【ニュースレターが届かない場合】無料会員の方でニュースレターが届いていないというケースが一部で発生しております。
届いていない方は、ニュースレター配信の再登録を致しますので、お手数ですがこちらのリンクからご連絡ください。

アメリカのWHO脱退の背景 揺れるグローバル公衆衛生の方向性

2025/07/16
更新: 2025/07/16

2025年5月、世界保健機関(WHO)が画期的なパンデミック条約の採択を祝う中、アメリカ合衆国は国連機関であるWHOへの批判を一層強めた。アメリカ政府は、同機関が腐敗し、特定利害関係者に左右され、本来の使命から逸脱してしまっていると主張する。

ジュネーブで開催された第78回世界保健総会では、加盟国のうち124カ国が賛成し、反対なし、棄権11という圧倒的多数でパンデミック合意が承認されたが、アメリカ代表団は会場に姿を見せなかった。その代わり、アメリカ保健福祉長官ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏がビデオ演説で登場した。

「我が国の脱退を、世界の保健担当大臣とWHOにとっての警鐘とすることを切に願う。我々、トランプ大統領も私も、国際協力への関心を失ったわけでは決してない」とケネディ氏は述べ、「志を同じくする」国々とはすでに連携中であると明言した。彼は、WHOの制約を超えた新たな国際的保健システムの創設を提案し、各国の保健大臣にその協力を呼びかけた。

トランプ大統領は同年1月、WHOから1年かけて正式に脱退するプロセスを開始する大統領令に署名した。トランプ政権は2020年にも同様の手続きを進めていたが、後にバイデン政権が撤回していた。

WHOは声明で、1948年の設立以来、「数えきれない命を救い、アメリカ国民および世界中の人々を健康の脅威から守ってきた」とアメリカとのパートナー関係を強調し、脱退の再考を願った。

ケネディ氏の提案に具体的な計画は見られず、既にWHOからの脱退を決めているアルゼンチン以外に追随する国は少ないと見られる。しかし、彼のWHO批判は、グローバル公衆衛生の今後の在り方そのものに根ざす、より深い論争を反映している。

COVID-19の影響が今なお尾を引く中、パンデミックへの対応を最優先とする動きが強まっている。ワクチンの開発や感染症の監視、さらにはまだ発生していない新たな病気を見つけて抑え込むためのハイテク技術に、莫大な資金が投入されている。

しかし、世界中で限られた医療資源をどう分配するかという現実の中で、こうした対策は、地域の医療体制を整えたり、栄養状態や衛生環境、経済基盤といった健康の土台となる要因を改善していく「地道な健康づくり」としばしば対立する。

トランプ政権が掲げた「アメリカを再び健康に(Make America Healthy Again:MAHA)」政策は、心身そして生活環境など人間全体を考慮した健康づくりや、慢性疾患の根本的な原因を重視する点において、性質としてはこの「健康づくり重視」の考え方と通じている。

一方、WHOからの脱退やアメリカ国際開発庁(USAID)の廃止を含む対外援助の削減は、既存の国際医療支援の枠組みに動揺を与えている。

アメリカの後退によって、中国のような権威主義的な政府や、製薬会社などの特定の利害団体がさらに影響力を強めるのではないかという懸念が高まっている。

しかし一部の関係者は、トランプ政権のこの決定が、パンデミックで明らかになった制度の問題点や、特定の団体が資金の力で世界の医療政策を動かしてきた現状に、ようやく本格的に向き合うきっかけになるかもしれないと見ている。

『次なるパンデミック』

2025年4月、ジュネーブに拠点を置く「Health Policy Watch」というポッドキャストにおいて、南アフリカ・西ケープ州に所在するステレンボッシュ大学「疫病対応・革新センター(CERI)」の所長であり、ウイルス学の専門家であるトゥリオ・デ・オリヴェイラ氏がインタビューを受けた。

デ・オリヴェイラ氏は、SARS-CoV-2のベータ株およびオミクロン株の発見を世界に先駆けて行ったチームを主導した人物として知られている。

同氏は、アメリカがWHOを脱退したことは間違いであったと示唆した。

「われわれはつい先ごろパンデミックを経験したばかりであり、その際に世界経済がいったい何兆ドルの損失を被ったと思うか?」とデ・オリヴェイラ氏は語った。

「アメリカは世界公衆衛生への拠出をGDPの1%未満にとどめているが、パンデミックが起これば、その損害は年間1%より遥かに大きくなる」と述べ、鳥インフルエンザが急速に拡大しており、鳥類の個体数を激減させ、卵や鶏肉の価格上昇を招いていると指摘した。

2025年5月下旬、トランプ政権は、H5N1型鳥インフルエンザウイルスを含むインフルエンザ亜型向けのワクチンの開発・試験・認可に関する、7億ドル超のモデルナ社との契約を破棄した。

