焦点:ロシア疑惑捜査、トランプ氏と弁護団「勝利」の裏側

2019/04/02
更新: 2019/04/02

Karen Freifeld

[ワシントン 26日 ロイター] – バー米司法長官がモラー特別検察官によるロシア疑惑捜査報告書の概要を連邦議会に通知したとき、トランプ大統領の弁護団は、議事堂に近いオフィスに顔をそろえていた。

彼らはこの日まもなく、祝杯を挙げるべき理由を手にすることになる。これには恐らく、重要な戦略的判断が寄与していた。モラー特別検察官は、2016年の米大統領選挙でトランプ氏またはその側近がロシアと共謀したか否かについて、22カ月に及ぶ捜査を行い、証人500人に事情聴取した。トランプ氏の弁護士たちは、大統領本人への事情聴取が行われないよう手を尽くした。

この戦略は功を奏し、特別検察官の捜査チームから本格的な事情聴取を受けるという司法上の危機からトランプ氏を守った。もっともトランプ氏自身は、喜んで事情聴取に応じると公言しており、今年1月27日に聴取を行うという仮の日程まで組まれていたほどだ。

しかしトランプ氏の弁護士の1人はロイターに対し、モラー氏による大統領への聴取を認めるつもりは全くなかったと語った。モラー氏も、証言を求める召喚状を発行することはなかった。

トランプ氏の主要弁護士たち、ジェイ・セクロー氏、ルディ・ジュリアーニ氏、ジェーン・ラスキンおよびマーチン・ラスキン夫妻は24日、会議用円卓を囲んでコンピューターの画面を開き、バー司法長官による報告書概要の発表を待った。ついにその概要がネット上に公開されたとき、彼らは歓喜に沸いた。

モラー氏はロシアとの共謀の証拠を見いだせなかった、とバー司法長官は言った。また、トランプ氏が捜査を邪魔しようと試みて司法妨害を行ったという証拠も不十分だったと結論した。モラー特別検察官は、この点はまだ未解明の問題だとしている。

この結果は、捜査がトランプ政権に大きな影を落としていただけに、大統領にとって大きな政治的勝利となった。

セクロー氏は26日、ロイターに対し、ジュリアーニ氏が抱きついてきたと明かした。セクロー氏によれば、彼は他のメンバーに「この上なく素晴らしい」と言ったという。ジュリアーニ氏はバー司法長官が捜査結果を発表した数分後、「予想していたよりも良い結果だ」とロイターに話した。

トランプ氏の弁護団は、同氏に対する本格的な事情聴取を求めるモラー氏の度重なる要請を巧みに拒否し、大統領が大陪審で証言するよう召喚されることを回避した。その代わりに、トランプ氏が文書による回答を提示することで合意し、これは昨年11月に実現している。

この違いは大きかった。何人かの弁護士は、トランプ氏が事情聴取に応じたら、彼が連邦捜査局(FBI)に対してうそをついていた、法律用語で言えば「虚偽の陳述」をしていたと主張される可能性があった。ジュリアーニ氏は、モラー特別検察官がトランプ氏に対し、ロシアとの共謀について尋ねるだけにとどまらず、それ以外の事項にも脱線するようなことがあれば、事情聴取は「偽証のわな」になると公言していた。

トランプ氏は、事実のわい曲やあからさまなうそを指摘されることが頻繁にある。

弁護団の戦略に詳しい2人の情報提供者が匿名で語ったところでは、この1年間、トランプ氏の弁護士たちは両面作戦を推進してきたという。つまり、ジュリアーニ氏が、ケーブルテレビの報道番組でモラー特別検察官による「魔女狩り」を公然と攻撃する一方、ラスキン夫妻が水面下でモラー氏のチームと交渉する、というアプローチだ。

モラー氏の報道官は、コメントの求めに応じなかった。

<「二の舞はごめんだ」>

2017年5月にモラー氏が捜査を開始したとき、弁護団は当初、捜査に協力する方が最短距離で幕引きに至ると判断していたと、当時、大統領に関する捜査への対応を担当していたホワイトハウスの法律顧問タイ・コブ氏は言う。ホワイトハウス職員20人以上が特別検察官による事情聴取に応じ、政権側は2万点以上の文書を提出した。

トランプ氏自身が事情聴取に応じるかどうかも切迫した問題となっていた。聴取の日程が暫定的に決められたにもかかわらず、トランプ氏の法律顧問たちの意見は分かれていた。当時、トランプ氏の個人弁護団のトップを務めていたジョン・ダウド氏は、事情聴取はあまりにもリスクが高いと懸念していた。

海兵隊出身で好戦的なダウド氏は、トランプ大統領自身が意欲を見せているにもかかわらず、事情聴取に応じることに反対した状況を回想して、「ノコノコ出ていって下手を打つわけにはいかない」と語った。

ダウド氏によれば、彼はモラー氏のチームに「彼らがフリン氏やパパドプロス氏に対してやったことについて」話をしたという。国家安全保障担当大統領補佐官だったマイケル・フリン氏と、選挙の際にトランプ氏の側近だったジョージ・パパドプロス氏は、特別検察官による事情聴取に応じた末に、結局FBIに対する偽証について有罪を認めた。

ダウド氏は「彼らの二の舞を演じるつもりはなかった」と、あるインタビューで話している。

ダウド氏によれば、モラー特別検察官から、事情聴取で16の分野について協議したいと言われ、あまりにも話が広がりすぎていると考えたという。トランプ氏の弁護団は、暫定的な聴取日程に合意しつつ、捜査陣がすでに把握している内容を知ろうと同氏に探りを入れていたという。

