「709事件」から10年が経つ。重刑を受けた弁護士・周世鋒氏が、拷問と暴力を指揮した公安・検察関係者をついに刑事告発した。試されるのは、国際社会の良心だ。
2015年7月9日、中国共産党当局は、各地の人権派弁護士や市民運動家に対し、前例のない弾圧を加えた。いわゆる「709事件」である。この日を境に300人を超える弁護士、助手、活動家が一斉に拘束・尋問され、20人以上が正式に起訴された。

標的となった弁護士たちは、体制にとって都合の悪い案件を多数扱っていた。宗教弾圧を受ける法輪功学習者や地下教会のキリスト教徒、チベット・ウイグル人、毒ミルク事件の被害者、そして社会の腐敗と闘う市民たちだが、彼ら弁護士達は、そのような市民の声を代弁しただけで、「国家政権転覆罪」などの名目で罪を着せられ、重刑に処された。
その中でも、北京鋒鋭弁護士事務所の主任だった周世鋒(しゅう・せいほう)氏は、懲役7年・全財産没収の重刑を受け、2022年に釈放されたが、今も移動や出国の自由を制限されている。妻の張美英(ちょう・びえい)さんは、困窮と医療の遅れから多臓器不全で死亡し、周氏が妻の治療費のための募金を呼びかけた口座は、当局に凍結され、支援活動も妨害された。

しかし周氏は沈黙しなかった。出所後、彼は自身の冤罪を正すべく抗告状を自ら起草し、中共の政治局常務委員会などに送付した。そして今年6月28日、「709事件」において、拷問や暴力的な違法捜査を指揮・実行した公安・検察・裁判関係者を刑事告発すべく、最高人民検察院に正式な告発状を提出した。

「709事件」から10年を迎えた今年、世界各地で記念行事や抗議デモが相次いで開催された。アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチなど30以上の国際人権団体が共同声明を発表し、各国政府と国連に対して、弁護士・活動家への中国共産党(中共)の迫害を調査する独立機関の設置と、責任追及を求めた。

7月6日には、ロサンゼルスの中国領事館前で、中国民主党のメンバーが集会を開催し、拘束された弁護士の即時釈放を求め、同日、ドイツ・ベルリンの中国大使館前でも抗議が行われ、米フィラデルフィアでは元人権弁護士ら20人以上が、新たな海外人権弁護士組織の設立を宣言した。

「709事件」は過去の出来事ではない。中共は今も「法治国家」の看板を掲げながら、異論を封じるために弁護士への弾圧を続けている。監視や嫌がらせに晒されるのは本人だけではなく、家族に対しても就学・就労の機会が与えられない連座制的圧力が日常化している。
沈黙を破り、当局を正面から告発した周世鋒氏の行動は、いまの中国がいかに法を失った国家であるかを突きつけた。そしてそれはまた、国際社会に対する問い掛けでもある。こうした人権侵害を前に沈黙することは、加害に手を貸すのと同じである。
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