SBI証券は2025年5月6日、同社が取り扱う全ての中国株式(約1300銘柄)について、新規の買い注文の受付を停止したと発表した。これは、近年急増している証券口座の乗っ取り被害への対応策として実施されたものである。
証券口座の乗っ取りによる不正取引は2025年に入り急増しており、金融庁の発表によれば、2025年2月から4月中旬までの3か月間で不正売買の件数は1400件、被害総額は900億円を超えた。これらの被害の多くは、中国株を利用した不正売買で発生している。背景には中国株式市場の長い低迷がある。
SBI証券では、2025年1月以降、不正取引が多発していた一部の中国株について順次買い注文の受付を停止してきた。しかし被害の拡大を受け、今回すべての中国株に対象を広げた。なお、売却注文については一部銘柄を除き通常通り受け付けている。
不正取引の主な手口は、フィッシング詐欺やマルウェアによるID・パスワードの窃取である。犯罪者は盗んだ情報を使って証券口座に不正ログインし、本人になりすまして中国株を大量に購入、その後株価を操作して利益を得るとみられている。被害者は、犯罪者が売り抜けた後に値下がりした株式が手元に残り、損失を被るケースが多い。
証券業界全体でも被害が広がっており、楽天証券や野村証券など他の大手証券会社でも同様の不正取引が確認されている。これを受けて、大手10社は被害者への一定の補償を行うことで合意し、業界を挙げた対応が進められている。
大紀元の取材に対し、SBI証券は、「今後の詳しい見通しについては現在のところ述べられない」としつつも、今後も被害の状況を見ながら対応を続けるとしており、利用者に対してはパスワードの厳重な管理や多要素認証の利用、フィッシング詐欺への注意を呼びかけている。また、被害に遭った場合は個別に事情を聞き、法令に則って真摯に対応するとしている。
今回の措置は、証券取引の安全性を確保し、利用者の資産を守るための緊急対応である。金融庁や証券業界は、今後もセキュリティ対策の強化と被害者救済の充実に取り組む方針だ。
中国株式市場の低迷が詐欺増加の背景要因
2023年から2024年にかけて中国株式市場は大きく調整し、主要な株価指数が大幅に下落した。例えば、CSI300指数は2021年のピークから2024年末までに45%以上下落し、投資家心理の悪化や資金流出が続いた。こうした低迷局面では、流動性が低く値動きが荒い銘柄が増え、不正取引や株価操縦がしやすい環境が生まれる。
また、経済成長の鈍化や不動産不況、デフレ懸念など中国経済の構造的課題が投資マインドを冷え込ませ、市場の脆弱性を高めていた。こうした状況下、犯罪グループは市場の歪みや個別銘柄の値動きの大きさを利用しやすくなり、証券口座の乗っ取りを通じて中国株を使った詐欺を多発させる土壌となったと考えられる。
こうした中国株式市場の低迷が、詐欺の増加を助長する一因となっている。
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