オピニオン 【上岡龍次コラム】

冬の攻勢はロシア軍最後の賭け

2023/02/05
更新: 2023/02/10

 

戦車提供とロシア軍の攻勢

ロシアがウクライナに侵攻して間もなく1年を迎えようとしている。ウクライナは粉砕されると予想されたが実際は逆襲に成功。ウクライナ北部のロシア軍は敗走しウクライナ東部と南部で戦線が膠着した。

ウクライナは欧米からの軍事支援でロシア軍に対抗し、時には反転攻勢を成功させる。ロシア軍はウクライナ軍よりも数は多いが、損害を出すことを繰り返している。だがウクライナ東部でロシア軍は徐々に攻勢を増す。第一次世界大戦型の塹壕戦が再現されるが損害無視のロシア軍が前進を始めた。

そんな時に、1月25日にアメリカはエイブラムス戦車をウクライナに30両提供することを公表。その後ドイツもレオパルト2戦車をウクライナに提供することを公表。これでレオパルト2戦車を保有する国はウクライナに提供することが可能になった。その後ロシアはウクライナに対してミサイル攻撃を実行した。

ウクライナ東部ではロシア軍の攻勢が続いている。欧米からの軍事支援が強化されるニュースが流れるほどロシア軍の攻勢は激しくなっている。レオパルト2戦車がウクライナに到着するのは早くて3月。さらにウクライナ軍が実戦運用できるのは早くて7月。これでロシア軍は勝利を急ぐことになった。

 

ウクライナが求めていた300両

ウクライナは以前から欧米の戦車300両以上を求めていた。この数字は戦車師団であり戦略単位の戦力を求める意味を持っている。基本的に戦術の最小単位は一個大隊。戦車であれば約50両。戦車200両で戦車連隊であり400両で戦車師団。一個師団は戦術の最大単位であり戦略の最小単位になる。

このため戦術で影響を与えるのは戦車50両の一個大隊から。そして戦略で影響を与えるのは戦略の最小単位である一個師団からになる。ドイツ製戦車レオパルト2はA4・A5・A6と型式が異なる。このため同じレオパルト2戦車だがA4・A5・A6で性能と装備が異なる。兵站・訓練・整備で負担になるが、今後提供されるレオパルト2戦車はA6に改修されると思われる。何故なら、そうでもしなければ兵站・訓練・整備でウクライナ軍の負担になる。少しでも負担を軽減するなら型式を統一することが望ましい。これは製造元のドイツが担当するので今後のサポートで対応できる。

アメリカはエイブラムス戦車30両、イギリスはチャレンジャー2戦車14両をウクライナへ提供する。両国合わせて約一個大隊になる。現段階ではレオパルト2戦車が大半を占めるが全体で321両。国ごとに編成が異なるが概ね一個師団の戦力になる。これでウクライナ軍は戦略を左右する駒を獲得したので、今後の戦局を左右する権利を獲得した。

だが直ぐに問題が解決するわけではない。最初のレオパルト2戦車がウクライナに到着するのは3月からで、一個大隊から運用できるのは早くても夏からだ。さらに300両の戦車で運用するなら早くても冬からになると推測する。

 

ロシア軍の焦りと賭けの攻勢

ロシア軍はウクライナ東部で攻勢を行ったが長らく膠着状態が続いた。だが1月になりウクライナ東部のバフムト付近でロシア軍が前進を開始。ロシア軍の攻勢は損害を無視したものだが、もしかすると欧米の軍事支援を察知したので攻勢を急いでいる可能性がある。

ウクライナの春と秋は泥濘期。泥濘になると道路以外は機動が困難。このため泥濘期では攻勢は困難。そうなると攻勢を行うなら冬と夏になる。欧米の軍事支援として戦車がウクライナに到着するのは3月から。さらに訓練と数が揃うのは7月以降になる。到着する戦車は300両以上だから、7月以後からウクライナ軍の戦力は増強され、ロシア軍よりも優勢になることは明白。

つまりロシア軍は、ロシア軍から攻勢が行えて、ウクライナ軍の戦力が増強される2月末までにウクライナ軍に対して致命的な損害を与えなければならない。しかも最低でも一個師団をウクライナ軍から消し去る必要に迫られている。

3月からは泥濘が始まるからロシア軍は春の攻勢を行えない。仮に夏に攻勢を行うとウクライナ軍は欧米の戦車で強化されている。秋になると泥濘になり攻勢は行えない。では冬に攻勢を行うとウクライナ軍はさらに強化され300両の戦車師団になっている可能性がある。

こうなるとロシア軍の選択肢は一つだけ。2月末までにウクライナ軍を撃破すること。これができなければロシア軍に勝利はない。だからロシア軍はウクライナ東部のバフムト付近で損害無視の攻勢を行っている。バフムト付近ではロシアの民間軍事会社ワグネルが囚人兵を投入している。

ワグネルの囚人兵5万人が投入され残ったのは1万人。4万人は戦死・脱走・捕虜に該当するが、それだけ損害無視で攻勢を行っている証し。ならばロシアは欧米の軍事支援が強化されることを知っていた可能性が高い。だから春までに損害を無視した攻勢で前進を行う理由になる。

同時にロシア軍最後の攻勢であり、賭けの攻勢だ。今年の2月までに勝利できなければ7月からウクライナ軍が優勢になるのは明白。今後アメリカはF-16戦闘機をウクライナに提供する可能性が示唆されており、仮に実現すればウクライナ軍は航空優勢を獲得できる。戦闘機は20機から戦力になるので、20機以上の機体数になればウクライナ軍が主導権を持つことになるだろう。

 

ロシア軍の賭けとプーチン大統領の決断

ウクライナ情勢は2月までの戦闘が戦局を左右する。ロシア軍がウクライナに対して致命的な損害を与えればロシア軍が勝利する。もしくは欧米からの軍事支援があっても膠着状態になる。だがウクライナ軍が遅滞行動で損害を軽減すればロシア軍の敗北が決定する。

今のウクライナ軍は損害回避を選んだ遅滞行動か、ウクライナ南部の攻勢でロシア軍を撃破することもできる。ウクライナ軍に選択肢はあるがロシア軍にはない。ロシア軍は2月末までに勝利を得られないと敗北が確定する。だから損害無視で前進するしか道はないのだ。

ロシア軍には悲壮な最後の賭けになった攻勢だが、プーチン大統領には最後の決断になるかもしれない。何故ならウクライナ軍が7月から強力になるのは明らか。そうなると戦場はウクライナからロシアに変わる。これではプーチン大統領は失脚するか亡命。最悪の場合はクーデターで殺害される未来が待っている。これを回避するためにプーチン大統領は、ロシア軍が2月末までに結果を出せないなら戦術核を使う可能性がある。これは2月末までに判明するが、世界の運命をプーチン大統領が握っている。

 

この記事で述べられている見解は、著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。
 

(Viwepoint https://vpoint.jp/ より転載)

 

戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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