武漢は「この世の終末」、足止め米大学生の孤独な脱出行

2020/01/30
更新: 2020/01/30

[29日 ロイター] – 米国生まれの大学生、ニコラス・シュナイダーさん(21)は1週間ほど前から、新型コロナウイルスの感染拡大で隔離措置が取られた中国湖北省武漢市から脱出する方法を模索し続け、そのたびに失敗してきた。

人口約1100万人の武漢市。普段はせわしなく人々が行き交う街頭を、今は不気味な静けさが覆う。シュナイダーさんは武漢大学で、応用数学の一種である測地学を学ぶ学生だ。野生動物などを違法に売買し、専門家がコロナウイルスの感染源だと考えている海鮮市場から、約16キロメートルの地点に大学はある。

「ゴーストタウンのようだ。人も自動車もほとんど見ない。不気味。まるで、この世の終末のような気がする」。シュナイダーさんは29日、ロイターの電話インタビューにこう答えた。

中国当局は23日、感染拡大を食い止めるため、武漢に出入りする交通網をほとんど遮断した。中国本土の新型コロナウイルスの感染者数はその後、2002─03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)を超えた。

米国とドイツの二重国籍を持つシュナイダーさんは23日朝、市を出る列車に飛び乗ろうと思ったが、両親に止められたという。

「ウイルスが広がっている時に駅のような場所に行くものじゃないと。だからとどまることにしたけど、その時初めて恐怖を感じた。どうしていいか分からなかったから」

シュナイダーさんは、米独の当局者らに脱出の方法を照会。米大使館は1100ドル(約12万円)のチャーター機の座席を用意してくれた。

しかし大使館の担当者からは、シュナイダーさんの住所から48キロも離れた空港まで自力で移動するしかないと告げられた。ほとんどの交通が停止していて、行く手段がないと言うと、座席は他の人に譲ると言われたという。

「耳を疑った。困っている国民に対する態度じゃない。勝手にしろと言われているようだった」

チャーター機は210人の米国人を乗せて飛び立ち、29日に米カリフォルニア州に到着したもようだ。

米国務省幹部は29日に電子メールで「新型コロナウイルスによるリスクが高く、弱い立場にある人々を優先した。小さな子どもや高齢者、他の健康問題を抱える人々など、リスクの高い人々だ」と回答した。

大半の年月をドイツで暮らしてきたシュナイダーさんは、次にドイツ大使館員に連絡を取った。すると、足止めされている他の学生数名と一緒に空港に送迎するバスと、2月1日にドイツに出発する航空便の座席を約束してくれたという。

ロイターは、ドイツ政府代表にコメントを求めようとしたが、今のところ連絡が取れていない。

航空便が出発するまで、シュナイダーさんは自室に引きこもり、近所に水と食料の買い出しに出掛ける以外は外出を控えるつもりだ。出発時にはプロバスケットボールのチーム、マイアミ・ヒート(熱)のロゴが入った黒いキャップをかぶり、手袋を着け、厚い布のマスクで鼻と口を覆うつもりだ。

2月1日にはぜひとも脱出したい。「縁起の悪い服装で自分の首を絞めなきゃいいんだけどね」

 

1月29日、米国生まれの大学生、ニコラス・シュナイダーさん1週間ほど前から、新型コロナウイルスの感染拡大で隔離措置が取られた中国湖北省武漢市から脱出する方法を模索し続け、そのたびに失敗してきた。写真は人気のなくなった武漢市街地。25日撮影。ソーシャルメディアより(2020年 ロイター/INSTAGRAM/EMILIA)

 

Reuters
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