冷戦の終結は、かつて自由主義陣営の歴史的勝利と広く受け止められていた。しかし、それから30年以上が経過し、現実は静かに反転しつつある。共産主義は予想に反して消滅することなく、むしろ多様な形態でその影響力を世界的に拡大し続けている。
中国共産党(中共)の台頭、西洋文化に見られる「文化マルクス主義」、さらにアジア地域における共産主義イデオロギーの浸透などを通じて、今日の世界は、制度・価値観・文明の方向性をめぐる根本的な選択を迫られている。
こうした情勢を背景に、高麗大学アジア問題研究所の南光圭(ナム・グァンギュ)研究教授は、大紀元のインタビューに応じ、冷戦後における共産主義イデオロギーの世界的な展開の軌跡、そして韓国が直面する構造的な課題について詳しく分析した。
こうした状況を背景に、南光圭研究教授は、大紀元のインタビューに応じ、冷戦後の共産主義イデオロギーの世界的変遷と、韓国が直面している構造的な課題について詳しく分析した。
イデオロギーの再編 「変形した共産体制」
南氏は、「共産主義はすでに失敗した」という見方は、ソ連および東欧諸国の体制崩壊に限って言えることであり、アジアでは当てはまらないと指摘した。特に、中国共産党政権、北朝鮮、そして一部の東南アジア諸国では、共産主義体制は単に生き延びただけでなく、経済適応と戦略的調整を通じて新たな活力を獲得している。
ソ連が崩壊した根本原因は、アメリカとの競争において経済体制が破綻し、体制の維持が不可能になったことにある。
これに対して中共は、鄧小平による改革開放以降「党がすべてを指導する」という体制を維持しつつ、自国の経済制度を資本主義市場と融合させ「成功裏に」経済成長を実現した。この急成長は、中共政権の正統性を強化し、世界各地に影響力を広げるための資金とリソースを手にすることにつながった。
共産中国の台頭は、アジアにおけるその勢力圏の拡大を加速させ、とりわけ古くから中国と関係の深い東南アジア諸国に対して、深い影響を及ぼしている。
また、北朝鮮は特異な体制をとっているものの「主体思想」を中核に据えた家族世襲によって社会主義体制を強固に維持しており、共産主義体制が変形しながら生き延びるもう一つの典型例となった。
中共のグローバル統治戦略と超限戦
南光圭氏は、中共が21世紀における共産主義の「第二の台頭」を主導していると述べた。かつての階級闘争や武力革命とは異なり、今日の中共は、膨大な経済力、高度なハイテク技術、そしてグローバル資本への浸透力を駆使し、さらに柔軟かつ秘匿性の高い「超限戦」戦略を用いて、世界規模で影響力を拡大しているという。
「超限戦とは、手段もルールも選ばず、軍事に限らず(経済・情報・外交など)あらゆる領域で全面的に相手国に浸透する戦術のことだ」と南氏は説明した。
中共は、メディアの掌握、外国の要人への影響工作、教育・文化機関への干渉、さらには中国共産党の公式言説システムの輸出といった手段を通じて、他国の内政に多方面から介入している。
その究極の目的は、既存の自由民主的秩序を破壊し、共産中国を中心とした「政治イデオロギーの新たな枠組み」を構築することにある。
この戦略は、習近平政権下でさらに強化されている。習は毛沢東主義を再び前面に押し出し、それを共産党の権力を強化し、統治の正統性を固めるためのツールとして活用している。
毛沢東思想はもはや単なる歴史的遺産ではなく、中共が国際的影響力を拡張するためのイデオロギー的な柱として再構築されつつある。
そして、終身的な指導体制が固まる中、中共政権の全体主義的な性格は一層鮮明になった。
西側社会に忍び寄る「文化マルクス主義」
西側社会は、左翼的挑戦に直面している。南光圭氏は、近年欧米の学術界や文化圏に広がる極端なフェミニズム、ジェンダー解構、アイデンティティ政治などの潮流が、「文化マルクス主義」にその起源を遡ると指摘した。
これらのイデオロギーは直接的に共産主義を掲げるものではないが、事実上、自由民主制度の道徳的・思想的基盤を弱体化させるものだ。大学キャンパスや主流メディアでは、「反国家、反家族、反資本」といった過激な発言が「ポリティカル・コレクトネス」として受け入れられ、結果として共産主義の論理を文化的に容認・合法化する動きを助長する。これにより、グローバル規模で文化的な影響力として共産主義が再び浸透している。
韓国に迫る中共の浸透と制度的脆弱性
自由民主主義陣営の一員である韓国は、中共の影響に対して防衛が脆弱である。南氏は、韓国には中国の浸透を効果的に防ぐ制度的な仕組みがほとんど存在しないと警鐘を鳴らす。
1992年の韓中建交以来、両国は経済面で互恵的な協力関係を築いてきた。しかし、朝鮮核問題や戦略的安全保障といった核心議題では、立場が長年対立する。アメリカと同盟関係にある韓国は、米中対立の中で事実上アメリカ側に立つことを余儀なくされ、一方、中共はアメリカを抑えるため、事実上北朝鮮の核開発を容認する。
その一方で、大量の中国人、特に朝鮮族移民が韓国に定住すると同時に、中共が展開する「民衆外交」の足がかりとなる。こうした在韓華人たちは、ソウルなどにおいて「華人コミュニティ」を形成し、投資、文化交流、さらには教育制度への圧力を通じて、韓国の内政に次第に影響を及ぼしている。
南氏は、韓国教育部が中共の外交的圧力を受け、中共を暴露する公演を最近中止した事例を挙げ、これは自由主義体制が外部から侵食される具体的な証左であると強調した。
韓国政界では、左翼政党が共産主義の理念と深い結びつきを持ち、共産党創建などを公然と祝う動きが見られる。一方、保守系の「国民の力」は明確な立場を打ち出せず、左派および親中勢力への対抗において無力さが際立っている。全体として、自由民主主義の価値を堅持する実質的な勢力は、ほとんど存在していない。
自由か、極権か 選択の岐路に立つ世界
南光圭氏は、米中貿易戦争を単なる経済的緊張ではなく、グローバルな制度主導権を巡る争いと位置づける。世界は今、重大な分岐点に立つと指摘した。それは自由、民主、人権を維持する道を選ぶか、それとも中国共産党が主導するハイテク全体主義へと滑り込むかの選択である。
南氏は、世界中の自由主義者が速やかに目覚め、結束して自由を脅かすすべての勢力に立ち向かうべきだと述べた。その対象は中共のみならず、朝鮮の世襲による独裁体制も含まれるという。これは単なる一国の安全保障の問題ではなく、人類文明の未来を左右する存亡の戦いだと強調した。
「自由民主は当然のものではなく、常に守り、堅持し続けなければならない」と南氏は力強く訴えた。
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