日本の防衛 上岡龍次コラム

日本は台湾有事どころか日本有事に対応できないお粗末な状況

2023/07/29
更新: 2023/07/29

遅れる日本の防衛 

日本は戦争に負けて戦争を嫌う人が増加し自衛隊が移動する時も反発され国防を行うことが難しくなった。地対艦ミサイル・対空ミサイルを配備するだけで戦争を呼び込むと批判される。だが国際情勢は日本を無視して変化しており、最近では中国の覇権拡大で台湾有事が可能性として高くなった。

そんな時に日本政府は台湾有事を想定し南西諸島の住民に対する避難体制の強化を進めている。しかし一部のジャーナリスト・知識人などは“戦争ができる国へ向かっていく”と批判する。日本政府は南西諸島の国民を守るためのシェルター整備で批判されるが日本全土で国民向けのシェルター整備に関しては進んでいない。

過去の損害から見る

日本国内で国防や国民向けのシェルター整備で“戦争ができる国へ向かっていく”と批判される。だが日本が戦争を放棄しても戦争は外国からやって来る。何故なら戦争を決めるのは外国であり日本は侵攻を受ける立場。だから日本は外国からの侵攻に備えた国防を進めなければならない。

日本から戦争をするのではなく、戦争になった時に備えて国民を戦争の惨禍から守る手段を作る必要に迫られている。実際に日本の周辺ではロシア・中国などが脅威であり、中国は覇権拡大で尖閣諸島への圧力や台湾侵攻が可能性として挙げられる。このため戦争になった時に国土が戦場になった時とならなかった時の損害の違いから説明したい。

国土が戦場にならなかったアメリカ
動員兵力数:1490万(損害率5.7%)
軍人の戦死者数:約29.2万
戦傷者:約57.2万 
戦死と戦傷者の比:1対1.95
非戦闘員の死亡者数:無視できるほど少ない

国土が戦場になったイギリス(爆撃を受けたが敵軍は上陸していない)
動員数:620万(損害率14%)
戦死者数:約39.8万
戦傷者:約47.5万
戦死と戦傷者の比:1対1.2
非戦闘員の死者数:6.5万(戦死者数の約16%)

国土の一部が戦場になったフランス(爆撃と敵軍が侵攻した)
動員数:600万(損害率10%)
戦死者数:約21万
戦傷者:40万
戦死と戦傷者の比:1対1.9
非戦闘員の死者数:約11万(戦死者数の約52%)

国土の一部が戦場になったドイツ(爆撃と敵軍が侵攻した)
動員数:1250万(損害率78.6%)
戦死者数:285万
戦傷者数:725万
戦死と戦傷者の比:1対2.5
非戦闘員の死亡者数:約50万(戦死者数の約18%)

国土の一部が戦場になった日本(爆撃と敵軍が一部上陸した)
動員数:740万(損害率27%)
戦死者数:約150万
戦傷者:50万
戦死と戦傷者の比:1対0.33
非戦闘員の死亡者数:約50万(広島原爆15万、長崎原爆7.5万、東京空襲8万を含む・戦死者数の約33%)

国土の3分の2が戦場になったイタリア(爆撃と敵軍が侵攻した)
動員数:450万(損害率4.4%)
戦死者数:7.8万
戦傷者数:12万
戦死と戦傷者の比:1対1.5
非戦闘員の死者数:約7万(戦死者数の約90%)

国土の大半が戦場になったソ連(爆撃と敵軍が侵攻した)
動員数:約2400万(損害率89.5%)
戦死者数:750万
戦傷者数:1400万
戦死と戦傷者の比:1対1.9
非戦闘員の死者数:1250万(戦死者数の約167%)

第二次世界大戦の軍人と民間人の損害を見てみると海に囲まれたイギリスと日本で明確な違いが出ている。イギリスはドイツ軍から爆撃を受けたがドイツ軍は上陸していない。このため民間人である非戦闘員は戦死者数の約16%の損害だが、国土の一部にアメリカ軍が上陸した日本では民間人である非戦闘員は戦死者数の約33%に増加している。そして以下の二点が必要であることが判る。

・戦場は国境の外に置かなければ国民を巻き込む。
・シェルター整備が遅れると非戦闘員は戦死者数の16%を超える可能性が有る。

これは敵軍が国土に上陸すると民間人である非戦闘員を戦争の惨禍に巻き込むことを意味しており、戦場は国土ではなく国境の外に設定しなければならないことを意味している。さらに地政学から見ると“海洋国家の戦場は大陸の背中”だから、中国大陸の海岸部から国境の間に有る空と海が戦場なのだ。

仮に第二次世界大戦と同じ様に国土の一部に敵軍が上陸すると民間人である非戦闘員は戦死者数の約33%に達する。これは実際に戦前の日本が経験したことだから、自衛隊は中国大陸の海岸部から国境の間に有る空と海で戦える戦力整備が求められる。

そうしなければ島嶼防衛は困難であり島嶼で生活する国民が戦前の様に惨禍に巻き込まれる。これを回避するには航空自衛隊と海上自衛隊の戦力増強と、制空権を獲得するための空母艦隊が必要となる。

さらに国土が戦場になると民間人の損害が増大することが数字として明らかになっている。国土の3分の2が戦場になったイタリアは民間人である非戦闘員は戦死者数の約90%であり、国土の大半が戦場になったソ連に至っては民間人である非戦闘員は戦死者数の約167%と民間人の損害が軍人よりも多くなっている。これが現実だから国土を戦場に想定することは国防の失敗を意味する。

遅れるシェルター整備

シェルター整備は戦時だけではなく平時でも大規模災害で活用できる。このため日本全国でシェルター整備を行うはずが日本では公民館・体育館などに避難することが一般的だ。核戦争が想定された冷戦期すら核シェルターが整備されていない。それだけ日本は戦争とは無縁の世界で生きていたが今では中国の脅威が高まりシェルター整備が必要となった。

イギリスはシェルターや地下鉄などを活用して国民をドイツ軍の爆撃から保護した。これで非戦闘員は戦死者数の16%だから、今の日本は地下鉄が無い地域では国民を守る手段が無い。そうなると16%を超えることが想定される。だからこそ日本政府は国民を守るためのシェルターを南西諸島だけではなく日本全土に拡大しなければならない。

シェルターは平時では大規模災害などの避難場所となり備蓄された食料・医薬品などが有れば被災者を助けることになる。さらに数ヶ月分の備蓄が有れば?他の県で大規模災害が発生すると備蓄した食料・医薬品を被災地に送ることが可能。この様にお互いに持ちつ持たれつの関係の可能だ。このため日本全国でシェルター整備をすると国民の生命を守ることが可能なので南西諸島だけではなく日本全土で整備すべきだ。

 

この記事で述べられている見解は、著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません.

戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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