米為替報告書要旨(2020年1月)

2020/01/14
更新: 2020/01/14

[13日 ロイター] – <エグゼクティブサマリー>

世界経済は2019年も減速を続けた。成長は米国では良好に維持されてきたが、様々な課題が世界の活動を圧迫する中、他の多くの主要経済国は減速してきた。これには、多くの欧州・中南米諸国における政治的不確実性、いくつかの大規模な新興市場における金融の混乱、企業債務の脆弱性に対処するための中国の努力、及び現在進行中の地政学的緊張が含まれる。成長はまた、特に財政政策による不十分な政策支援や、主要経済国における官民両セクターのレバレッジの上昇によっても妨げられている。国際通貨基金(IMF)は2019年の世界経済成長率を3.0%と予想しているが、これは世界的な金融危機以降で最低のペースだ。

 

この文脈において、主要国における財政及び構造政策が金融支援と連携し、短期的な活動及び中期的な成長見通しを強化することが重要だ。多くの国、特にドイツ、オランダ、韓国は、実質的な成長促進刺激のための十分な財政的余裕を有しており、これは更なる金融緩和への圧力を軽減する助けとなり得る。中期的な成長の基盤を築くための構造改革も必要だ。優先順位は国によって異なるが、必要な措置には、投資の強化と労働力参加を促進するための減税、民間セクター主導の成長を促進するための規制改革、貿易の公平な競争条件の確立が含まれる。

 

政権は、不公正な貿易障壁を撤廃し、米国の主要貿易相手国とより公正で相互的な貿易を達成するために積極的に取り組んでいる。これには、通貨市場への不当な介入など、競争優位を促進する不公正な通貨慣行との闘いが含まれる。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)には、不公正な通貨慣行を回避し、関連する経済情報を公表する誓約が盛り込まれている。また、3月には韓国が初めて外国為替介入の報告を開始しており、米財務省はこれを歓迎している。外貨準備高と介入に関する透明性は近年全般的に向上しているが、多くの国では依然として外貨準備高と介入に関するデータの透明性と質を改善する必要がある。

 

財務省は、中国人民元(RMB)の動向をめぐり、中国と緊密に連携している。中国は長年、為替市場への一方的な長期介入などを通じて、通貨の過小評価を促進してきた。

 

中国は夏の間、人民元の下落に向けて具体的な措置を講じた。米財務省は、通貨切り下げの目的は国際貿易における不公正な競争優位を獲得することだと判断、1988年包括的貿易・競争力法3004条に基づき、中国を為替操作国に認定した。

 

米国と中国の間では、この数カ月間に集中的な貿易・通貨交渉が行われ、第1段階の合意に至った。この合意では、通貨・為替問題を含むいくつかの主要分野において、中国の経済・貿易体制の構造改革やその他の改革が求められている。この合意の中で、中国は競争的な通貨切り下げを行わず、競争上の目的で為替レートを目標としないという、強制力のある約束をしている。また、中国は、為替レート及び対外バランスに関連する情報を公表することに合意した。一方、人民元は、9月初めに1ドル=7.18元まで下落した後、その後10月に上昇し、現在は1ドル=6.93元前後で取引されている。

よって財務省は、今回は中国を為替操作国に指定すべきではないと判断した。

 

米財務省は、G20、G7及びIMFにおいて行った為替レートに関するコミットメントを維持するよう他の諸国に引き続き圧力をかける。全てのG20メンバーは、強固なファンダメンタルズ、健全な政策及び強靱な国際金融システムが為替レートの安定に不可欠であり、強固で持続可能な成長及び投資に貢献するとの見方で一致した。G20メンバー国はまた、競争的な通貨切り下げを控えること、及び競争的な目的のために為替レートを目標としないことを約束した。一方、G7各国は、市場で決定される為替レート、国内の目的を達成するために国内の手段を用いること、及び為替市場における行動に関して適切な場合には緊密に協議・協力することに引き続きコミットしている。IMF加盟国は、他の加盟国に対する不当な競争優位を得るために為替レートを操作することを回避することを約束している。

 

米国の主要貿易相手国のほとんどではここ数年、為替介入の規模と持続性は低下しているが、これはドル相場が総じて過去の平均と比較して堅調であり、他の通貨の上昇圧力がそれほど持続的ではなかった時期にあたる。米財務省は、我々の貿易相手国による介入がどの程度対称的であるか、及び為替レートの動きを円滑にすることを選択した諸国が、為替レートの上昇圧力と同様に下落圧力にも抵抗するかどうかについて、引き続き注視していく。

