アングル:「厄介者」の露天商、中国政府が突如奨励に転じた訳

2020/06/10
更新: 2020/06/10

[北京 5日 ロイター] – 3週間前、北京市当局者らは道ばたの露天商、シャン・ペンさん(51)を急襲して拘束し、仮ごしらえの屋台と、彼女の商品であるヨーグルトやズボン、それに電動三輪車まで押収した。

彼女はと言えば、警察に強制退去させられるのには慣れっこだった。

「お役人さん、どうかお目こぼしを。そうすれば私ども行商人はなんとか生きていけますから」と頭を下げ、釈放を乞うのだ。

1日当たり最低100元(約1550円)を稼いで帰途に就くのが、彼女の望みだ。年老いた母と保護施設から引き取った犬を養い、がん患者である自分自身も食いつなぐ必要があるからだ。

しかし、今日は様子が違った。シャンさんはあの日と同じく、にぎわう路地で、段ボール箱から真空パックのベーコンを取り出して売っていた。しかし、以前とは違い、当局から嫌がらせのような取り締まりは受けなかった。

中国の近代化する都市の風景の中で、当局からは疫病害のように扱われてきた露店商たち。だが、新型コロナウイルスによって同国の経済が前代未聞の打撃を被った今年、彼らの商売は一転して当局の奨励対象となり、意外な復権を果たしている。

<電子商取引大手も支援を約束>

先月開かれた中国の全国人民代表大会(全人代=国会)では、普通の人々の暮らし向きが広く議論された。その後に李克強首相は記者団に対し、今なお6億人が月収1000元で暮らしていると述べた。

失業者の膨大な増加が視野に入った今、中国指導部は蓄えの乏しい低所得層の失業問題に神経をとがらせるようになった。

当局は先週、従来の姿勢を転換。地方政府に対し、今年は行商人の数によって行政を評価することはしないと告げた。過去には、行商人の根絶に力を入れた地方高官が高く評価されていた。

山東省にある海辺の街を訪れた際、李首相は自ら「露店商経済」は人類の希望と中国の活力そのものだと持ち上げ、彼らに祝福を贈った。

これを受け、上海や成都といった都市は、異例のスピードで露店商経済を後押しする措置を打ち出した。新型ウイルス感染拡大の脅威が薄れた今は、武漢ですらその輪に加わっている。

電子商取引大手も支援を約束。アリババと京東商城(JDドットコム)は、行商人に後払いで商品を売る方針を表明。拼多多(ピンドウドウ)は露店の設営に必須となる懐中電灯や小型扇風機といった商品を値引き販売する。

政府系メディアによると、自動車の五菱汽車は、露店専用の新型ミニトラックに6月3日だけで5月全体を上回る受注があった。香港に上場している同社株はこの週に200%超も上昇した。他の自動車メーカーも、自分たちの一部の小型トラックは野菜売りや肉を焼いて売るように改造することができるとアピールする。

一方、露店で成功する方法を記した著者不明のPDF本がこの週、ソーシャルメディア上で人気を博した。題して「秘密の露店商マニュアル」。そこには、販売する携帯電話は最新版に限ること、そして「若い女の子がおおっぴらに買えないような」ブラジャーやショーツは店頭にディスプレーしないこと、などのノウハウが説かれている。

<経済効果よりも意識浮揚の対策>

一部のエコノミストによると、露店商ビジネスは国内総生産(GDP)にほとんど寄与しない。それでも政府が後押しするのは、雇用を安定させ、社会不安を抑えなければならないという強烈なプレッシャーを感じているからだ。

上海のエコノミスト、ニー・ウェン氏は「新型コロナがもたらした失業問題への、緊急かつ臨時の対応だ」と解説する。

モバイル決済企業に勤めるワン・カンさん(38)は給与を30%削減され、夕方にTシャツと玩具を売る露店商を始めた。

「お金が必要だからここにいる。1晩の稼ぎがたったの数十元でも、昼食代には事足りるからね」

中国社会科学院の研究者、イー・シャオフア氏は、露店商活性化策は少なくとも国民の気持ちを浮揚させると指摘。「結果として人々の外出を促し、街角に活気をもたらし、ひいては景気信頼感の上昇につながる」と語った。

 

6月5日、3週間前、北京市当局者らは道ばたの露天商、シャン・ペンさん(写真右)を急襲して拘束し、仮ごしらえの屋台と、彼女の商品であるヨーグルトやズボン、それに電動三輪車まで押収した。北京で5日撮影(2020年 ロイター/Lusha Zhang)

 

 

6月5日、3週間前、北京市当局者らは道ばたの露天商、シャン・ペンさん(写真右)を急襲して拘束し、仮ごしらえの屋台と、彼女の商品であるヨーグルトやズボン、それに電動三輪車まで押収した。北京で5日撮影(2020年 ロイター/Lusha Zhang)

 

Reuters
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