦しい立場に追い込まれているのは中国だということが見えてくる。

経済の発展と国家的行事の成功を実現させながら、国際社会での存在感を高めていくことは中国の国家最優先事項だ。2008年の北京五輪開催、2009年の建国60周年、2010年の上海万博、広州アジア競技大会の開催といった国家的な大行事を目前にして、隣国・北朝鮮が大混乱を巻き起こすようなことは絶対に許すことができない。ところが、国際社会での存在感が増していくのと同時に、その代償として地域内のステークホルダーとしての責任を負わされる機会も増えてきている。国際社会への責務を果たすことなく自国の利益ばかりを追求していては大国にはなれないというのが国際社会の常識だが、こうした国際社会の法則と中国自身が抱え込む矛盾が、現在、解消しがたいジレンマを中国に与えるようになっている。

中国自身が抱え込む矛盾のうち、代表的なものの1つが、北朝鮮と「血盟」という特殊な関係を結んでいることだ。中国はこの血盟関係に縛られているので、今のところ北朝鮮がどんなに愚かな行為に及んでも表立って非難することができていない。その一方で、北朝鮮が不穏な動きをするたびに、同盟国として北朝鮮との交渉役になることを国際社会から暗黙のうちに求められ、北朝鮮が国際秩序を乱さないよう説得する役割を担わされている。まさに、ここに中国が乗り越えることのできない障害が存在している。

国際社会は、北朝鮮問題の解決にあたり、中国に大きな役割を果たしてもらいたいと期待しているように見える。しかし、中国に期待するのには無理がある。なぜなら中国という国家は、自らが批准している国連難民条約といった国際法を遵守することなく、一貫した非人道的姿勢で脱北者を強制送還してしまうような国であり、また北朝鮮と同じような共産党一党独裁体制の国でもあるからだ。つまり中国は、北朝鮮と同源の病を患っており、そういった国が国際社会の期待に応えられるはずがないのだ。

今後も北朝鮮が引き続き問題を起こすたびに、中国は北朝鮮との交渉役を引き受けなくてはならないだろう。そのたびに北朝鮮を非難する立場を取ることができず、自身の病んだ体質を世界にさらけ出す結果になる。国際社会からは北朝鮮と同類国と見なされ、いま以上に苦しい立場に追い込まれていく。北京五輪や上海万博などを控え、中国にしてみればそれらの国家的行事を成功裏に終了させたいところだろうが、今にも導火線に火がつきそうな大きな爆弾を背負い、果たして思い通りに物事を運ぶことができるだろうか。中国は極めて困難な状況の中に立たされている。

迷走続く韓国

今回のミサイル問題では、韓国の盧武鉉政権も自らの病んだ国家体質を世界中にさらけ出す結果となった。韓国政府は、ミサイル発射について北朝鮮を非難することを一切しなかったばかりか、ミサイル発射に関して断固とした態度を取った日本の姿勢を「過剰反応」として非難する側にまわった。李鍾奭(イジョンソク)韓国統一相にいたっては、アメリカの強行姿勢が北朝鮮をミサイル発射に踏み切らせたと発言し、アメリカの対北政策を非難する態度を表明した。さらには盧武鉉大統領が李統一相の発言を擁護するという常軌を逸した状態が、現在の韓国のありようだ。

韓国国内での盧武鉉政権に対する支持率は低下したままの状況が続いている。国民の多くが現政権を支持していないのは明らかだが、韓国国民にとって不幸なのは盧武鉉政権の任期がまだ1年半も残っていることだ。現政権が続く限り、親北融和政策は固持され、今後も韓国の迷走ぶりは続くだろう。その間、北朝鮮との融和が一層進んでしまうといった危険性は拭い去れない。

韓国はれっきとした民主主義国家である。民主主義国家がその国民の意思として民族主義を優先させ、北朝鮮という病める国家との融合を望むなら、それはそれで彼らの選択であり、他国が干渉すべきことではない。しかし、韓国が北朝鮮のような国家に絡め取られていくのを見るのは残念なことだといわざるを得ない。次の韓国大統領選挙は、韓国にとって歴史的な選挙になるのは間違いない。民主主義国家の一員として、韓国国民が北朝鮮という病に冒されることなく正しい選択を行なうことを願うばかりだ。

