焦点:迅速さと誇り、ベトナム初の国産車メーカーが賭ける夢

2018/10/08
更新: 2018/10/08

James Pearson

[ハイフォン(ベトナム)1日 ロイター] – 豊富な資金力を誇るIT企業の攻勢によって先進諸国の自動車メーカーが業績を圧迫されている中、ベトナムでは、かつての日本や韓国のように、自動車製造がより豊かな社会への切符となることに賭けている。

同国最大の複合企業ビングループ<VIC.HM>傘下のビンファストは来年8月、初めて自社ブランドで製造する量産車モデルを市場に送り出し、べトナム初の本格的な国産車メーカーとして名乗りを上げる予定だ。

「世界中見渡しても、これだけ迅速に生産体制を整えられる国は他にないだろう」。ビンファスト・トレーディング・アンド・プロダクションのショーン・カルバート製造担当副社長は、工場フロアを見渡しながら、そう語った。何しろ、9カ月前は海しか見えなかったのだ。

これは、先日行われた新工場視察での発言だ。北ベトナムの港湾都市ハイフォンに広がる埋立地に建てられたこの複合施設では、2車種が製造される予定だ。

ビンファストは停止状態からスタートして、今後5年程度で年25万台の生産能力を実現する計画だ。ベトナム自動車工業会(VAMA)によれば、これは昨年同国で販売された自動車総数の92%に相当する。

たった1年余り前にビンファスト設立に乗り出したビングループは、このプロジェクトに約35億ドル(約4000億円)を投じている。

「われわれは国内自動車市場の急速な拡大を推進している。したがって、国内市場でまず勝利を収めることに、何よりも注力している」。同社のジム・デルーカ最高経営責任者(CEO)は2日開幕のパリ自動車ショーに先立ち、そう語った。同自動車ショーでビンファストは、最初の輸出先となる市場を発表する。

「わが社は、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内と域外の両面で事業を拡大していきたい」と語るデルーカCEO。

ベトナムで販売される自動車の大半は、同国内で最終組み立てがおこなわれる海外ブランド車だ。だが、一連の自由貿易協定により輸入関税が引き下げられ、ベトナム市場は開放されつつある。ASEAN諸国からの輸入車には30%の関税が課せられていたが、今年廃止された。

<電動スクーター>

複合企業ビングループは、傘下のビンホームズを通じてベトナム不動産市場で優位的な立場にあり、ビンメックを通じて医療市場に参入し、ビンマートと呼ばれるスーパーマーケットチェーンを経営、そしてビンパールは観光客向けのリゾート施設を運営している。

「現在、約400万人の顧客が何らかの形でかかわっているビングループは、巨大で野心的なブランドだ。こうした顧客は、ビンファストによる国産製品を受け入れてくれるだろう」とデルーカCEOは語る。

ハノイやホーチミンシティの混雑した街路を疾走するオートバイに象徴されるベトナムで、ビンファストは年25万台の自動車に加え、年25万台の電動スクーターを製造する予定で、いずれ年100万台に、まで増産するという野心的な生産目標を立てている。

またビンファストは、ドイツのEDAGエンジニアリング<ED4.DE>との提携により、バッテリー電気自動車(EV)開発にも着手しており、将来的に発売する見込みだ、とデルーカCEOは語った。

「車種ラインナップとして、まず内燃機関エンジン車からスタートして、その後まもなくバッテリー電気車を投入するのが最善だと感じた」とデルーカCEO。「インフラ面で考えると、充電するには電気自動車よりも電動スクーターの方がはるかに楽だ」

ビンファストがこれだけ迅速に動ける理由の一端は、既製部品に頼っているからだ。

ビンファストが最初に予定する2車種はスポーツタイプ多目的車(SUV)と小型セダンだが、独BMW<BMWG.DE>から調達するフレームをベースに製造される。部品は加マグナ・インターナショナル<MG.TO>傘下のマグナ・シュタイアが設計したものであり、デザインは伊デザイン会社ピニンファリーナ<PNNI.MI>が担当している。

「これにより、非常に迅速に物事を進めることが可能となり、現時点で走っているどれにも似ていない、100%独自の車を生み出す能力を得ることができた」とデルーカCEOは胸を張る。

