おごり高ぶった中国のナショナリズム 専門家「実に危険だ」

2021/09/14
更新: 2021/09/14

最近、アフガニスタンの政治情勢は世界の関心を集め、国際社会がアフガン国民の今後を心配するなか、中国のSNSでは、米軍のアフガン撤退とアフガニスタンの政策を嘲笑する書き込みが溢れている。有識者の間では、過激なナショナリズムは、中国を世界から孤立させているという見方が浮上した。

中国の王毅(おう き)外相は、7月に天津でタリバンの指導者と会談した。官製メディアはタリバンの黒い歴史に触れず、その一連の公約を報じた。中国のSNSには、米軍の撤退とアフガニスタンの政策をからかう投稿が埋め尽くした。中国共産党機関紙・人民日報系列の「環球時報」は、台湾をアフガニスタンに例え、台湾海峡で戦争が起きる場合、米軍はアフガニスタンのように台湾を見捨てるという見解を示した。中国人民大学の王義桅(おう ぎい)教授は、タリバンを「米国によって悪魔化されたアフガニスタン解放軍だ」とさえ呼んだ。

媚美から精日まで 誰でも標的になりうる

近年、中国の検閲はインターネットから実社会にまで蔓延した。「反米」の怒涛がいつまでも響き渡り、「媚美(アメリカに媚びる人)」と「精日(精神日本人)」は常にSNSで批判の標的となっている。精神日本人とは、日本に憧れて、精神的に自らを日本人とみなす中国人のことだ。

人気若手男優の張哲瀚(チャン・ジャーハン)氏は最近、靖国神社での写真撮影や、保守的な考えを持つ日本人と写真を撮ったことが暴露されて、ネットユーザーとメディアから批判を浴び、20社以上のCMが打ち切られた。

中国政府系の芸能業界団体である中国演出行業協会(CAPA)は声明文で、張氏を芸能界から追放することを要求し、「厳重な過ちを犯し、民族感情を害しただけではなく、青少年に著しい悪影響をもたらした」と咎めた。

張哲瀚氏は、ナショナリズムの怒涛に溺れた大勢のなかの一人に過ぎない。作家から有名人、スポーツ選手、高官まで、標的は大勢いる。

東京オリンピック期間中に、中国本土で売れっ子の台湾人有名タレント小Sが、台湾の選手を「国民的プレーヤー」と称したことで、台湾独立支持者の傾向があると批判され、多くの中国企業のCMを失った。

東京オリンピックで最初の金メダルを獲得した射撃選手の楊倩(よう せん)氏は、ナイキの靴を愛用していることで、ネット上で「外国製品に媚びる」などと批判された。

今年6月、日本外務省から文化交流活動に招待された若手作家の蔣方舟(しょう ほうしゅう)氏は、中国のSNSで「日本のカネをもらって、日本のために宣伝する」と糾弾されたため、彼女とその他の中国人参加者らは資金の提供先の開示を余儀なくされた。

武漢在住の作家、方方(ほう ほう)氏の著書『武漢封城日記(武漢の都市閉鎖日記)』は、新型コロナウイルス(中共ウイルス)発生初期の現地の状況を実録したノンフィクション本。その中には政府の初動対応を批判する内容もあった。同書は後に英語に翻訳され、海外で出版された。 この本が災いとなり、方方氏はインターネットで批判の嵐に遭い、「裏切り者」「外国勢力にナイフを手渡した」などと罵詈雑言と脅迫を浴びせられた。中国・湖北大学の教授である梁艶萍(りゃん えんひん)氏は方方氏を支援したことで懲戒免職となった。

ナショナリズムは諸外国にも向けられる

今年5月、インドで中共ウイルス感染症の死亡者が激増したなか、最高指導部の中央政法委員会の公式微博アカウントでは、「中国の点火vsインドの点火」と題する記事は、中国のロケット発射時の点火とインドの火葬場の点火を比較して、インドを皮肉った。

