カダフィ政権崩壊 中国政府、「社会不安に陥る」と世論誘導 専門家反論

2011/08/26
更新: 2011/08/26

【大紀元日本8月26日】リビアカダフィ、イラクのフセイン、チュニジアのアリー、エジプトのムバラク、スーダンのバシル、北朝鮮の金正日。世界で悪名高きこれらの独裁者には1つの共通点がある。それは、彼らはみな中国共産党政権の盟友だ(った)ということだ。

そのためか、遠く離れた北アフリカで独裁政権が倒される政変が起きるたびに、北京の反応が注目の的となる。北京の共産党政権も国内に対し、勝るとも劣らない独裁ぶりを見せつけており、国際的にはこれらの独裁政権をぎりぎりまで支持する。「外交は内政の延長」ということだ。

革命が『社会動乱』をもたらす」

42年間に及ぶカダフィ大佐の独裁政権の崩壊に対し、中国外務省は22日、「リビア国民の選択を尊重する」と発言した。3月に連合軍によるカダフィ派への攻撃に強い反発を見せていた中国政府の態度は、事態の展開が不明瞭になった6月に、リビア反体制派に接近して二股外交へと変わる。そして、カダフィ政権の崩壊後にはすばやく反体制派を容認する姿勢を前面に出し、中国企業の投資利権の確保に躍起となる。

当然、「尊重」と「容認」は自身の権益のために、中国政府がしぶしぶ作った「建前」である。共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報は22日の社説で、腹に据えかねる「本音」を吐露した。「西側はアラブ世界を『暴力革命』の道に導いている。(中略)この6か月間の戦争の間にも、政治で解決できるチャンスはたくさんあった。西側はリビアの強権政権(原文、強人政権)を倒すことに固執した結果、それらのチャンスが実ることはなかった。西側の姿勢がこの衝突を血まみれなものにした」と批判した。

中国政府系メディアのこの報道姿勢は連合軍の介入当時から変わっていない。中東のTV局アルジャジーラのエザット北京支局長は4月に、「中国メディアのアラブ革命の報道を見るたびに血圧が上る」と揶揄していた。政府メディアは「西側の空襲による犠牲を強調するだけで、カダフィ政権の民衆に対する残虐な鎮圧と殺戮はほとんど報道しない」。中国政府がメディアを利用して誤った誘導をしている姿が明らかになった。

一方、環球時報の同社説は「ますます多くの人が、リビアは次なるアフガニスタンになるのではないかと懸念している」と続ける。さらに、この日に同紙は、「『カダフィ政権の崩壊はリビアに安定をもたらすか』とのアンケートで88%の(中国の)読者が『ノー』と答えている」と記した。

新華網も23日の評論記事の中で、「リビアの反対派内部に存在する各派閥は、カダフィ政権を倒す立場で一致していたが、政権崩壊に伴い、派閥間の闘争が今後起きるだろう」と分析した。この記事は国内メディアに広く転載されている。

これらの報道について、中国憲政学者の陳永苗氏はドイツ国営放送ドイチェ・ヴェレの取材に、「中国当局は、民主化の過程は社会動乱をもたらすとわざと強調している。これにより、民衆の民主化の願望を弱めようとしている」と指摘する。

「共産党政権が崩壊しても大きな混乱はない」

しかし、このような民主化革命が実際に起きても、中国政府が懸命に宣伝しているような混乱は必ずしも起こらないとする記事「Chaos after a CCP collapse? Not so much」が22日、「中国立場(SinoStand)」というブログサイトに掲載された。

記事の作者は、世銀の世界開発センターのUri Dadush元ディレクターが「中国で政治危機が起きたとしても、中国の経済は依然成長し続ける」との見解を自分に話したことを記事で明らかにした。

その理由は、政治危機が起きても、人々は相変わらず買い物するということだ。店はものを販売し、その裏にある投資や製造業も動きつづける。「経済成長を促す要因はもっと根本的なところにある。政変よりもはるかに深い所に」とDadush氏は指摘する。それよりも、不動産バブルや人口の減少、貿易保護主義や環境破壊、自然災害など非政治的な問題が、経済に深刻な打撃を与える。「共産党政権が国民に信じ込ませようとしていることとは裏腹に、政治の変革は経済や人々の福祉に大きく影響することはない」と作者は主張した。

作者は自らの論点を、世界銀行が公表した各国のGDP成長率グラフを用いて裏付けした。エジプトは社会不安が頻発する国であり

世界銀行が公表したエジプトのGDP成長率グラフ

、GDPもそれにより大きく変動する。しかし、下降するたびにまたすぐ持ち直していることがグラフで分かる。GDPはここ50年間マイナスになったこともなく、ジャスミン革命が起きた最新の財政年度では2%の成長率をみせている。エジプトの経済は現在、成長の勢いが以前にも増しており、今年度は5%に上る可能性があると作者は分析する。

タイのデータでも分かるように、1996年にあった

世界銀行が公表したタイのGDP成長率グラフ

落ち込みはアジア金融危機の影響であり、2006年に起きた軍事クーデターは経済になんら影響を与えなかった。その後むしろ空前の成長率をみせている。

中国政府は国民に、自分たちがこの国をまとめる接着剤であると信じ込ませているが、「誰が共産党の替わりに政権を掌握しても、経済成長に大きな影響を及ぼすことはなく、大きな混乱も起きない」と作者は反論した。それよりも、革命によって、経済成長だけでは解決できない腐敗や貧富の格差、人権侵害、情報封鎖などに起因する「不幸」を解消し、「幸福」へと変えることができる。それを経験したことのない中国人は「気の毒だ」と作者は結んだ。

(張凛音)
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