モデルナ社の鳥インフルエンザワクチンは、COVID-19ワクチンと同様にメッセンジャーリボ核酸(mRNA)技術を使用している。

米国保健福祉省(HHS)の広報ディレクターであるアンドリュー・ニクソン氏は「The Epoch Times」紙への電子メールで、「現実として、mRNA技術の検証は不十分なままであり、前政権が正当な安全性への懸念を国民に隠蔽していた過ちを繰り返すべく納税者の金を費やすわけにはいかない」と述べた。

米国疾病予防管理センター(CDC)は、H5N1型について現在の公衆衛生リスクは低く、人から人への感染事例は確認されていないとして、鶏や乳牛における発生状況の監視を継続している。

デ・オリヴェイラ氏は、米国のみならず、数週間前に対外援助予算を約40%削減する方針を発表した英国を含む国々が、再考することを望んでいる。

「国民を守らねばならず、今は感染症が発生する可能性が以前より高くなっている。重要なのは金を投資することだ」と同氏は強調し、「新たな病原体や流行によって打撃を受けるよりも、そのほうが遥かに大きな利益をもたらす」と付け加えた。

南アフリカのヴリンドレラで画期的な研究に重要な役割を果たしたHIV科学者のトゥリオ・デ・オリヴェイラ氏は、米国のWHO脱退決定を批判し、パンデミックやアウトブレイクへの投資を優先すべきだと提言した。Darren Taylor for The Epoch Times

近年、WHOをはじめ、世界銀行やG20などの国際機関は、主にワクチン開発、監視体制、デジタル技術の導入を目的として、パンデミック対応に数百億ドル規模の年間予算を要求してきた。

しかし一部の専門家は、そうしたリスク評価が誤解を招く、あるいは不十分なデータに基づいているとして、伝統的な保健プログラムに対する機会損失の懸念を表明している。

「大幅な誇張」

「パンデミックのリスクや、それを根拠としたアウトブレイクのリスクに関するメッセージ全体が虚偽である」と、元WHOの医務官・科学者であり、グローバルヘルス分野で20年以上活動してきた臨床及び公衆衛生医師、デヴィッド・ベル博士はThe Epoch Timesの取材に語っている。

リーズ大学の同僚と共に、ベル博士はWHOや他機関がパンデミック対策予算の根拠として用いる証拠を分析した。その政策ブリーフ(複数の研究に基づく)で、彼らは、まだ存在しない想定病原体「Disease X」や、既存かつ既に効果的な制御手段が確立している病原体の脅威が、しばしば誇張されて示されていると主張している。

「我々は、WHOの公式メッセージ、引用文献、証拠、加えて世界銀行やG20等の関係機関の主張も綿密に検証した。その結果、これらすべてがパンデミック・リスクの誇張あるいは虚偽の情報を広めていることが明らかになった」とベル博士は述べている。

ベル博士が率いる研究グループ「REPPARE(リパー)」は、「パンデミックへの備えと対応に関するアジェンダの再評価(Re-Evaluating the Pandemic Preparedness and Response Agenda)」を目的とする団体で、ブラウンストーン研究所(Brownstone Institute)から資金提供を受けている。REPPAREは、こうした国際機関がパンデミック投資の理由に挙げているデータ自体、リスクは低下傾向にあることを示唆していると指摘する。

WHOが「緊急研究開発対象」として特定した9疾患のうち1つは新型コロナウイルス(COVID-19)、1つは「Disease X」(未出現)、他7つの中で歴史上1万人以上の死者を出したのはエボラ出血熱ウイルスのみである。

2021年のG20報告書には、パンデミックと気候変動が現代の主要な人間の安全保障課題として挙げられ、過去20年間では4〜5年ごとに大規模感染症アウトブレイクが発生したとされている。

しかし、COVID-19および2009年の新型インフルエンザ(H1N1/豚インフルエンザ)を除くと、2000年から2020年までに記録されたすべてのアウトブレイクの死者数は合計で26,000人未満に過ぎないとベル博士は指摘する。

「豚インフルエンザの死者数は通常の季節性インフルエンザよりも少なく、インフルエンザに関しては既に確立された監視体制が存在している」とベル博士と共著者は記している。「この文脈において、COVID-19は例外的な存在であり、一般的な傾向を示すものではない」

G20の専門委員会はパンデミック予防の世界的な最低投資額を年150億ドルと主張しているが、ベル博士によれば実際の要求額は年340億ドル近く、5年間で1,710億ドルに達する。

2024年5月に発表されたパンデミック対策費用に関する報告書の中で、彼は、パンデミック予防にかかる支出の推定額が、世界の保健分野における対外援助予算の最大55%にも達する可能性があり、その結果、より多くの人に影響を及ぼしている深刻な病気への「効果的な投資」を圧迫し、限られた資源の使い道を間違わせる危険があると警鐘を鳴らしている。

デ・オリヴェイラ氏およびWHOは、ベル博士の分析や関連質問について、The Epoch Timesからのメール問い合わせに返答しなかった。

本来の使命と変わりゆく優先順位

数十億ドルもの資金が、仮定上のパンデミックへの備えに投入されている一方で、2025年における最大の感染症リスクは、正体不明の新ウイルスではなく、WHOが数十年にわたって取り組んできた、「ゆっくり進行するパンデミック」――すなわち結核、HIV(エイズウイルス)、マラリアであると、WHOが創設メンバーの一つでもあるワクチン・アライアンス「GAVI(ガビ)」は指摘している。