 

米財務省は、世界経済を特徴づける持続的かつ過剰な貿易及び経常収支の不均衡に引き続き悩まされている。米国の非石油製品の貿易赤字は過去最高を記録し、対GDP比で4%を超えているが、主要貿易相手国の貿易・経常収支の黒字は依然として高水準にある。中国の経常黒字と、この報告書の対象となっている主要貿易相手国(黒字額が対GPD比で2%超)の経常黒字を合計すると、2019年6月までの4四半期で1兆1000億ドル、すなわち世界のGDPの約1.3%に達している。世界経済全体でみられる実質金利の低下は、ドイツ、オランダ、中国、その他の主要経済の国内経済で生産的に利用されていない、貯蓄超過の兆候といえる。より強固でバランスのとれた世界経済の成長を達成するためには、巨額で持続的な対外黒字を維持してきた主要経済国は、国内主導の成長を再活性化し、投資の生産的な機会を創出し、民間部門主導の成長を刺激する改革を追求しなければならない。

 

<中国関連の財務省結論>

中国は長年、人民元の過小評価促進など、国際貿易における競争優位につながる様々な経済政策や規制政策を追求してきた。さらに近年においては、段階的な経済自由化政策から、国家統制の強化と非市場メカニズムへの依存強化の政策へと移行している。明示的・黙示的な補助金、非関税障壁、その他の不公正な慣行の広範な利用は、中国の貿易相手国との経済関係をますます歪めている。米政権は、強制的な技術移転、弱い知的財産権保護、産業補助金といった中国の不公正な慣行に立ち向かい、より公正でバランスのとれた経済関係を目指すことを明確にしている。

 

この夏、中国は自国通貨の切り下げに向けた具体的な措置をとる一方、過去に積極的に外貨準備を利用したにもかかわらず、多額の外貨準備を維持した。当時、中国当局は人民元の為替レートを十分に管理していることを認めていた。財務省は1988年法に基づき、中国は為替操作国であると判断した。

 

8月以降、米財務省は、中国の最近の行動によってもたらされた不公正な競争上の優位性を排除するために、通貨問題に関してPBOC(中国人民銀行)と交渉を行ってきた。より広い意味では、米国と中国は交渉を行い、最近、貿易と通貨に関する特定の問題を対象とする第1段階の合意に達した。この合意では、中国は競争的な通貨切り下げを行わず、競争的な目的のために為替レートを目標にしないという強制力のある約束をしている。また、中国は、為替レート及び対外バランスに関連する情報を公表することに合意した。財務省は今回、もはや中国を為替操作国に認定すべきではないと判断した。

 

中国は、通貨安が続くのを避けるため、必要な措置を講じる必要がある。8月から9月初めにかけての下落の結果、人民元の対ドル相場は過去11年間で最も弱い水準となり、2014年にPBOCのCFETSバスケットが導入されて以来、貿易加重ベースでも最も弱い水準となった。その後、人民元は10月に上昇し、最近は1ドル当たり約6.93元で取引されている。経済のファンダメンタルズと構造政策が改善されれば、長期的に人民元の上昇を下支えすることになる。

 

中国は為替介入のデータを公表していないため、財務省職員は、中国人民銀行による直接介入と国有銀行を通じた間接介入の両方で、中国の介入の規模を推定している。人民銀は2019年は、為替市場への介入をほとんど行っていなかったようだが、人民銀以外の金融機関(特に国有銀行)は2019年上半期、外貨を買い越している。中国は、人民銀と、オフショア人民元市場を含む国有銀行の為替活動との関係について、国民の理解を深めるべきである。

 

中国の経常黒字は2019年上半期に増加し、2019年6月までの4四半期でGDPの1.2%に達し、名目ベースでは1660億ドルと世界第3位の黒字となった。さらに中国は、米国と他の主要貿易相手国との間のすべての貿易不均衡を凌駕するほどの、極めて大きくかつ持続的な対米貿易黒字を継続しており、2019年6月までの4四半期の2国間の物品貿易黒字は4010億ドルであり、これは、この期間の米国のモノの貿易赤字全体の45%に相当する。中国は内需を刺激し、中国経済の投資と輸出への依存を減らすために追加的な政策措置を取る必要がある。

 

 

