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WHOパンデミック条約に豪が署名 野党は「主権を脅かす」と反発 

2025/05/26
更新: 2025/05/26

オーストラリア政府は、WHOが採択したパンデミック条約に支持を表明した。一方、アメリカは条約の初回採択に加わらず、将来的にも法的拘束を受けない姿勢を示した。

マーク・バトラー保健相とペニー・ウォン外相は、条約について「コロナパンデミックから得た教訓を踏まえた重要な一歩」だと評価。感染症の監視体制強化やワクチンアクセスの改善など、国際的な共同対策の強化を支持した。

ウォン氏は「国際的な保健協力は、オーストラリアと世界全体の安全を守るために不可欠だ」と述べた。バトラー氏も、「次のパンデミックは『いつ起きるか』の問題であり、すべての国が連携して公共の健康を守る責任がある」と強調した。

条約の採択により、オーストラリアとアジア太平洋地域は今後のパンデミックに対する備えを強化し、被害の軽減と経済への影響を最小限に抑えることが可能になるという。

一方、野党・自由党のアレックス・アンティック上院議員は、同条約が「説明責任のないグローバル官僚」に国家の意思決定権を委ねる危険性があると批判。5月23日に支持者向けに送ったメールでは、「気候変動の脅威を公衆衛生問題として強調する序文も懸念材料だ」とし、WHOが「気候緊急事態」を宣言した場合、主権国家がその勧告に従うのかという問題提起を行った。

アンティック議員は「オーストラリアが自らの未来を決める主体であり続けるためには、WHOから脱退すべきだ」と主張している。

一方、政府は、WHO条約への参加はオーストラリアの安全保障と経済安定に資するとして、今後も支持を続ける方針を示している。条約が正式に発効した後、2026年半ば以降に署名が可能になってから、オーストラリアとしての正式な条約締結プロセスを開始する予定としている。

「今回の条約は世界保健総会で採択されたが、技術的な細部については今後さらに検討が必要だ」とオーストラリア政府は説明している。

5月20日、パンデミック条約は、124か国の賛成、異議なし、11か国の欠席により採択された。

この文書では、各国が「パンデミックの予防および監視体制の強化」に取り組むべきことが明記されている。

条約の柱となるのが「病原体アクセス・利益配分制度(PABS)」の創設だ。

今後、新たなウイルスや病原体がパンデミックの恐れを持って出現した場合、締約国はその遺伝子配列データをWHOに提供する義務を負う。これは、治療薬やワクチンの迅速な開発を目的としている。

さらに、このデータを用いて製薬企業が開発したワクチンについては、開発されたワクチンの20%をWHOに提供することが義務付けられる。内訳は、10%を無償で寄付、10%を低価格で販売する形式で、経済的に脆弱な国への供給を支援する。

条約では次のように明記されている。

「条約に参加するすべての製薬企業は、WHOと締結する法的拘束力のある契約に基づき、パンデミックの原因となる病原体に対処するため、安全で有効なワクチン・治療薬・診断薬のリアルタイム生産量のうち20%を、迅速にWHOに提供する体制を確保しなければならない」

一方で、この条約は、WHOに対してロックダウンや渡航制限、ワクチン接種義務の導入を強制する権限は付与しないことも明記されている。

さらに、条約文では、参加国が「気候変動、貧困と飢餓、脆弱な社会環境、初期医療体制の弱さ、薬剤耐性の拡大」などの複合的な世界的脅威に対応する必要性を認識していると明記された。

オーストラリア在住の記者。以前はMotley Fool Australia、Daily Mail Australia、Fairfax Regional Mediaの記者を務めていました。