焦点:米イラン中傷合戦でホットライン不通、一触即発の危険性

2019/05/30
更新: 2019/05/30

Phil Stewart and Michelle Nichols

[ワシントン 24日 ロイター] – 2016年に米海軍の小型船がイラン海域に入り込み、米兵10人が拘束された際、米国のケリー国務長官(当時)とイランのザリフ外相はものの数分で電話会談を始め、数時間後には兵士ら解放の手はずが整っていた。

いま同じようなことが起きたら、これほど速く解決できるだろうか。

ロイターがザリフ外相に聞いてみると、答えは「ノー」だった。「そんな風にいくわけがないだろう」

国連のイラン代表団によると、ザリフ外相と米国のポンペオ国務長官が直接言葉を交わしたことは一度もない。その代わり、ツイッターやメディアを通してお互いを中傷する、という手段でコミュニケーションをとる傾向にある。

ザリフ外相は、「ポンペオはイランについて話すときには必ずわたしを侮辱する。彼からの電話を取る義理はない」と語った。

両国の外交トップのおおっぴらないがみ合いは、何か誤解や小さい事故があった場合に、直接交渉するルートがないために軍事衝突に発展してしまう可能性が高まっているとの懸念を一層深める要素だと、米政府の元幹部らや外交官、議員や外交政策専門家は指摘する。

トランプ政権は今月、イランが米軍などへの攻撃準備を進めている可能性を示唆する情報があるとして、中東地域に空母打撃群と爆撃部隊、パトリオットミサイルを派遣した。

メーン州代表のアンガス・キング上院議員(無所属)はロイターに対し、「偶発的な衝突の危険性が日々高まっているようにみえる」と述べ、政府はイランと直接対話をするべきとの見解を示した。

欧州のベテラン外交官は、米国とイランのトップレベルの閣僚らが「会話をする仲」であることは、たった一つの出来事が危機的状況となることを防ぐために不可欠だと語る。

「無自覚に誰も望んでいない状況にならないよう、なんらかのチャンネルがまだ生きていることを願っている。いま飛び交っている挑発は憂慮すべきだ」

米国務省のモーガン・オータガス報道官は、2016年と似たような出来事があったらどうするのか、という質問には応じなかったが、「話すべき時が来たら、そのようにする手段をわれわれは持っていると確信している」とだけ述べた。

同報道官は、イランに対する「最大限の圧力」の目的は、交渉のテーブルにイランの指導者らを戻すことだと語った。

「イランが態度を普通の国のように改めれば、こちらも話をする準備はある」

<ツイッターでお互いを挑発>

2016年にケリー国務長官とザリフ外相がお互いをよく知っていたのは、前年に合意に至ったイランの核開発を制限するための複雑な交渉があったからだ。

3年後の現在、トランプ政権が核合意から離脱し、イランの原油輸出に制裁措置を課し、さらにイラン軍の一部をテロ組織に指定したことを受け、両国のトップレベルの外交関係は崩壊している。

直接対話がないなか、両国のいがみ合いの舞台はツイッターになった。22日、イランのロウハニ大統領の側近はポンペオ国務長官に向けてツイートを投稿し、軍を派遣することでイランを挑発していると厳しく批判した。

大統領のアドバイザーであるフサメディン・アシュナ氏は、「@SecPompeoよ、我が国の地域に軍艦を連れてきて抑止力とはよく言ったものだ。それは挑発と言うのが正しい」と英語でツイートした。「そのような行為によってイランは自らの抑止力を示さなければいけなくなる。それを貴国は挑発という。サイクルが見えてきただろうか?」

これに先立つ19日、トランプ大統領は戦いを挑んでくるならばイランを「終わらせる」とツイッターに投稿。また、これ以前にもザリフ外相とポンペオ国務長官は長期間にわたり非難合戦を繰り広げていた。

ポンペオ氏も2月、ザリフ外相とイラン大統領を「腐敗した宗教マフィアの代表格」とツイッターでののしっていた。同じく2月、ポンペオ氏率いる国務省の幹部は、「@JZarifが嘘をついているかどうしてわかるのか?唇が動いているからだ」と投稿した。