<「監視リスト」掲載国について>

◎日本

日本のモノの貿易での対米黒字は2019年6月までの4四半期で690億ドルと、3位の規模を維持している。日本の経常黒字の対GDP比率は2019年6月までの4四半期は3.4%で、前年同期の4.1%から低下した。日本は2011年以降、外為市場に介入していない。米財務省は、自由に取引される大規模な為替市場においては、介入は事前に協議した上で、非常に例外的な状況に限定されるべきだと強く確信している。財務省は、各国がG7及びG20のコミットメントで表明された為替政策運営の枠組みを、特に増価圧力の場合には、支持することが最重要であると考える。経済を強化するために、日本は最近の経済の勢いに乗って、内需を強化し、イノベーションを支援し、長期的により持続可能な成長経路を創出するための大胆な構造改革を実施すべきであり、それは日本の公的債務負担と貿易不均衡の削減に役立つ。

 

◎韓国

韓国の大規模な対外黒字は引き続き縮小しており、経常収支の黒字幅は2019年6月に終わる4四半期、GDPの4.0%にまで縮小した。韓国の対米貿易黒字は、対米輸出の増加を背景に2018年以降小幅に増加、2019年6月までの4四半期で200億ドルをやや上回った。依然として巨額の対外黒字と成長見通しの悪化を踏まえれば、短期的な活動と中期的な生産の双方を支援するために財政政策を積極的に活用すべきである。米財務省の推定によると、韓国当局は2019年上半期にウォン相場を支えるために介入、外貨の売り越しとなっている。成長率が6年ぶりの低水準に落ち込む中、ウォンは2019年に対ドルで3.7%下落し、実質実効ベースでも下落した。米財務省は、為替介入の透明性を高めるとの韓国の公約と、2019年上半期の韓国の為替介入活動を9月に公表したことを歓迎する。当局は、為替介入を市場の混乱という例外的な状況に限定すべきである。

 

◎ドイツ

ドイツの経常黒字は、2019年上半期にやや減少したものの、2019年6月までの4四半期は名目ドルベースで2830億ドルと、依然として世界最大の黒字を記録した。一方、ドイツの対米2国間貿易黒字はほぼ安定しており、2019年6月までの4四半期で670億ドルとなっている。巨額の経常黒字の継続や対米貿易不均衡は、ドイツの需要低迷や実質実効為替レートの過小評価が原因だ。2018年のドイツの成長が大幅に減速し、2019年第2・四半期のGDPが縮小したことは、ドイツが、高水準の労働税と付加価値税を引き下げ、ドイツの世帯の購買力を強化し、力強い国内投資と消費を引き出すための改革に着手することが緊急に必要であることを示している。これは、国内主導の成長を支え、大きな対外不均衡を縮小するのに役立つであろう。欧州中央銀行(ECB)は2001年以降、一方的な外為市場介入を行っていない。

 

◎イタリア

イタリアは2019年6月までの4四半期でGDP比2.8%の経常黒字を記録し、モノの貿易の対米黒字は330億ドルに増加した。生産性の低迷と人件費の上昇を背景に、イタリアの競争力は引き続きそがれている。同国は、高い失業率と公的債務を削減することと整合的な形で、長期的な成長を高め、財政と対外的な持続可能性を確保するための根本的な構造改革を行う必要がある。ECBは2001年以降、一方的な外為市場介入を行っていない。

 

◎アイルランド

アイルランドの対米貿易黒字は近年大幅に拡大しており、2019年6月までの4四半期で過去最高の500億ドルに達した。アイルランドの対米貿易黒字は、米国がアイルランドとのサービス貿易でかなりの黒字となっていることで、一部相殺されている。一方、アイルランドの経常収支は、外国の多国籍企業(MNE)の存在感の高まりの影響を大きく受けており、非常に大幅なモノの貿易黒字と大幅な所得赤字をもたらしているだけでなく、全体的な収支の著しい変動をもたらしている。2018年に大幅な経常収支黒字を計上した後、2019年上半期の大幅な所得流出により、2019年6月までの4四半期で経常収支はGDP比0.8%の赤字に転じた。ECBは2001年以降、一方的な外為市場介入を行っていない。アイルランドは現在、2015年法の3つの基準の1つしか満たしておらず、次回の報告書作成の時点でもこの状況が続けば、アイルランドは「監視リスト」から除外される。

 

◎スイス

スイスのモノの貿易での対米2国間黒字は増加傾向にあり、2019年6月までの4四半期で218億ドルに達した。スイスは、非常に大きな経常黒字を維持しており、2019年6月までの4四半期は対GDP比で10.7%となっている。スイスは、その大きくて持続的な貿易黒字と経常収支黒字を縮小させるために、マクロ経済政策を調整すべきである。特に、潤沢な財政基盤を活用して、国内経済活動をより強力に支援し、限界に近づきつつある金融政策への依存を減らすべきである。スイスの外貨購入は、2017年半ばから2019年半ばにかけて規模でも持続性でも減少しており、米財務省の推計によると、2019年6月までの4四半期における外貨の純買い入れ額はGDPの0.5%だった。スイスフランがドルとユーロに対して上昇するに伴い、スイスの外貨購入は2019年半ば以降、顕著に拡大した。米財務省は引き続き、スイス当局に対し、すべての介入データをより高い頻度で公表するよう奨励する。

