習近平政権2期目スタート 指導部新人事から読み取るもの

2018/03/21
更新: 2018/03/21

中国の第3期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第1回会議は20日閉幕した。開催期間が16日間と異例の長さとなった今回の全人代会議では、国家主席・副主席の任期撤廃をめぐる改憲案が通過し、国家副主席や最高行政機関である国務院総理・副総理などの主要人事が決定された。

この結果を見るかぎり、昨秋党大会の最高指導部人事をめぐって始まった習近平陣営と江沢民派との間の権力闘争は、さらにヒートアップしたとの印象を受けた。両派の闘争は今後も続くとみられる。

習王体制の継続

今年の両会(全人代と全国政治協商会議)の最大の焦点は、王岐山・前中央政治局常務委員の去就だ。17日、王氏が国家副主席に選出された。今後5年間、中国最高指導部はこれまでと同様に、習近平・王岐山コンビの「習王体制」が続くとみられる。

2017年の党大会で、習近平氏は江派の反発を抑え込むことができず、王岐山氏は「68歳引退」との慣例に従い、最高指導部から退任した。

全人代で王氏の国家副主席就任は、党大会後に習近平陣営が用意した策略だと推測できる。表面的には、習近平氏らは江派の要求を飲み込み、王岐山氏を「チャイナ・セブン」から退かせた。習近平陣営がこれを見返りに、江派に「国家主席・副主席の任期撤廃」を認めさせ、譲歩させた可能性が高い。

17日、肩書きのない一般党員である王岐山氏が正式に国家副主席に選出された直後、全人代会議場のひな壇にいる習近平氏と王岐山氏は力強く握手した。その際、短い会話を交わした。

中国インターネット上では、一部のネットユーザーが両氏の口の動きから、「習近平氏が、『これに満足しているか』と質問した。王岐山氏は『言うまでもない』と答えた」との会話内容を推量した。

今後も「習王体制」が続く中国最高指導部内では、王岐山氏は習近平氏に次ぐ「実質的なナンバー2」として、これから5年間、政治・経済・外交問題を担っていく。

江派の張徳江らが退任

今回の全人代の会議ではもう一つ注目点がある。前中央政治局常務委員の2人、張徳江氏と張高麗氏が完全に権力の中枢から退任したことだ。両氏は江派中心人物だ。

張徳江氏は、昨年の党大会で中央政治局常務委員を退任したが、全人代常務委員会委員長の職は続投となった。しかし、今回の全人代会議では、張氏は任期満了に伴い退職となったため、後任として習近平氏の側近である栗戦書・中央政治局常務委員(序列3位)が選ばれた。

また、張高麗氏は今回の全人代で国務院副総理の職を引退した。後任は、韓正・中央政治局常務委員だ。韓正氏は、江派メンバーとされているが、張徳江氏と張高麗氏に比べて、江派の色合いは薄い。

張徳江氏らの引退を受けて、2012年の党大会で最高指導部入りをした江派(張徳江氏、張高麗氏、劉雲山氏)全員が権力の中枢から退いた。最高指導部での江派は発言権を失い、影響力が低下したことを意味する。

中央政治局常務委員の権力弱体化

行政機関の新人事に関して、最も意外だったのは、新設された反腐敗機関「国家監察委員会」トップの初代主任に、楊暁渡・中央規律検査委員会(中規委)副書記が選出されたことだ。事前、趙楽際・中規委員書記(序列6位)が兼任するとの見通しだった。

習近平氏がこの人事を決定した背景には、さらなる権力の集中を実現するため、中央政治局の常務委員の権力を分散化・弱体化させる目的があるとみられる。

中国の国家主席は象徴元首であるが、中国の憲法では、国務院総理を含む最高行政機関の高官は国家主席から任命を受けなければならないと定めている。中央政治局常務委員は、国務院総理など各部門の長を兼任することが多い。

国務院総理の李克強氏(序列2位)と副総理の汪洋氏(序列4位)は、党内の胡錦涛氏をはじめとする共産主義青年団派(団派)の人員だが、今は習近平陣営に協力している。

前述の韓正氏は、最高指導部での序列は最下位で、党内影響力は低い。

習近平氏の側近とされる序列3位の栗戦書氏は、17日に全人代トップの常務委員会委員長に選出された。栗氏の全人代のトップ就任で、今まで江派が全人代を利用して習陣営をけん制してきた局面は終わったといえる。しかし、栗氏自身は党内で突出した経歴がないため、今後も習近平氏の号令に従うのみとされる。