北朝鮮人権法の成立

では、日本の北朝鮮に対する立ち位置とはどんなものなのだろうか? それをもっとも分かりやすい形で示したのが、先の通常国会で可決された北朝鮮人権法といえる。

この法律は、拉致問題解決に重点を置いた自民党と、脱北者の保護・支援に重点を置いた民主党が、両党の法案のすり合わせを行なった結果、「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律」として成立させた法律である。

本法において、拉致問題解決に向けて政府が最大の努力を行なうことが義務づけられたのは当然のことだが、特に注目すべきは、この法律が北朝鮮から脱出してきた北朝鮮難民たちへの支援や保護についても明記している点だ。

この北朝鮮人権法は、特に東北アジアにおいて、非常に価値のある歴史的な法律と言えるのだが、その一方で批判的な評価をしている人たちがいるのも事実である。それらの批判をまとめてみると主に以下の3つに集約されるようである。

①「拉致を行なった国の国民をなぜ助ける必要があるのか」

②「脱北者を受け入れれば、彼らに紛れて北の工作員をも受け入れることになる」

③「北朝鮮からの難民を大量に受け入れれば治安が悪化する」

ところが、こうした懸念や批判は的確さを著しく失している。

まず①に対してだが、北朝鮮という国家とそこに住む国民たちを一緒くたにすることは誤りであるといえる。北朝鮮を逃れてきた脱北者たちは、金正日独裁政権の被害者であり、彼らを助けるということは金正日に対し断固たる日本の姿勢を示すことになる。そして、日本が脱北者の保護・支援を行なっているかぎり、日本が北朝鮮に対する制裁を強めたとしても、「日本は北朝鮮人民を困難に陥れている」といった北朝鮮からの批判を一切はねつけられるといった効力も発する。さらに言えば、今、北朝鮮からの難民を人道的な観点から保護し、支援するということは、今後も東北アジアで起こりえる反日的な動きを封じ込めるための反証事例を築きあげることにもなり、将来にわたり大きな意味を持つようになる。このことだけを見ても、この法律がどれほど画期的なものであるかをうかがい知ることができる。

次に②に関しては、日本に受け入れる脱北者は、日本から北朝鮮に渡った元在日朝鮮人とその家族、または日本人妻に限るという形で、当面は対処すれば問題はない。その際には、偽装が起きないように、日本に残された戸籍や帰国船名簿のチェックなどを日本入国前にしっかり行なえばいい。実際、これまで日本に入国した脱北者に対しては、このような身元調査が行なわれており、特に問題は起きていない。

最後の③について言えるのは、北朝鮮から100万人単位の大量難民が自力で海を渡り、日本に押し寄せてくるといった状況はありえないということだ。仮に、100万人単位の大量難民が発生するとすれば、それは北朝鮮が崩壊するときであり、そうなれば妨害を受けることなく北朝鮮国内での支援活動を行なうことが可能になる。中国などに一時的に避難した難民たちも自国において国際的な支援が受けられるとなれば、生まれ育った土地に戻ってくると考えるのが自然だろう。

もちろん、そのうちの何人かは北朝鮮以外での定住を求めるかもしれない。そして、その大半が言葉も民族も同じである韓国を目ざすのは確かだ。日本へ渡ってくる難民たちもいるだろうが、どんなに多くてもせいぜい10万人ほどだろう。そうであれば10万人を上限として、受け入れを表明すればいい。世界第2位の経済力を持つ先進国たる日本が、そのくらいの数の難民を受け入れらないのなら、むしろそちらの方が大問題だ。

金正日独裁政権がこのまま永久に存続することはどう考えてもありえない。遅かれ早かれ破滅の日がやってくる。そうした状況の中で日本が決して取ってはならない行為は、現在の中国や韓国が行なっているような金正日独裁政権に対しての延命行為だ。こうした行為は、将来必ずや東北アジアの歴史に汚点として記されることになるだろう。日本は汚点を残してはならない。

以上の事柄を踏まえ、日本政府はNGOなどの民間団体とも緊密に連携を取りながら、北朝鮮によって拉致された日本人の奪還をめざし、北朝鮮難民の支援・保護にも力を入れるという断固たる姿勢を引き続き北朝鮮に対して示すべきだ。そうすることが東北アジアにおける日本の国家としての正当性をこれまで以上に確固たるものとし、さらには日本が行なった北朝鮮難民に対する人道的な行為が、正義として東北アジアの歴史に刻まれることになる。

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