 

◎シンガポール

シンガポールは、GDPに占める割合では世界最大級の経常黒字国であり、2019年6月までの4四半期でGDPの17.9%を占めている。このような対外黒字にもかかわらず、シンガポールは米国とのモノの2国間貿易では一貫して赤字であり、2019年6月までの4四半期では44億ドルの赤字となっている。シンガポールの金融政策は、主要な金融政策手段として為替レートを用いており、一般的ではない。価格安定の目標を達成するために、当局は為替レートを誘導し、それを目標範囲内に維持するのを助けるために頻繁に外国為替介入を行う。米財務省は、シンガポールが2019年6月までの12カ月間に少なくとも320億ドル (GDPの9.0%に相当) の外貨を買い越したと推定している。米財務省は、シンガポール当局が2020年に介入データの公表を開始すると決定したことを歓迎している。シンガポールの巨額経常黒字の背景には一定の構造的要因があるものの、シンガポールは、大幅かつ継続的な対外黒字を縮小するため、実質為替レートが経済ファンダメンタルズに沿ったものとなるよう努力しつつ、高い貯蓄率を低下させ、国内消費を押し上げるような改革に取り組むべきだ。

 

◎マレーシア

マレーシアは2015年以来、米国とのモノの2国間貿易で大幅な黒字を維持しており、2019年6月までの4四半期で260億ドルを計上した。マレーシアの経常収支は、数年連続して減少した後、2019年6月までの4四半期でGDPの3.0%まで増加した。マレーシアの中央銀行はここ数年、外国為替市場で両方向に介入してきた。米財務省の推計によると、マレーシア中銀は2019年6月までの4四半期、通貨下落圧力のさなか、リンギを支えるためにGDPの0.3%に相当する外貨を売り越した。近年のマレーシアの広範な対外リバランスは歓迎すべきものであり、マレーシアは、質の高い透明性のある投資を奨励し、予防的貯蓄を最小限に抑えるのに役立つ十分な社会支出を確保する的を絞った政策を通じて、対外リバランスをさらに進めることができる。米財務省はまた、為替介入の透明性を高めるようマレーシア当局に要請する。

 

◎ベトナム

ベトナムのモノの貿易での対米黒字は大幅に増加し続けており、2019年6月までの4四半期で470億ドルに達した。一方、所得の対外支払いの増加が依然として高水準のモノの貿易黒字を相殺したため、ベトナムの経常収支は同時期に徐々に縮小、GDPの1.7%となっている。ベトナムは、ドルとの緊密な関係を維持するため、頻繁かつ双方向に外国為替市場に介入している。ベトナム当局は米財務省に対し、2019年6月までの4四半期における外貨の純購入額がGDPの0.8%だったと報告している。これらの購入は、外貨準備が標準的な適正基準を下回ったままであり、外貨準備を再構築する合理的な理由があった状況で行われた。この4四半期の間、外貨の購入は売却を上回っていたが、ベトナム中銀は両方向に介入しており、2018年下半期にはベトナムドンへの下方圧力に抵抗するために外貨売りが行われた。ベトナムは、金融政策の枠組みを強化し、外貨準備が十分な水準に達した段階で、介入を縮小し、実質実効為替レートの段階的な上昇を含む経済ファンダメンタルズを反映した為替レートの動きを許容すべきである。ベトナムは為替介入や外貨準備の透明性を高めるべきだ。

 

米財務省は、現時点では「監視リスト」には掲載されていないが重要な基準を満たしそうな国や地域(台湾やタイなど)を含め、1988年及び2015年法の要件の下で、米国の貿易相手国の為替政策及びマクロ経済政策を引き続き注視していく。例えば、台湾はアジアの主要経済の中で唯一、IMFの基準に沿った国際準備の完全な詳細に関するデータを公表していない。米財務省は、対外バランス、外貨準備、及び介入に関するデータを適時かつ透明性のある方法で公表することの重要性を引き続き強調する。

 

*米為替報告(原文):https://home.treasury.gov/system/files/136/20200113-Jan-2020-FX-Report-FINAL.pdf

Reuters
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