論評
5月14日、中国製の太陽光発電用インバーターの一部が、中国本土から遠隔操作される可能性があると、米政府関係者がロイター通信に明らかにした。一部の大型バッテリーには、正体不明の通信機能(セルラーモジュール)が内蔵されている。
太陽光発電業界専門メディアのPV Techは、「インバーターを掌握された場合、ハッカーが遠隔で太陽光発電の供給を妨害・停止できる。これにより、停電や送電網の損傷が生じる恐れがある」と指摘した。
リスクは現実のものであり、しかも世界規模だ。2023年11月には、中国からの操作により、アメリカ内のインバーターが一部無効化された事例が確認された。
中国は、再生可能エネルギーを電力網に接続する「パワーインバーター」の世界最大の輸出国である。これらのインバーターは、太陽光パネルや風力発電機、ヒートポンプ、EVの充電器などを電力網と接続する装置で、「頭脳」とも言える役割を果たす。
ロイターが引用した米政府関係者の話では、これらの「不正機器」は、ファイアウォールを遠隔で迂回できる(記載されていない通信経路)であり、壊滅的な事態を招くおそれがあるという。悪意のある者が組織的にこれらの機器を操作すれば、アメリカやヨーロッパの電力網において、広範囲にわたる停電や深刻な被害が生じるおそれがある。
中国(共産党)の独裁者の気まぐれ、あるいは台湾有事のような重大事態において、中国共産党(中共)政府系のハッカーが不正機器を利用し、サイバーセキュリティのファイアウォールを回避して中国と通信を行い、アメリカや同盟国の電力網の広範な部分を停止させる可能性がある。いわゆる「北京ブラックアウト」が同時多発的に発生する事態も想定され、アメリカや同盟国が、遠隔地防衛に必要な迅速な対応を取ることが難しくなる。
また、中共政府は、こうしたサイバーリスクを外交的な脅迫材料として利用する可能性もあり、エストニア情報機関トップのカウポ・ロシン氏は、「中国製技術を公共インフラから排除しなければ、ヨーロッパ諸国は中国(中共)による脅迫を受けるリスクがある」と警告した。
このような背景から、アメリカやその同盟国は、中国製電子機器の使用に慎重な姿勢を強めている。しかし、家庭用の太陽光発電装置も例外ではない。ヨーロッパに設置されている太陽光発電容量は約338ギガワットだが、そのうち60%近い200GWが中国製インバーターに依存しており、わずか1%が攻撃されただけでも、広範囲かつ長期の停電を招く可能性がある。
PV Techによると、ヨーロッパ太陽光発電製造業評議会(ESMC)は、中国製インバーターがもたらすセキュリティリスクについて「システミック(構造的)」であると指摘し、ESMCはヨーロッパ委員会に対し、中国の「ハイリスク製造業者」による破壊行為やスパイ活動の可能性について調査を求めた。
PV Techの取材に応じたヨーロッパの大手インバーターメーカーの関係者は、「明らかに、インバーター企業が本気になれば、電力網を停止させることができる」と語った。また、「おそらく99%の人は、『ウクライナ侵攻の後で、ロシアがヨーロッパへのガス供給を制限するリスクなどない』と言っていたはずだ。だが実際には起きた。我々はそれを目の当たりにした。そして私は、同じようなリスクがここにもあると感じている」と指摘した。
アメリカでは、中国の通信・半導体技術や強制労働による製品に対して厳格な対策が講じられてきたが、インバーターに関する明確な規制は存在しない。
こうした中、米議会では「外国敵対国バッテリー依存からの脱却法案(Decoupling from Foreign Adversarial Battery Dependence Act)」が提出されており、国土安全保障省が一部の中国製バッテリーを購入することを禁止する内容が盛り込まれている。この対象企業には、BYD、CATL、Envision Energy、EVE Energy、Gotion High-tech、Hithium Energyが含まれており、禁止措置は2027年10月から発効される予定だ。
また、ファーウェイ、Ginlong Solis、Sungrowといった企業も中国共産党との関係が指摘されており、大量のインバーターを世界に輸出している。中でもファーウェイは、中共の諜報機関や国家安全機関との関連が取り沙汰されており、2022年には、世界のインバーター出荷量の29%を占めていた。
ただし、この法案は3月11日以降、上院国土安全保障・政府問題委員会に引き続き留め置かれており、適用範囲も国土安全保障省に限定されている。なぜ適用範囲を限定するのか、そしてなぜ6社に限るのか――そうした疑問が残った。
他のモグラ叩き法の例を見れば、こうした法律は往々にして失敗に終わることが分かる。過去の中国企業対策においても、社名や登記住所を変更することで規制を回避する例が相次いでおり、実効性に欠けるとの指摘がある。エネルギーインフラへの中国製技術の導入を抑制するには、より網羅的かつ包括的な対応が求められる。
ドナルド・ラムズフェルド元国防長官は、「我々は『知らないことを知っている』だが『知らないことすら知らないこと』もある」と述べた。国家安全保障を脅かすような「未知の未知」に直面する今、アメリカには層の厚い広範な防衛策が必要だ。我々が知っているのは、中国(中共)政権が米国を妨害する巧妙な方法を、新たに思いつくことに長けているということだ。
中国製インバーターに潜む「トロイの木馬」が示すように、ワシントンのリーダーたちは、より迅速かつ広範な安全保障戦略を打ち出すべきときに来た。アメリカを中国共産党の脅威から守るために。
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