「中国人の良心」を示した若き医師の遺言【現代中国キーワード】

2023/01/10
更新: 2023/01/25

【健康的社会不該只有一種声音】

訳文は「健全な社会は、一つの声だけに依拠してはならない」。

今から3年前の2020年2月7日、武漢肺炎で死去した武漢の眼科医、李文亮(りぶんりょう)医師が最後に遺した言葉である。

この「一つの声だけ」とは何か。中共のプロパガンダを指すとみても良いが、もっと大きく、中国社会にはびこる巨大な不条理と読み取ることもできるだろう。享年33歳。まだ若く、誠実な医師の非業の死は、3年を経た今でも惜しまれてならない。

周知の通り李文亮医師は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック発生を警告するため、最も早期(2019年12月30日)に現地から発信した人物の一人である。

ところが1月3日、李医師は「インターネット上に虚偽の内容を掲載した」として武漢市公安局に呼び出され、訓戒処分を受ける。

それにしても不可解なのは、医療従事者でもない公安局がなぜ「虚偽の内容」と判定できるのか、ということだ。はじめから「当局が隠蔽したかった事実」がそこにあった、と見るほうが自然ではないか。

いま中国の病院は、どこもが「戦場」となっている。中国で慣習化していた「紅包(医師へ贈る金銭)」など何の役にも立たない。医師や看護師も、自身が陽性でありながら連日激務に向かっているほどだ。

患者も医師も気の毒な限りである。今はただ、李文亮医師の遺言を思いながら、究極的な「医の使命」のなかに突然ほうり込まれた中国の医療従事者の無事を祈りたい。