2019年末、武漢市で中共ウイルスの感染が初めて確認され、たちまち世界に広がった。2021年はじめ、英BBCの記者が北京で街頭インタビューし、感染の現状について尋ねたところ、一人の市民は薄笑いを浮かべながら「あなたの国よりはるかにマシだ!」と答えた。中国メディアはその映像をこぞって放送し、ネット上では「BBCへの顔面パンチだ」と拍手喝采のコメントが噴出した。

米軍のアフガン撤退について、中国共産党機関紙・人民日報傘下の「環球時報」は独自の視点を発した。胡錫進(こ しゃくしん)編集長は米軍撤退直後、『アメリカはアフガニスタンから抜け出して、中国を標的にするのか。それは簡単ではない!』と題する記事で、「アメリカは本当にダメになったようだ」 「アメリカは対中姿勢を硬化させるであろうが、アフガンからの撤退は実にミスだ」と米政府を批判した。

環球時報の社説は、「アフガニスタンの状況から判断すると、台湾海峡で戦争が起きた場合、台湾の防衛線はすぐに崩れ、米軍は助けの手を差し伸べず、民進党はすぐに降伏する」と評した。

2012年8~9月、日本側の尖閣諸島国有化に抗議して中国で大規模な反日デモが発生した。一部の都市では、日本企業や日本製品を破壊・略奪する暴動に発展した。

2017年、韓国がTHAADミサイルシステムを配備したことで中国政府の怒りを買い、両国関係が緊張した。中国は娯楽から観光まで幅広い分野で韓国に報復措置をとった。

‍有識者の間では、近年、中国の活発なナショナリズムは暴走する野生の馬のようだと危惧する見方がある。

ナショナリズムの台頭

1996年、『中国可以说不(ノーと言える中国)』という本が発売された。冷戦終了後の米中関係を分析、アメリカの価値観に憧れる中国人を軽蔑し、中国が超大国になると予測する内容だ。「1990年代の中国のナショナリズムの台頭を示す一冊」といわれた。

2009年、同書のグレードアップ版とされる『中国不高兴 (中国は機嫌が悪い)』が出版された。欧米を厳しく批判し、中国は欧米と「条件付きで決裂すべき」と過激な言論を繰り返した。中国人は常に欧米の機嫌を取るのではなく、その影響と束縛から抜け出すべきなどと主張した。

米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、中国のナショナリズムの発展を長い間観察してきた、米デンバー大学ジョゼフ・コーベル国際研究大学院の趙穂生(ちょう えいせい)教授の見解を紹介した。

同教授の見方では、1990年代の中国政府は、国民の支持を取り付け、冷戦終了後の困難な時期を乗り切るため、自己防御の目的でナショナリズムを誘き出して利用した。

趙教授は、今の中国のナショナリズムは「防御目的」から「拡張目的」に変わったとみている。第2次胡錦濤政権の2008年ごろから、その傾向が現れたが、2012年に習近平政権が発足すると、状況はエスカレートしたという。

中国のジャーナリスト、鄧聿文(とう ゆーぶん)氏はVOAに、習近平時代のナショナリズムとこれまでのナショナリズムの2つの相違点を次のように分析した。

第一に、習近平時代になって中国の経済が成長し、国民感情は「自己憐憫」から「自信」に変わった。第二は、過去は政府がナショナリズムを主導したが、現在は政府と民間の双方が主導し、民間はより大きな役割を果たしている。留学経験のある若者たちは、ナショナリストの感情がとりわけ強い。政府は今後もナショナリズムを利用していくが、習近平の百年の夢は、実際にはナショナリズムに取り憑かれた悪夢である。

北京在住の政治オブザーバー凱波(がい ぼう)氏はVOAの取材に対して、この種の「私たちはNO.1」のナショナリズムはとても危険だと憂慮を示した。「中国のナショナリズムは反米、反日にとどまらず、西側の民主主義と工業文明などすべての文明よりも優れている、という錯覚に陥っている」

(翻訳編集・叶子)