日本で外国人が一番多い街、埼玉県川口市の現状から考える

2023/05/15
更新: 2023/05/14

入管法改正案は今国会での成立が見込まれている。退去拒否外国人や難民認定申請乱用に対処する。出入国管理局によると、2021年12月時点で送還拒否者は3200人以上、このうち3分の1以上が日本国内で訴追されたものだ。

労働人口の不足に苛まれる日本にとって外国人との共生社会の実現が叫ばれて久しい。しかしこの数字は課題をありありと私たちに突きつける。

海外からの移住者数は増加するも異文化への対応に苦慮する自治体は少なくない。経済ジャーナリストの石井孝明氏は、埼玉県川口市の芝園団地の協調成功例を挙げつつ、トラブルに悩む同市や隣接する蕨市住民の現状も指摘する。警察も手をこまねいているという。石井氏からの生々しいレポートが届いた。

日本には外国人居住者が約296万人もいて「移民大国」とされる。行政は「多文化共生」を唱え、そのメリットも多い一方、生活の場でトラブルも頻発している。外国人の居住数が全国で最も多い、埼玉県川口市を訪ねて考えた。

多文化共生、前向きに変化した芝園団地

5月の連休中に同市内の芝園団地を訪れた。「外国人によるゴミや騒音などのトラブルが絶えない荒れた団地」。ネット上にはこんな書き込みがある。意外にも、今のこの団地は清潔で静かだった。片言の日本語と普通の日本語で老婦人2人が、団地の掲示板前で会話をしていた。中国人と日本人らしい。商店にも、団地内の保育園にも、日本語と中国語の看板が並ぶ。

ここは1978年に県とUR(都市公団)が巨大団地を建設した。建物の多くは、15階建てで、当時としては高層の建物で人気だった。ところが1990年代から住民の高齢化による死亡や転出が続き、空室を中国人が埋めた。今の住人5000人のうち半数が中国人になったとされる。

住民の努力できれいで清潔になった川口市の芝園団地(石井氏撮影)

「住民自治会が頑張ったからです」。地元の案内をしてもらった奥富精一川口市議会議員が説明した。中国人の自治活動や生活ルールが周知され、団地も改修されきれいになった。移り住んだのはホワイトカラーや料理人の世代で、親世代を呼び寄せた。適応が遅かった世代も次第になじんでいった。子供たちは地元の学校に通う。教育熱心な中国人家庭は変化が早いようで、各世代にも影響した。

もちろん今でも日本人に溶け込まない中国人居住者もいるが、大半の行動は変化した。近隣の苦情はまだあるが、だいぶ減った。住民の取り組みで、外国人と協調して居住した成功例に、この団地がなるかもしれない。

少子高齢化の影響で、川口市の住宅地、また駅前には空いた家や事務所がある。そうした場所を外国人が埋める。受け入れにはメリットがある一方、ゴミや騒音の問題で日本人が引っ越すこともある。プラスとマイナス両面の作用をはらみながら川口市では外国人の人口増が進行している。

西川口駅前の街の汚れ。日本語に加え、英語、中国語、韓国語、トルコ語で「ゴミを捨てるな」と呼びかけが書かれている(石井氏撮影)

クルド「難民」との生活トラブルが今の課題

川口市の外国人住民は約3万9000人(21年12月末、同市統計)と、市人口約60万9000人の約6.4%を占め、その数は全国自治体で1位。国別に見ると、中国、ベトナム、フィリピン、韓国、トルコの順だ。埼玉県には外国人と共生してきた歴史がある。

今、問題になっているのはトルコ系クルド人の行動だ。危険運転や迷惑行為に住民が困惑している。埼玉県南部に推定2000人いるとされるが詳細は不明だ。西川口駅、隣の蕨駅(わらび)を歩くと、男性のクルド人が目立ち、印象としてはもっと多い感じがする。彼らはトルコ政府のパスポートと観光ビザで来日し、その期間内にトルコ政府に迫害される「政治難民」と申請する。却下されても申請を続ける。申請中は労働が認められるため、ここに何社かある解体業、産業廃棄物処理業で働く。「政治難民とは思えず、大半が就労目的と思われます」(奥富議員)。

クルド人武装勢力のテロが行われ、トルコ政府はここ数年、その取り締まりを強化しているが、日本にクルド人はその紛争前からいて、近年さらに数が増えたようだ。

川口市内でクルド人が経営するケバブ店を訪ねた。店員は無愛想で日本語はしゃべれないが、料理は美味しかった。異国を感じることは楽しい。アマルさんというクルド人の20歳の解体工と話をした。会話は弾んだが、「どのような立場で日本にいるのですか」と聞くと、「政治難民です」と言って、顔がこわばった。「本当に政治難民ですか」と重ねて聞くと、「トルコに帰ると迫害されます」と下を向いた。会話は終わった。

街を歩くクルド人と思われる男性4人に声をかけた。最初はにこやかに挨拶を交わしたが、取材を申し込むと「日本語分かりません」と言って去っていった。記者を警戒するのは当然だが、話せない事情がありそうだ。

危険運転問題、住民の生命を脅かす

日中の市街地で、クルド人は多いが、それは大きな問題ではない。日常生活の中で、住民と摩擦が起こる。警察が関与しづらく、日本人では話し合うことできる身近な問題の解決が難しい。ゴミ出し、騒音、運転などだ。特に運転マナーが良くない。私が現地を訪れたのは5月の連休中で、クルド人の車は少なかった。それでも2回、クルド人と思われる男性の車が無理に車列に割り込もうとした。

川口市内で見られたトルコ語で書かれたゴミ出しルールを守ってと呼びかける看板。収集日ではないのにゴミが捨てられていた(石井氏撮影)

奥富議員の家の周辺では、この1年で5件ほど車の事故があった。一例を示すと、民家の塀に車が突っ込んだ。犯人はクルド人らしいが、結局特定できず、修理費用は住民が負担した。別の例では、クルド人が追突事故を起こし、運転者がすり替わろうとした。無免許運転のためらしいが目撃者がいてそれが発覚した。警察が犯人を連行しようとすると、10数人のクルド人が集まって抗議のために騒いだ。

赤柴新田という場所では、クルド人経営の産廃、解体業社が集まっている。そこに集まる車の出入りが激しい。道が狭く、通学路と重なっているので危険だ。実際に川口市内で昨年12月にひき逃げ死亡事故が発生し、68歳の日本人男性が亡くなった。19歳の犯人のクルド人少年は出国しようとして、空港で逮捕された。

政治、行政の場では外国人と治安の問題はタブーに

奥富議員は川口市議会で悪行のある外国人取り締まり強化を主張するも、他議員は消極的で「外国人と治安の問題はタブー」になっていると感じている。日本経済の労働力確保や多様性拡大のため、外国人受け入れを増やす方針があるが、川口市の現状では準備不足が顕著だ。

芝園団地のように手間と時間をかけて状況を改善する方法がある一方、クルド人問題のように行政・警察力の動きが鈍く住民を困らせる事例もある。警察力を強く押し出す方法もあるが、人権侵害の危険がある。

川口市の現状を見て、外国人労働者を受け入れる準備が、行政にも警察にも整っていないように私には思える。違法行為の取り締まりが積極的ではないのだ。政策をどの方向に進める場合にも、それが前提になる。

私は外国人労働者や移民の受け入れを支持していたが、川口市の現状を見て考えを変えた。外国人を拒否するという時代錯誤な動きは当然採用すべきでないが、現状の準備の乏しい移民推進は見直すべきだと思う。これは、日本で働こうとする外国人にも不幸をもたらす。

ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。
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