プロパガンダ工作は中国共産党にとって最重要な任務だ。このため、この分野を管轄する中央書記処書記は、中央政治局常務委員の中でも目立つ存在だ。

劉雲山氏は、12~17年10月まで中央書記処書記を務めながら、党のエリート官僚を育成する機関、中国共産党中央党校の校長を兼任した。劉氏は、02~12年11月下旬まで約10年間党中央宣伝部のトップを務めた。

しかし、劉雲山氏に比べ、学者出身の王滬寧・現中央書記処書記は、華やかな地方政府要職や党中央宣伝部のトップに就いた経歴がなく、親族・側近などで形成される党内勢力もない。また王滬寧氏は、中央党校の校長も兼任していない。習近平氏は中央政治局常務委員の権力を分散させる狙いがあると読み取れる。

一方、趙楽際・中規委書記は、前任の王岐山氏のように、党内の長老や高官の子弟らと人脈を持っていない。王岐山の義父は中国共産党の長老の一人、姚依林氏だ。このため、王氏は太子党とのつながりが深い。習近平氏が主導する反腐敗運動で、今後趙氏が王岐山氏のように辣腕(らつわん)ぶりを発揮できるかが注目されている。

中央政治局常務委員の権力分散化・弱体化によって、習近平氏は江派が主導した「九龍治水」との集団指導体制を一変させ、習氏の1強体制がより鮮明となった。

江派が司法部門を掌握

 

江派の重要人物は中国最高指導部からほぼいなくなったが、司法部門トップの職には江派人員が起用された。

18日習当局は、新たな最高法院(最高裁)院長(長官)と最高検察院(最高検)検察長(検察総長)の人事を発表した。周強氏が最高裁長官に再任された。張軍・司法部部長は最高検の検察長に任命された。

周強氏は17年1月全国法院(裁判所)トップが集まった会議で、司法独立・憲政民主・三権分立など、共産主義からみれば「誤った思想」に徹底的に反対していくよう要求した。これは、明らかに習近平氏が提唱する「法による国家統治」との理念に相反する。

当時、中国国内法曹界は周強氏の発言を批判し、周氏に最高裁長官の辞任を求めた。

一方、張軍氏は長い間、江派の中核人物・周永康氏が掌握していた司法部門で勤め、最高裁副長官、司法部副部長、中規委副書記などを歴任した。17年2月に司法部部長に昇格した。

昨年3月、中国法曹界などの知識層で、当局に対して張氏の罷免を求める運動が起きた。知識層は、張氏が司法部の部長就任以降、国内の人権弁護士への締め付けが一段と強化されたと非難した。

また、張軍氏の最高検トップへの就任に伴い、司法部部長のポストに新たに任命されたのは傅政華・元公安部副部長だ。

傅氏は周永康氏の側近とみられる。傅氏は13年に公安部副部長に就任し、15年1月以降、江沢民が気功グループ、法輪功を弾圧するために設立した機関、「中央610弁公室」主任を兼任した。

江派のメンバーとみられる周強氏、張軍氏と傅政華氏3人の司法機関トップの就任から、党内の江派と習近平派との間で、国家主席などの任期制限撤廃や国務院人事などをめぐって、なんらかの政治的な取引、または譲歩が行われたと推測される。でなければ、これまでの言動が習近平氏の「法治」「法による国家統治」との治国理念に背反する3人がなぜ司法部門のトップに就任できたのかを説明できない。

経済・外交などの課題に直面

2期目を正式に始動した習近平政権はこれから、江派をはじめとする党内の権益集団と駆け引きしながら、国内経済と外交問題を着手しなければならない。

米トランプ政権は、貿易の不均衡だとして、中国製品への追加関税の実施など、対中強硬措置を強化している。輸出産業が中国経済の主要けん引力であるため、米側が制裁措置を次々と打ち出すことで、すでに投資や個人消費が低迷している中国経済はさらに打撃を受ける。

また、米国や欧州などの西側諸国は近年、中国共産党のイデオロギーの浸透工作や世界支配の野心に警戒を強めている。このため、国際社会において中国当局への逆風が強まっている。

習近平当局は国内の社会不安要因を取り除く目的で、機構改革を行い、行政機関の組織統合や人員整理も計画している。

しかし、習近平当局は、中国共産党の独裁体制を維持する以上、国内外のあらゆる難題を解決できない現実を認識しなければならない。

(時事評論員・夏小強、翻訳編集・張哲)

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