自民党の高市早苗前経済安全保障担当大臣らは5月27日、治安対策の強化を目的とした提言書を石破茂総理大臣に手渡した。提言では、日本が諸外国と比べてスパイ行為への対策が不十分であると指摘し、重要情報の保護を図るため「スパイ防止法」の新設を含む法整備の検討を求めている。
高市氏は自民党「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」の会長を務めており、今回の提言は同調査会が中心となってまとめたものだ。提言には、外国勢力による偽情報の拡散防止や、政府の情報収集・分析能力の強化、さらに産業スパイへの対抗策なども盛り込まれている。特に、海外からの脅威やサイバー犯罪への対応力を高める必要性が強調された。
こうした法整備の背景には、中国共産党による情報活動やスパイ行為への警戒感が大きく影響している。中国は近年、「反スパイ法」や「国家秘密保護法」などの法改正を通じて、国家主導の情報収集体制を強化している。実際に日本人を含む外国人が中国でスパイ容疑により拘束される事案が相次いでおり、日本国内でも中国による諜報活動やサイバー攻撃、産業スパイへの懸念が高まっている。
中国共産党は、国民全体を動員した情報収集体制を構築し、国家安全の名の下に社会全体でスパイ行為を取り締まる姿勢を強めている。こうした動きは、外国企業や個人にとって予測不可能なリスクを生み出しており、日本企業の幹部が理由も明らかにされないまま拘束されるケースも発生している。
また、2024年の防衛白書でも中国の軍事活動や情報活動への警戒が明記されている。防衛白書は、中国が日本周辺で軍事活動を活発化させていることや、サイバー分野を含めた複合的な脅威の増大などを指摘し、「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置付けている。さらに、防衛力の強化や政府一体となった情報収集・サイバー対策の必要性が強調されている。
高市氏は面会後の取材で「日本には国の力によるスパイ行為に包括的に対応するための法律がなく、防止法が必要だ」と述べ、現行の特定秘密保護法など既存の法律では十分な対策が取れていない現状を訴えた。罰則についても「今ある法律はあまり強いものではない」として、より厳格な法整備の必要性を強調した。
石破首相は提言に対し、「偽情報への対応は急いで取り組まなければならないし、インテリジェンスの強化も問題意識を持って検討していく」と応じ、「しっかり勉強していく」と前向きな姿勢を示した。
また、林芳正官房長官も記者会見で「外国の情報機関による情報収集活動が日本で行われているという認識のもと、必要な対策を講じている」と述べ、今後も取り組みの強化に努める考えを示した。
今回の提言は、今後の政府の治安政策や法整備の議論に大きな影響を与えるとみられる。自民党はこの提言内容を夏の参院選公約に盛り込むことも視野に入れている。
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