台湾企業が中国投資を検討する際に直面する、中国共産党(中共)による略奪構造の存在やビジネスリスクを徹底解説する。悪質な競争、土地・司法の罠、撤退困難など、現地で実際に起きている危険性と対策を詳しく紹介しよう。
中共は最近、中国を初めて訪れる台湾人に対し、台胞証(台湾居民来往大陸通行証)の申請費用1500元を免除する措置を講じ、「福馬同城生活圏(中国福建省の福州市と台湾の馬祖列島との間で進められている、生活・経済・文化の一体化)」の第2弾政策を発表した。経済貿易の利便性、台湾資本企業への支援、文化交流の推進などをうたい、台湾人の関心を引こうとしている。
これに対し、台湾の大陸委員会は警告を発し、この政策を中共による統一戦線工作の一環と位置づけ、実質的な効果には限界があり、政治的操作に過ぎないと断じた。
中国市場の罠に深く足を取られた経験を持つ陳志強氏は、「無料のものほど代償は大きい」と語る。彼の見解では、台胞証の無料化は単なる誘い文句に過ぎず、真に中国市場に入った台湾企業の関係者や企業家は、悪質な競争、土地契約の罠、司法の不透明性、色仕掛けによる心理的操作、そして財産の奪取といった危険にさらされるという。
強制された進出と市場の実態
陳志強氏は、中共は信じていなかったが、日本企業から中国に工場を設立するよう強い圧力を受け、10年間の抵抗の末、やむなく中国に進出した。日本側の顧客は、中国で支社や工場を設立しなければ、契約は打ち切ると告げられ選択の余地はなかったという。
彼は、中国市場の実態を「商売をしているつもりでも、実際にはギャンブルのようなものであり、中共が全てのカードとルールを握っている」と明言した。
進出後に待ち構えていたのは、利益ではなく「悪貨が良貨を駆逐する」構造的な悪質競争であった。「こちらが1万元で製品を売れば、相手は8千元、さらに6千、5千と価格を下げ、ついには4千元で売る者も現れる。品質は著しく低下し、不良品が横行する事態に至った」と回顧した。
人治経済と税関の略奪行為
当初は数百万元規模の小口貿易にとどめていたが、ある年の中国の旧正月前、すべての貨物が中共税関により差し押さえられた。当時、中共が600隻の貨物船を押収したという話を聞いた。私たちのすべての貨物は押収され、彼らは年末の業績を上げるために、貨物を売却して利益を得ていた。誰も責任を取らず、理由の説明もない、質問すると厳しく報復されるだけだった。
陳志強氏は「税関に電話したところ『お前は誰だ、なぜこの番号を知っている』と怒鳴られた。貨物は勝手に開封され、破損しても補償は一切ない。あれは商売ではなく、まるで人質にされたような状況だった」という。
当時、会社が輸送していた貨物は2件あり、一つは差し押さえられ、もう一方は輸送中に強制開封され、精密包装は破壊され、到着時には大量の部品が壊れていた。損失は合計で数百万元にのぼったという。
安価な土地提供という幻想
多くの台湾商人が中国に惹かれた要因の一つは、現地政府による土地の無償または低価格提供である。しかし陳志強氏は「タダ飯は存在しない」と断言する。
新疆ウルムチでの投資誘致会議では、市長が「500ムーの土地を1元で売る。好きな場所を選んでいい」と発言した。500ムーは1万坪に相当する。しかし実際には、この1元は名目上の「土地使用権」価格にすぎなかった。
土地整備や建設工事に必要な電線、水道管、建物などはすべて自己負担で整備しなくてはならず、しかも「指定業者」の使用が義務づけられ、工事費は異常に高く、人件費も現地の労働者を使わなければならず、すべてを整えた後に、現地政府は「安全規定違反」を理由に工事を中断させることすらあった。
こうした事態により、工場建設段階で破産に追い込まれる台湾企業も多く存在した。
契約も法律も機能しない市場
陳志強氏は、中共のコントロールと買収能力を見くびるべきでないと強調した。「共産党より賢く立ち回れると考えるべきではない。彼らは何でもやる」と警鐘を鳴らす。
例として、当初は郊外や農村に設立した工場が都市化によって一等地化すると、地元政府が不動産開発を名目に企業に移転を命じるという手口を挙げた。移転に応じても、費用負担はすべて台湾企業側にかかる。不服を示せば、会計監査や環境査察、消防検査などを頻繁に行い、業務を妨害するという。
移転後には、資産の再分配というさらなる罠が待っている。陳志強氏は、「当初投入した中古機械は、再塗装されて新資本として再評価される。中共は土地と一部資金を出資したと称し、合弁関係を構築するが、土地の値上がりを理由に株式比率の増加を主張し、逆に技術や資本を食い物にしてくる」と語った。
「移転してもしなくても、最終的に中共の言いなりになるしかない。これが中共による合法的略奪の構造である」と断じた。「共産党がたった1%の株式を持っているだけでも、行政権限を駆使して経営権を奪取できる。中国には会社法も契約精神も存在しないのだ」と。
共産党が決める 企業はただの道具である
