ポストコロナの世界 中国の遠ざけ方

2020/06/09
更新: 2020/06/09

全米各地で極左集団アンティファ(Antifa)が暴動を起こしている。このアンティファについては、過去にコラム『日本人が知らない北米左翼の恐ろしさ』で一度紹介したことがある。6月1日、トランプ大統領はアンティファをテロ組織に指定するとツイートした。アンティファの暴動の裏には、一部に中国の影響力が及んでいるとの報道もある。

新型コロナウイルスの影響で、中国は徐々に孤立を深めつつある。特に、米国政府は中国とのデカップリングを急速に進めている。WHOからの脱退や、G7に中国以外の大国を新たに迎え入れようとする動きはそれを象徴する。当然、中国政府はそれに対して巻き返しを図るだろう。そのとき彼らに役立つのが、世界に散らばる親中左翼勢力である。しかし、彼らの味方はそれだけではない。

中国の最大の協力者は新自由主義者である。以前のコラム『新型コロナ問題を拡大させた左翼と新自由主義の共存共栄』で述べた通り、新自由主義者は中国にとって非常に都合の良い存在である。ポストコロナの世界において、中国による悪影響を排除するために最も重要なのは、新自由主義者の動きを封じることである。

日本でも緊急事態宣言解除後、新自由主義者たちは早速中国を利する動きをしている。彼らの一部が、専門家会議の医師たちは最大42万人が死ぬといって危機を煽り、無駄に自粛を強いて経済にダメージを与えたとして、痛烈な批判を始めたのである。

そもそも、経済への負の影響を問題にするなら、情報を隠蔽するとともに渡航規制に反対して世界中にウイルスをばら撒いた中国政府と、経済への悪影響を理由に国境を早期に封鎖することに反対したグローバリストの新自由主義者にこそ批判が向けられるべきである。国境封鎖を早期に行っていれば、台湾のように国内経済への影響をより小さくすることができたのである。それに反対しておきながら、感染者拡大抑制のために行った自粛による経済への悪影響の責任を医師たちに負わせて誰が得をするかは、言うまでもないだろう。

日本国内に巣食う親中派と新自由主義者たちは、今後時期尚早であっても、海外からの渡航者受け入れ緩和を必ず画策するはずである。中国の感染者は減っているから、もう受け入れができるという主張をしてくるに違いない。しかし、中国政府が発信する情報が全く信頼できないことは、第一波で既に明らかになっている。中国政府の言うことを信じて、また同じ轍を踏むわけにはいかない。

今後、世界は米国を中心とした法の支配を重んじる自由民主主義陣営と、中国共産党独裁体制に従う国々とで二極化していくと考えられる。ほとんど全ての日本人は法の支配と自由民主社会の維持という価値観を共有しているのであるから、日本は前者に加わるのが当然の成り行きである。

ところが、新自由主義に毒された日本の経営者たちは、これを全く理解していない。そのことは、5月24日のNHK日曜討論で、経団連の中西宏明会長が「中国は非常に大きなマーケットだし、今は良い関係にもあります」と述べたことに象徴される。

オーストラリアのシンクタンクASPI(Australian strategic policy institute)が今年3月に発行した報告書 “Uyghurs for sale ‘Re-education’, forced labour and surveillance beyond Xinjiang(※編集部訳・売られるウイグル人:新疆における「再教育」、強制労働そして監視)” によると、世界の大企業83社がウイグル人を強制労働させている中国企業から調達を行っており、それに日本企業11社(日立、ジャパンディスプレイ、三菱、ミツミ、任天堂、パナソニック、シャープ、ソニー、TDK、東芝、ユニクロ)も含まれると記されている。中西会長が出身の日立製作所は、ウイグル人を強制労働させているKTKグループから部品提供を受けていたとの記載がある。中西会長の言う中国との良い関係とは、このような人権無視の強制労働により、安価に部品が調達できることを指すのだろうか。最近、企業倫理やCSR(企業の社会的責任)が盛んに言われるが、こういう企業に倫理や社会的責任を語る資格はない。

