アングル:無症状者に感染力はないのか、中国発表に残る疑念

2020/06/09
更新: 2020/06/09

Cate Cadell and Roxanne Liu

[北京 3日 ロイター] – 中国当局の2日の発表によると、新型コロナウイルスが最初に確認された湖北省武漢で無症状の感染者300人を調べたところ、他の人々への感染は確認できなかった。各国が外出制限措置などの緩和を進めるなかで、これは心強い情報かもしれない。

だが専門家のなかには、無症状の人から感染する例は珍しくなく、COVID-19(新型コロナ感染症)制圧に向けた大きな課題になっているという見解もある。

<「無症状」か「発症前」か>

世界保健機構(WHO)の定義では、無症状感染者とは、症状を示していないものの、検査により感染が確認された人を指す。ただしWHOは、まったく症状が見られない患者の報告はほとんどないと注記している。

WHOによれば、「潜伏期」、つまり感染してから発症するまでの期間は「発症前(pre-symptomatic)」と呼ばれる。この期間には、キャリア(ウイルス感染者)から他者に感染する可能性がある。

公衆衛生の専門家は、無症状または発症前のキャリアの感染力の有無について、まだ結論を出していない。一部の専門家は、これまでのデータから見て、無症状であっても感染力については恐らく同程度の可能性もあるとしている。

WHOは発症前のキャリアが感染力を有するという点については同意し、さらに、今のところエビデンス(根拠)はほとんど無いものの、無症状のキャリアもウイルスを感染させる可能性があると述べている。

 

<中国の真意は>

中国では、新型コロナウイルスによる疾病COVID-19の患者が約8万3000人報告されている。この公式の患者総数には無症状の感染者は含まれていないが、3月31日から、無症状の感染者についても別扱いで報告されるようになった。

これに伴い、透明性の確保を約束した中国政府に対する疑念が高まり、一部の専門家は、中国政府がウイルスの拡大状況についても誤解を招く説明をしている可能性がある、と述べている。

クイーンズランド大学のウイルス専門家イアン・マッケイ氏は、「(こうした無症状の感染者を)本当に注意深く観察していれば、恐らく完全な無症状ではなく、もっと現実的な軽微の症例に相当するものが見られたのではないか」と語る。

「だが、『無症状感染』という言葉が広まり、定着しつつある。響きはいいが、有用な情報を与える言葉とは思えない」

中国において健康観察の対象とされている無症状感染者の数は、3月30日の1541人から、2日には357人まで減少した。

武漢では住民1100万人のほぼ全てを対象に検査を行ったが、新たな感染者は見つかっていない。

中国政府の上級医学顧問である鍾南山氏によれば、武漢で無症状キャリアの比率が低いのは、中国政府によるこれまでの報告とも整合していると指摘、米国の一部の政治家による主張とは異なり、中国がCOVID-19に関する隠蔽を行っていないことを示している、としている。

 

<他のアジア諸国では>

アジア諸国の一部では、無症状キャリアも感染確定者の数にカウントしている。

感染者数が300人強に留まっているベトナムでは、保健省のデータによれば約37%が無症状である。

研究者らは、無症状者からの感染は一般的であり、無症状の感染者2人から、少なくとも別の4人への感染が確認されているという。

積極的な検査実施によって早々に感染拡大を抑え込んだ韓国では、感染者の20─30%が無症状だったとしている。保健福祉省の高官によれば、新型コロナウイルスが潜伏期に広く拡散する可能性はあるものの、無症状感染者から感染する可能性は低いという。

東南アジアで最も感染者数の多いシンガポールでは、無症状感染者についてのデータを提供していない。だが、移民労働者が過密状態で暮らす社員寮で発生した陽性確定者の圧倒的多数が、軽症または無症状だったという。

フィリピンは、1万9000人近い感染者数の約13%が無症状だったと発表している。またインドに関しては、1月22日から4月30日までに陽性と判断された4万184人のうち、約28%が無症状だったとする調査がある。

Reuters
関連特集: 国際