「彼らが実際に何を考えているかを知りたかった。彼らはそれを胸の内に隠していた。われわれの狙いは、協議を重ねるうちに、彼らの考えがだんだん分かってくるだろうということだった。それが、協議を続けていた狙いだ」とダウド氏。トランプ氏を事情聴取に応じさせるつもりはまったくなかったと同氏は付け加えた。

<大統領を守る>

コブ氏によれば、事情聴取が中止になった後は、捜査プロセスが長引くことは明らかだったという。

「大統領の弁護団が、事情聴取に応じないがその可能性は残しておくと2018年1月に決めた以上、捜査がかなり長引くことは明らかだった」と同氏は言う。

また弁護団は、モラー氏がトランプ氏に証言を義務付ける召喚状を発行するのではないかと日々心配しなければならなかった。もし召喚状が発行されたら、裁判官に召喚状の無効化を求めるというのが彼らの計画だった。そうなれば最高裁にまで至る司法の場での争いが予想される。だが、召喚状は結局来なかった。

「われわれは最初から、召喚状が来たらその無効を申し立てるつもりだった」とセクロー氏は言う。「法律上はこちらが有利だと自信を持っていた」

専門家が皆これに同意するわけではないが、トランプ氏の弁護団の見解では、他の情報源から情報を得ることが不可能な場合、あるいは極めて例外的な事態を除けば、大統領に証言を強制することはできない、というものだった。

2018年春の時点では、トランプ氏には2つの選択肢があるように思われた。事情聴取に応じるか、召喚状を受けるか、である。

この時点までに、すでに弁護団は再編されていた。ダウド氏は3月に辞任。ラスキン夫妻とジュリアーニ氏が4月に加わった。ホワイトハウスでは、5月にコブ氏に代わりエメット・フラッド氏が就任した。一貫して主要メンバーであったのはセクロー氏だけだ。

捜査当局との交渉に詳しい情報提供者によれば、新たな弁護団はモラー氏に対し、大統領の事情聴取を正当化するような段階まで捜査が達していることを示すように求めたという。

この情報筋によれば、弁護団は「犯罪の証拠をつかんだと言えるような立場にあるのか」と尋ねたという。

2018年秋を通じて、弁護団はこの立場を固守する一方で、トランプ氏の事業や財務その他の事項に波及するような聴取ではなく、2016年の選挙以前におけるロシアとの共謀の可能性についてという限定的なテーマに関してのみトランプ氏が文書による質問に回答する、という落とし所に向けて交渉を続けた。

<重大な岐路>

モラー氏が、質問リストの提示に同意したことが重大な岐路となった。情報筋によれば、同氏が事情聴取の要請をやめたわけではなかったが、文書による回答を渋々認めたことは、大きな転機となった。

「『彼らは召喚状の発行を決意するだろうか』と絶えず悩む状況から、『文書での質問に答えている』という状況になった」と情報筋は語る。

当時ロシア疑惑の捜査を指揮していたコミーFBI長官を解任し、セッションズ司法長官が捜査を終結させないことについて頻繁に公然たる批判を浴びせたことで、トランプ氏が司法妨害を試みたかどうかという点については、トランプ氏の弁護団は質問を受け入れなかった。

弁護団は、大統領が自身の政権で働くよう任命した人物を自ら解雇したからといって、司法妨害で有罪とされることはあり得ないと考えていた。

事情に詳しい情報筋によれば、「それは質問項目から外され」、選挙におけるロシアの干渉を巡る質問に対する回答についてモラー氏との交渉が続いたという。

「最終的に、戦略はうまくいった。事情聴取なし、大陪審召喚状もなし、だ」

トランプ氏は昨年11月20日、モラー特別検察官への回答書に署名し、フロリダ州の別荘「マール・ア・ラーゴ」で感謝祭の祝日を過ごすため、ワシントンを離れた。

当時ジュリアーニ氏はロイターに対し、「われわれは提示された質問にすべて回答した。当然ながら選挙前の時期に関する、ロシアに的を絞った質問だった」と語っている。「選挙後については何もなかった」

ジュリアーニ氏によれば、モラー氏のチームは交渉の間、トランプ氏本人に対して、できれば直接追加の質問を行う機会を求めてきたという。だが最終的にモラー氏は、何の条件も追加質問の機会もなしに、単に文書による回答のみを受け入れることに同意した、とジュリアーニ氏は言う。

昨年末の時点では、トランプ氏の弁護団はモラー氏の捜査陣とほとんど接触を持たなくなっていた。

弁護団の戦略についてセクロー氏は、「うまくいったのではないか。飛行機は無事に着陸した」と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

3月26日、バー米司法長官がモラー特別検察官によるロシア疑惑捜査報告書の概要を連邦議会に通知したとき、トランプ大統領(写真)の弁護団は、議事堂に近いオフィスに顔をそろえていた。ワシントンで撮影(2019年 ロイター/Brendan McDermid)

3月26日、バー米司法長官がモラー特別検察官によるロシア疑惑捜査報告書の概要を連邦議会に通知したとき、トランプ大統領(写真)の弁護団は、議事堂に近いオフィスに顔をそろえていた。ワシントンで撮影(2019年 ロイター/Brendan McDermid)

3月26日、バー米司法長官がモラー特別検察官によるロシア疑惑捜査報告書の概要を連邦議会に通知したとき、トランプ大統領(写真)の弁護団は、議事堂に近いオフィスに顔をそろえていた。ワシントンで撮影(2019年 ロイター/Brendan McDermid)
Reuters
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