一昔前は、目先の利益より倫理を優先する経営者も存在していた。2011年に浙江省温州で起きた中国高速鉄道衝突脱線事故では、JR東日本のE2系をベースとした車両が事故に巻き込まれた。この車両が購入される際、JR東海は安全の保証ができないとの理由で入札を見送った経緯がある。2010年4月には、JR東海の葛西敬之会長(当時)が中国高速鉄道の安全性軽視を危惧する発言も行っている。中国への新幹線技術の輸出を、安全上の問題および知財保護の観点から見送った葛西会長の慧眼は称賛に値する。

また、グーグルの共同創業者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは有名だが、言論統制に協力するように強力に圧力をかける中国政府に対して、中国撤退の決断(2010年)を後押ししたのはセルゲイ・ブリンであると言われている。彼の両親は、同じく共産党独裁国家であったソ連から自由を求めて米国に渡ったという過去をもつ。そのため、ブリンは言論の自由に対するこだわりが非常に強く、それがグーグルの創業哲学にもなっている。残念ながら、ブリンが去った後のグーグルには、そうした理念は全く感じられない。

企業が外国でビジネスを展開する場合、その国においては違法性のない営利行為でも、先進国の倫理基準をもとに大きな社会的批判を浴びることは過去に多くあった。その典型例が、発展途上国の工場における児童労働である。1997年に発覚したナイキが委託するインドネシアやベトナムなどの東南アジアでの工場の事例は有名である。結果として、先進国の企業は是正措置を余儀なくされた。

これと同じ基準で考えれば、ウイグル人を強制労働させている工場からの調達は、厳しい批判にさらされて然るべきである。にもかかわらず、なぜそれが許されているのか。その理由は、中国の人権侵害を批判する声が十分大きくないからである。そうした声を上げる人権団体が育たない理由の一つに、中国共産党の圧力があることは想像に難くない。

人間の価値判断の基準は、大別すると次の3種類に分けられると私は考えている。

① 自分の感情が常に正しい(他人に厳しく自分に甘い)
② 周りの趨勢に従う(事なかれ主義)
③ 自分の頭で公平な客観基準を考える(自分が守れない規則を他人に押し付けない)

中国共産党をはじめとする左翼は①に該当する。今の経営者のほとんどは②である。葛西敬之氏やセルゲイ・ブリンは③に該当する。ほとんどの経営者が②である以上、彼らを動かすには、中国とビジネスをする企業は人権蹂躙に加担する企業だと糾弾する世論を盛り上げていくしかない。

もちろん、今後は米国からの外圧も厳しくなる。そうなれば、東芝機械が対ソ輸出で行ったココム(対共産圏輸出統制委員会)協定違反(1987年)や、ヤマハ発動機の中国への無人ヘリコプター不正輸出事件(2006年)のように、外国為替及び外国貿易法違反の対象として裁かれる中国ビジネスも増えていくだろう。しかし、いつまでも外圧頼みというのは危険である。

その意味で、日本政府が緊急経済対策の一環として、生産拠点が集中する中国から日本への国内回帰や第三国への移転支援のため総額2435億円を2020年度補正予算案に盛り込んだことは高く評価できる。このニュースは、国内ではあまり報じられなかったが、海外では大きく取り上げられ、ネット上で世界中から称賛のコメントが多数寄せられた。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、グローバル化の時代は終わったが、価値観を共にする国々との交流は今後も大事である。「価値観外交」という表現が使われ始めて久しいが、現実には目先の金の前にいつも屈していた。政財界に巣食う親中派の多さがそれを物語る。そのしっぺ返しが、新型コロナウイルスである。

ただ、見方を変えると、侵略と強制収容所送りというウイグル人と同じ痛手を負う前に、我々は警告を得られたと言えなくもない。これを生かさないのは、自ら進んで収容所に入るようなものである。私は日本人がそこまで馬鹿だとは信じたくない。チャイナ・マネーで腐った政財界へ本気で怒りの声をぶつけるのは今をおいてない。


執筆者:掛谷英紀

筑波大学システム情報系准教授。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。特定非営利活動法人言論責任保証協会代表理事。著書に『学問とは何か』(大学教育出版)、『学者のウソ』(ソフトバンク新書)、『「先見力」の授業』(かんき出版)など。

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