<国としてのプライド>

ビンファストは、専門家も「輸入」している。同社経営陣のうち、デルーカCEOやカルバート副社長を含めた少なくとも5人が、米ゼネラルモーターズ(GM)<GM.N>出身のベテランだ。

GMは6月、ハノイ工場の所有権を完全にビンファストに譲渡することで合意した。ビンファストはこの工場で2019年以降、GMのグローバルライセンスに基づく小型車を製造することになる。

だが、ビンファストが他社から制度化された経験値を得たとはいえ、競争の激しい自動車産業参入には常に重大なリスクが伴う。

自動車組立を請け負うベトナム企業は、これまでも国産車を一般向けに販売しようと試みては、失敗を繰り返してきた。アジア域内でも、マレーシアのプロトンやオーストラリアのホールデンなどの企業が、海外市場で顧客を引きつけようと苦心している。

「鍵となるのは、ハードウェアとしての車がコモディティー化しているこの時代に、さらに新たな自動車ブランドがなぜ必要なのか、という点だ」。そう語るのは元クライスラー幹部で、現在は上海に拠点を置くコンサルタント会社オートモビリティを率いるビル・ルッソ氏だ。

ビンファストが「デザインや製造をアウトソーシングし、海外の研究開発に依存している事実から分かるのは、彼らが伝統的なやり方に従っており、このデジタル・モビリティサービス時代では勝てない可能性がある、ということだ」とルッソ氏は語った。

国内自動車メーカーの設立を試みたものの、最初の1台を公式発売しないまま2012年に生産を中止してしまったビナスキのBui Ngoc Huyen会長は、ビングループの豊富な資金力は有利な材料だと認める一方で、ブランド構築には時間がかかると警鐘を鳴らす。

「小型で低価格のモデル生産から、高級車へと移行しなければならない」と同会長。「新しい自動車メーカーが、製品を微調整しつつ消費者の信頼を得るには何年も必要だ。10年から20年はかかるだろう」

ビンファストの初期モデルは、国内の消費者の関心を得るために「非常に入手しやすい」ものになる、とデルーカCEOは語る。価格の詳細については明らかにしなかった。

サッカーのU─23(23歳以下)アジア選手権でベトナム代表が準優勝したことを祝い、数10万人が灯火と国旗を手に街に繰り出したこの国で、ビンファストは、別の競争優位を当てにしている。

「国家としてのプライドは、ビンファストにとって、非常に大きな優位性だと考えている」とデルーカCEOは語った。「ここで国産自動車を生産するということは、男女を問わずベトナム国民にとって特別なことなのだ」

(翻訳:エァクレーレン)

*写真を更新しました。

 10月1日、ベトナムでは、かつての日本や韓国のように、自動車製造がより豊かな社会への切符となることに賭けている。写真は2日、パリ自動車ショーでお目見えした同国初の国産自動車メーカーを目指すビンファストの展示車(2018年 ロイター/Regis Duvignau)

 10月1日、ベトナムでは、かつての日本や韓国のように、自動車製造がより豊かな社会への切符となることに賭けている。写真は2日、パリ自動車ショーでお目見えした同国初の国産自動車メーカーを目指すビンファストの展示車(2018年 ロイター/Regis Duvignau)

 10月1日、ベトナムでは、かつての日本や韓国のように、自動車製造がより豊かな社会への切符となることに賭けている。写真は2日、パリ自動車ショーでお目見えした同国初の国産自動車メーカーを目指すビンファストの展示車(2018年 ロイター/Regis Duvignau)

 10月1日、ベトナムでは、かつての日本や韓国のように、自動車製造がより豊かな社会への切符となることに賭けている。写真は2日、パリ自動車ショーでお目見えした同国初の国産自動車メーカーを目指すビンファストの展示車(2018年 ロイター/Regis Duvignau)

 10月1日、ベトナムでは、かつての日本や韓国のように、自動車製造がより豊かな社会への切符となることに賭けている。写真は2日、パリ自動車ショーでお目見えした同国初の国産自動車メーカーを目指すビンファストの展示車(2018年 ロイター/Regis Duvignau)

 10月1日、ベトナムでは、かつての日本や韓国のように、自動車製造がより豊かな社会への切符となることに賭けている。写真は2日、パリ自動車ショーでお目見えした同国初の国産自動車メーカーを目指すビンファストの展示車(2018年 ロイター/Regis Duvignau)
Reuters
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