「共産党の態度は非常に明確だ。すべての企業は、共産党の所有物である」と陳志強氏は述べた。共産党は常に企業に介入し、掌握する権限を保持しており、とりわけ大企業に対して、その姿勢は顕著であった。人数が二、三十人規模の小規模工場に対しては、表面上は無関心を装うが、実際には共産党支部や労働組合の設置を通じて影響力を浸透させ、掌握する。
現地で工場を運営するには、「地元の人間」を工場長に据えなければ何事も進まないと陳志強氏は語る。こうした地元の人脈は公安や消防などの政府機関に精通しており、地元の小・中・高校の同級生ネットワークを活用して、話を通すことで事が進む仕組みとなっている。
例えば、地元の人を工場長に任命する必要があり、その者は実務に携わらずとも月給3千元を受け取り、車を提供されて、各所での付き合いや人脈形成に奔走する。こうした支出は、企業主にとってはやるせない出費であるが、避けて通れない必要経費だ。「地元の顔役」が根回しをしなければ、多くの物事がまったく動かないというのが現実である。
彼は、さらに断言する。現在の中国における経営環境はすでに大きく変化しており、競争が激化するだけでなく、内向きの消耗戦が極限まで進んだ。あらゆるものが価格競争、人件費削減、スピード重視に傾き、生き残る余地は、ほとんど残されていない。「今から中国に工場を建てようと考えるのは、時すでに遅しだ」と彼は首を振った。
中共支配下はリスクだらけ それでも行きたがる者がいる理由
それにもかかわらず、なぜこれほど多くの台湾企業が中国への投資を望んでいるのか? 「彼らは中国で儲かると信じているからだ」と陳志強氏は苦笑いする。そして中共は外面を取り繕うことに長けている。全体が非常に偉大で裕福に見えるが、その実態は腐敗と汚職にまみれ、すでに内部から崩れている「見た目は共産党そのものだ」と語った。
彼は、かつて海外で出会った延安出身の友人の言葉を引用し「官僚の中に麻雀卓を囲める程度の『清廉な官僚』が存在すれば、それは奇跡に近い」と語った。
さらに「なぜ中国にのめり込んだ台湾企業家たちは、後になって何も語らなくなるのか? それは、中共がすべての証拠を握っているからだ」と彼は言い切った。
以前、彼が知り合った人物は、中共の高官と親しく、その高官から興味深い話を聞いたという。「共産党は20年以上も前から、毎年大学を卒業した『美貌の女性』を1万7千人選び、党の任務に従事させるための特別訓練を施している」
その任務の内容は、外国人ビジネスマンとの間に子を設けて信頼を得る一方、私情を挟まないよう求められる、目的は情報収集だからだ。雇用した秘書や、ナイトクラブで知り合った女性も、任務を帯びている可能性があるという。
これらの女性たちは、報告書の作成を義務づけられており、客の名前、入退室の時刻などをすべて記録し、監視カメラの映像と照合して、あらゆる行動を把握している。「こうした情報や映像は、将来的に『弱み』として相手を縛り、永久に口を封じる手段となるのだ。これは作り話ではなく、公安が自ら語った事実である」と彼は警鐘を鳴らした。
台湾企業は続々と中国撤退 残るのは「逃げられない者たち」
陳志強氏は、現在の状況について、「今でも台湾企業の中国進出を煽る者は、無知か『身代わり探し』のどちらかである」と指摘し、「自分が逃げられないから、新たな企業を呼び込み、入れ替わろうとする。彼らは逃げ出したくないのではなく、逃げられないのだ」と。
実例として、ある台湾企業が長年中国で工場を運営してきた結果、設備も従業員も現地に根を下ろし、容易に移転できない状況に陥っていた。損失を最小限に抑えるためには、新たな台湾企業に資産を引き継がせるしか方法がない。「表面上はビジネスチャンスの共有を装っているが、実際には『ババ抜き』のババを押し付けているにすぎない」と彼は語った。
現在、中国から台湾企業が大量に撤退しており、かつて何十卓も集まっていた台湾企業の集まりも、いまや2、3卓を残すのみとなったという。残っているのは、初期投資が大きくて動けない企業や、中国の低い地代と人件費で辛うじて延命している工場である。欧米ブランドと提携している一部のハイエンドOEM(より高い品質基準やブランドイメージを維持しながら、製品を委託製造)がまだ生き残ってはいるものの、もはや少数派に過ぎない。
「皆が理解している。中国国内市場だけに依存する企業は長続きしないと。価格競争、粗悪な品質、劣悪なアフターサービスのせいで、市場そのものがすでに崩壊している」と彼は強調した。
陳志強氏は「中共が経済発展を推進していると思っているかもしれないが、実際には経済を利用して統一戦線工作を進めているだけである」と断じ、中共は自由市場の競争原理を用いず、資源と権力をもって圧力をかける体制なのだ。投資家の説得は不要であり、選択肢を与えずに従わせればよいのだという。
最後に陳志強氏はこう結論づける。「中国は市場ではなく牢獄であり、無料で配布される「台湾同胞証」は通行証ではなく、足かせに過ぎない」と。
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