建設中の大間原発を見る 日本のエネルギーを変える重要施設

2023/04/17
更新: 2023/04/17

建設中のJパワー(電源開発株式会社)の大間原子力発電所(青森県大間町)を今年3月末に取材した。2030年の完成を目指している。ここは国際公約になっている核物質のプルトニウム削減を燃料として使うことで実現すること、また現在の電力不足の解消に貢献することなどを期待されている。日本のエネルギー政策に重要な影響を与える発電所だ。現状を報告する。

国際的に注目される日本のプルトニウム

「日本が保有するプルトニウムは核弾頭千発以上に相当する。核拡散の観点から深刻なリスクを生んでおり、所有量は必要量をはるかに超えている」。2015年10月に軍縮をテーマにした国連総会で中国の劉結一国連大使が日本批判の演説を行った。

この批判は外交上の嫌がらせや牽制であろう。ただし日本のプルトニウムが、世界に注目されていることが分かる。プルトニウムは核兵器の材料になるため、その拡散を警戒して、厳重な管理や条約上の規制が行われてきた。

原子力発電では、発電時の核分裂反応でプルトニウムが作られる。この処理で、日本は核燃料サイクル政策を採用している。原発から出る使用済み核燃料を再処理し、取り出したウランやプルトニウムを新しい燃料として再利用する。プルトニウムは余剰分を持たず、平和利用のみに使うことを国際公約にしてきた。しかし、このプルトニウムをなかなか減らせない。大間原発はそれを燃料として消費できる発電所だ。

大量のプルトニウムを使う発電所

プルトニウムの発電利用は、当初はそれを原料にする高速増殖炉で行われる予定だった。ところがそのタイプの原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)で2016年に廃炉となり、開発は足踏みしている。高速炉を使わなければ、プルトニウムはウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料にして原発で使い消費するしかない。しかし原発の再稼働がなかなか進まない。

大間原発はそのMOX燃料を使うことを想定して建設された。プルトニウムを最大で年1.7トン消費できる。日本では国の研究機関や各電力会社などが、使用済み核燃料などの形で、また再処理して発電用に加工された形で、プルトニウムを約46.1トン保有している。

「この発電所は日本のエネルギーや原子力の未来に重要な意味を持っています。責任を感じています。地元の皆様との約束もあり一日も早く稼働させたい。安全性を高めた原子力発電所を作りたいです」。大間原発を案内した同社幹部は、このプラントへの意気込みを語った。

建設足踏みは規制の失敗

大間原発の発電出力は国内最大級の138万3000キロワット(kW)と国内最大級だ。炉の形式は安全性を高めた改良型沸騰水型原子炉(ABWR)で、日立GEニュークリアエナジーと東芝を中心とする企業グループが建設を行なっている。

同原発の建設現場を訪問した日は、晴れだがすさまじい風が吹いていた。ここは強風で知られる津軽海峡に面している。風速毎秒15メートル以上の強い風が大間では冬と春先を中心に年120日以上観測されるという。風を防ぎ、設備の劣化がしないようにするため、途中まで建設の進んだ原子炉は覆いがかけられていた。ここで建設に関わる人たちの大変さを認識した。

見学した時は、発電所の最重要点である原子炉付近で作業をする人が少なかったが、道路、事務棟などの建設は進んでいた。これは原子力規制当局の審査の遅れによるものだ。

同発電所は2008年に建設が始まり、当初は2014年の運転開始を目指していた。ところが2011年3月11日の東日本大震災、それによって発生した東京電力福島第一原発事故で、原子力規制が抜本的に見直された。新しくできた原子力規制委員会は全ての原子力施設で一度出した許認可を、新しく作った新規制基準に基づき審査をしなおしている。

Jパワーは2014年に新規制基準に基づく大間原発の適合性審査を申請した。しかし現時点(2022年4月)段階でも、敷地内の地層と地震の発生予想や振動の評価について、審査の結論が出ていない。そのために私が現地で見たように、発電所の主要部分の工事ができない。申請から8年経過しても結論が出ないのは、明らかに原子力規制委員会・規制庁の審査に問題がある。

それでもJパワーは、認可の必要のない部分の準備を進めている。シミュレーション施設での運転訓練、事故や自然災害に備えた防災訓練をすでに行っている。

2010年に行われた原子炉格納容器の搬入。ただし、原子炉の本体(圧力容器)はまだ設置されていない。(Jパワー提供)
運転シミュレーターでの訓練(Jパワー提供)

電力不足の解消、技術継承など多面的な意味

そのほかにも、大間原発にはさまざまな意味がある。現在の日本は電力が不足気味で、それが長期化しそうだ。電力自由化によって各電力会社の収益が悪化して、巨額の設備投資が必要な原子力発電所の建設が難しくなっていることが一因だ。同原発の完成は電力不足の解消にある程度役立つ。さらに稼働した場合には地元には税収や人口の増加などで経済効果が期待できる。

そして大間原発の建設は、日本の原子力発電の技術継承の意味がある。建設工事が行われている原発は、今ここしかない。東日本大震災前に、中国電力島根3号機(島根県松江市)がほぼ完成したが現在は建設が止まった。東京電力東通原発(青森県東通村)は震災前に建設の認可が出たものの、整地をした段階で止まっている。

この10年、中国とロシアの原子力産業は自国での建設を重ね、輸出に成功して力をつけてきた。一方で、かつては世界トップを走っていた日本の原子力産業は、福島事故の影響で停滞してしまった。大間原発の建設は、原子力発電所の建設技術を未来に伝えて中露の原子力産業との競争に役立てるという、重要な意味を持っている。

原子力の諸問題を解決に前進させる発電所

原子力をめぐる批判一色だった社会の雰囲気は変わりつつある。政府は昨年末にGX(グリーントランスフォーメーション、経済の脱炭素化)の手段という名目で、これまで曖昧にしていた原子力の未来について、活用するという政策転換を打ち出した。世論も原子力容認、再稼働を支持する声が増えつつある。ウクライナ戦争、そして電力不足と価格上昇という現実を見て、多くの人がこれまでの原子力政策への混乱のおかしさに気づいたのだろう。

大間原発は、そうした原子力の変化の先駆けとなる象徴的な意味も持つ。これまで述べてきたようにその完成と稼働によって、原子力の諸問題が解決に向けて前進する。さらに中国との競争や同国からの外交的圧力を跳ね返すための、重要な施設になっている。

多くの役割がある大間原発の意義を、日本国民にぜひ知ってほしい。そして早急に完成、稼働させるべきだ。この原発の竣工は、停滞した日本の原子力の再生に第一歩になると期待している。

ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。
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