焦点:セクハラ告発急増、問われる「秘密保持契約」の是非

2018/01/06
更新: 2018/01/06

[19日 ロイター] – 社会的に重要な立場にある男性による性的な不品行に対する告発が相次いでいることを受けて、弁護士たちは、長年にわたって使われてきた秘密保持契約を含め、こうした事件への対応を再考しつつある。

声を上げる女性(ときには男性も)が増えるなかで、被害者が過去のハラスメントや虐待の主張を話題にすることを禁じる秘密保持契約(NDA)を伴う和解が批判にさらされている。多くの政治家・啓発団体が、そうした協定は廃止すべきだと主張するようになったからだ。

ハラスメント事件で原告・被告を代理する弁護士らによれば、これまでは、仮に疑問視される場合があっても、裁判所はNDAを支持することが当たり前だと考えられており、NDAに対する違反もめったに生じなかったという。だが今や、こうした合意は公益に反するものとして裁判所が無効を宣告する可能性が高まっている。

「昨今では、NDAによる権利の執行可能性に自信を持っている弁護士がいるとすれば驚きだ」と語るのは、企業側の弁護を専門とする法律事務所プライヤー・キャッシュマンで雇用法部門を率いるロン・シェヒトマン氏。

複数の弁護士によれば、現在では、セクハラなどで訴えられた企業幹部や著名人に対し、自己弁護や告発の棄却をめざすよりも、辞任することを勧める可能性が高くなっているという。最近でも、複数の男性がこうした道を選んでいる。

だが弁護士らによれば、秘密保持契約の効果が弱まることは、告発する側にも影響を与える可能性があるという。秘密保持契約がない方が、和解金は少額になる可能性がある。少なくとも一部のケースでは、秘密保持契約によって、性的不品行を告発された男性が、自身に対する申し立てを勘違いして捉えることを防げる場合もある。

訴訟を進めるなかで、依頼者が何をめざすかによって、与えるアドバイスが変わってくる可能性がある、と原告側の弁護士は言う。ニューヨークのダグラス・ウィグダー弁護士は、公表することにより、ハラスメント加害者が新たな被害者を生み出せないようにすることを望む依頼者もいる、と話す。しかし、その他の依頼者は「加害者側と同じくらい、秘密保持契約を求める」という。

こうした合意が実現するのは、性的不品行の告発に関して訴訟を起こしている、または起こすことを示唆している場合に限られる。現在、ハラスメントを受けたことを明らかにしている女性たちの多くは、告訴していないし、またその予定もない。

秘密保持契約を批判する人々は、それによって、常習的なハラスメント加害者が、彼らの行為を部下や同僚に対して秘密にしておけるようになる、と主張する。ニューヨーク、カリフォルニア、ペンシルベニア、ニュージャージー各州の州議会議員は、セクシャルハラスメントやその他の雇用関連事件において、秘密保持契約を禁止することを提案している。

公表されるハラスメント告発が増えるにつれて、こうした提案が勢いを増す可能性がある。これまでのところ、ソーシャルメディアでは「Me Too(私も)」というハッシュタグをつけて、ハラスメントの告発を投稿した人は数百万人にも及んでいる。

過去のNDAは、必ずしも女性たちが表に出ることの歯止めにはなっていない。ハリウッドの映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏のアシスタントだったゼルダ・パーキンス氏は、そのような合意に違反して、元上司のハラスメントを告発したと話している。

ワインスタイン氏は不同意のセックスに関する告発をすべて否定している。ロイターはこれらの主張について確認していない。

<訴訟へのためらい>

 

秘密保持契約に違反した女性たちは、潜在的には、合意違反によって告訴される可能性がある。だが双方の弁護士は、昨今のような雰囲気では、企業や性的不品行を告発された人物は、暴行やハラスメントの被害者を告訴することを躊躇するだろうと指摘する。

仮に告訴するとしても、勝てる保証はない。一方の当事者に対してアンフェアである、あるいは公序良俗に反していると判断する場合、裁判官は裁量により契約を無効とすることができる。今年に入ってから、ワシントンDCの連邦控訴裁判所は、病院職員が賃金その他の労働条件について議論することを禁じる雇用契約を無効とする判断を示している。

すでに一部の州には、製品の欠陥や環境汚染など「公衆に対する危険」を隠蔽(いんぺい)するような秘密保持契約を制限する法律がある。

性的不品行の告発を隠蔽するような秘密保持契約を無効とするためにも、これと同じ理屈が用いられる可能性がある、と弁護士らは言う。ハラスメント加害者の行為が公表されないと、一部の加害者が他の人にも危険を及ぼす可能性がある、という理論だ。

複数のハラスメント事件で原告側弁護士を務めた経験のあるインディアナ大学のジェニファー・ドロバック教授(法学)は、裁判所は、特に性的暴行またはその他の犯罪行為の告発を隠蔽するような合意には疑いの目を注ぐだろうとの見方を示した。

複数の弁護士によれば、結果的に、今後は恐らく秘密保持契約が用いられることが減り、現味よりも制約の少ないものになる可能性がある、という。

フォーリー・アンド・ラードナー法律事務所に所属するダブニー・ウエア弁護士は、ハラスメント訴訟において雇用者側の弁護を担当しているが、今後の秘密保持契約は、当事者の名前と支払われた和解金の金額だけを秘密とし、告発を公表することは認めるものになるのではないか、と話す。

企業に対して性的不品行の告発を真剣に受け止めることを示すよう求める社会・投資家の圧力があるため、どれほど要職にあろうと、そうした不品行の告発を受けた社員を守ろうとする企業の意欲は大幅に落ちていると弁護士は指摘する。

フォックス・ニュースによる差別的行為を告発する訴訟において20数名の原告代理人を務めているウィグダー弁護士の指摘によれば、同ネットワークの親会社である21世紀フォックスは、元司会者のビル・オライリー氏、フォックス・ニュースの創業者で初代最高経営責任者(CEO)であるロジャー・エイルズ氏に代わって和解金を支払ったことを巡る株主代表訴訟において、9000万ドル(約100億円)の和解金を支払ったという。

秘密保持の徹底を狙った一部の強硬戦術も消えていくかもしれないと弁護士はみている。以前であれば、依頼者は和解の時点で、証拠の引き渡し、または破棄、あるいは被告の犯罪を免責する宣誓供述書への署名を求められた。また和解金が分割払いとなる例もあり、和解金の支払いを留保するという脅迫で告発側を縛ることもできた。

現在ではそうした条件は裁判所に見とがめられ、和解そのものが無効とされてしまう可能性が高いと、こうした事件における双方の側の弁護士たちは語る。

だが前出のウエア弁護士は、あまり悪質でない事件や、ハラスメントの調査で明確な結論が出ない場合には、引き続き秘密保持契約が用いられる可能性が高いと言う。

原告側の弁護士によれば、告発者の多くはひっそりと訴えることを希望しており、話題になる可能性があると、そもそも訴えることを尻込みする可能性があるという。

「今後も、事情を秘密にしておくことが適切と思われるケースがあるだろう。しかしそれは、大幅に制限されるようになる」とウエア弁護士は語った。

(翻訳:エァクレーレン)

 

 12月19日、元アシスタントにセクハラの告発をされたハリウッドの映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏。2007年にアブダビで撮影(2018年 ロイター/Steve Crisp)
Reuters
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