ザリフ氏はこれに対し、ポンペオ氏とジョン・ボルトン大統領補佐官をソーシャルメディアで糾弾。2人の「イランへの執着」を「絶え間なく失敗しつづける異常なストーカーの振る舞い」と表現した。

<米国の選択肢>

米政府関係者や外交官、議員らは、実際に危機があったときにザリフ外相がポンペオ長官からの電話を受けないことはないだろうとみている。米軍との衝突によるリスクが大きすぎるからだ。

ポンペオ長官は21日の記者会見でも、米政府はイランとコンタクトをとり交渉をするための能力がないのではないかという懸念を一蹴した。

「伝達経路を持つための方法はたくさんある」

外交官らは、オマーンやスイス、イラクといった国は米・イラン両方とのつながりがあり、メッセージを伝達することができると語る。

元国防総省職員で、陸軍特殊部隊出身者として初の下院議員となったマイケル・ウォルツ氏は、イランに真剣な交渉を促すためには外交の凍結を支持するとの見解を示した。

「外交的に孤立していなければ、単発の会談を繰り返すだけで、圧力は減っていく」

一方、退役した元海軍中将で、2016年に10人の兵士が拘束された際、中東で米海軍の第5艦隊の指揮を執っていたケビン・ドネガン氏は、誰かにメッセージの伝言を頼むような間接的なコミュニケーションは、急速に変化する危機的状況においては煩雑すぎる、と語る。

仲介人を通すやり方は「時間を要し、一刻を争うような速さで変化する状況を鎮める機会も与えない」という。同氏は現在、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)で上級アドバイザーを務めており、現政権の政策についての見解を述べるのは控えた。

ドネガン氏もウォルツ氏も、米軍とイラン軍の間になんらかのホットラインがあることが望ましいと述べた。しかしドネガン氏やその他の専門家らは、イラン側がそのような取り決めには応じないだろうとの見解を示した。

<裏ルートはあるか>

匿名を条件に取材に応じた米政府高官によると、5月3日、イランが米国もしくは米国の国益に対する攻撃を計画している可能性を示す情報を入手した後、米国は「第三者」を通してイランにメッセージを送ったという。

また、ダンフォード統合参謀本部議長も8日、「われわれが脅威を認識しており、反撃の準備ができていることを示すために」イランに対してメッセージを送ったと議会で発言している。

ウォルツ議員によると、ダンフォード氏は議員らと行った非公開の聴聞会で、メッセージはイラン革命防衛隊の精鋭組織「コッズ部隊」のガーセム・ソレイマーニー司令官に送られたと語った。内容は、もしイランの委託を受けた集団が米国民を攻撃したら、直接イラン政府に責任を問うことを警告したものだったという。

米国民や地域の米軍が攻撃されることがあった場合、「われわれが問うのは代理人の責任ではなく、イラン政府の責任だ、というのがメッセージだ」と、ウォルツ氏は説明した。

3月まで中東で米軍司令官を務めたジョセフ・ボテル氏は今年上旬、シリアでの偶発的な衝突を避けるために作ったロシアとのホットラインを通して、イラン軍にメッセージを伝えることができると発言していた。

「イランの人々はロシアと対話ができる。われわれには、ロシアとのプロフェッショナルな意思疎通チャンネルがある」

ただ、イランとの危機を避けるためにロシア政府に頼るという可能性は、現在、そして過去の米政府関係者の多くの人々にとって不安の種でしかない。

オバマ政権で国務次官を務めたウェンディ―・シャーマン氏は、「それは危険を伴う選択肢だ」と語った。

(翻訳:宗えりか、編集:山口香子)

5月24日、米国、イラン両国の外交トップによるおおっぴらないがみ合いは、何かのきっかけで、直接交渉するルートがないために軍事衝突に発展してしまう可能性が高まっているとの懸念を深めることになるとの声が上がっている。写真は18日、米強襲揚陸艦キアサージに戻るAV-88ハリアー機。米海軍提供(2019年 ロイター U.S. Navy/Mass Communication Specialist 2nd Class Megan Anuci/Handout via REUTERS)
Reuters
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