WHOによれば、これらは「貧困や社会的排除に起因する病気」であり、現在でも年間200万人以上の命を奪っている。2023年には、結核がCOVID-19を上回り、感染症による死因の第1位となった。

「栄養状態が悪く、微量栄養素が不足しているときにこそ、結核やマラリア、下痢症で命を落とすリスクが高まる」とベル博士は述べた。彼によれば、かつて栄養改善はWHOにとって重要な焦点だったが、現在では資金が大幅に減ってしまっているという。

「パンデミックやそれ以外のすべての病に対する耐性を築きたいのであれば、第一に取り組むべきは栄養の改善だ」「私たちは、これらの深刻な致死的疾患に対して、目立った進展を遂げられていない」と彼は語る。

また彼は、マラリアは主に5歳未満の子どもたちの命を奪い、結核やHIVは主に若年層から中年層、そして子どもにも広く影響を及ぼすのに対し、COVID-19は主に高齢者に影響が強かったという点も指摘している。

「それなら、あなたはどこに資金を投入すべきだと思いますか? COVIDではないでしょう。けれどWHOはそうした。それには金銭的な動機があったからです」とベル博士は、ワクチン主導のCOVID-19対応について語った。

市場調査会社プレセデンス・リサーチの予測によれば、世界のワクチン市場は2025年の919億7000万ドルから、2034年には1614億ドルにまで成長するとされている。

ベル博士によれば、海外開発援助におけるパンデミック対策の資金要求は、マラリア対策への支出総額の3倍以上にのぼっているという。さらに、GAVI(ワクチンアライアンス)やCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)といった新しい国際機関は、パンデミックやワクチンだけに特化して活動している。

「こうした資金の流れに加え、WHO本体の予算までもが振り向けられているのです」とベル博士は述べた。また、エイズ・結核・マラリアと闘うことを目的とする「グローバル・ファンド」までもが、これらの疾病よりもパンデミック対策への割り当てを増やしていると指摘した。

2025年6月26日にSNSプラットフォームXに投稿された動画で、ケネディ氏はGAVIを厳しく批判した。理由は、GAVIがワクチンの安全性を軽視し、パンデミック中にWHOと協力して異論を検閲し、言論の自由を抑圧したとされることだ。彼は、「アメリカが2001年以降にGAVIに拠出した80億ドルの正当性を説明しない限り、今後はGAVIに対して資金提供を行わない」と発言している。

2002年11月27日、ニューヨーク州ブルックリンのクリニックで、医師が結核患者のレントゲン写真を検査している。WHOによると、2023年には結核がCOVID-19を上回り、世界で最も多くの死因となる感染症となった。 Spencer Platt/Getty Images

資金提供者主導

より広い視点で見れば、WHOの優先課題が変化してきた背景には、その資金調達の仕組みが関係している。

WHOは近年、「指定された」任意拠出金、つまり民間企業、各国政府、そして現在では官民連携の団体からの資金提供に大きく依存するようになっており、こうした目的指定型の資金が、加盟国が負担する基本分担金よりも、WHO全体の予算において大きな割合を占めるまでになっている。

たとえば、2024年から2025年にかけては、アメリカに次ぐWHO全体で2番目の拠出者であるゲイツ財団が、目的指定型の任意拠出金として最大の資金提供者となっており、次いでGAVIワクチン・アライアンス、そしてアメリカ政府がそれに続いている。

ベル博士はこう語る。「40年、50年前にさかのぼれば、当時の焦点は地域社会が主導する水平的な保健ケアに置かれていた。栄養、衛生環境、生活条件といった健康の根本的な要因が重視されていた。」

しかし現在では、ワクチンなどの商品化された医療手段によって疾患に対応する「垂直型」の、中央集権的な官僚機構による対応へと重点が移っていると彼は指摘する。

こうした変化を主導しているのは、WHOそのものではない。ベル博士は言う「主導しているのは資金提供者だ」。

また、開発途上国を含む多くの国々で長年にわたり保健医療制度の整備に携わってきた国際保健の専門家であるエリザベート・ポール女史は、現在のWHOの姿勢について、「本来の役割から大きくずれている」と厳しく批判している。

ポール女史によれば、WHOはもともと、各国の医療制度がより良く機能するように指導・支援を行う、国際的な基準を示す組織であるべきだが、現在は、民間や国家の「ドナー(資金提供者)」の意向を優先し、その指示に従って動く、いわば下請けのような存在になってしまっているという。

ポール女史は、ブリュッセル自由大学の公衆衛生学部で准教授を務めるとともに、同大学にある保健政策と制度に関する研究センターの所長も兼任している。

彼女はさらに、「企業、特に製薬産業の影響によって、利益相反の問題が当然ながら生じている」とも語った。

パンデミック対策の分野では、ワクチンが唯一の解決策として扱われる傾向があるとポール女史は指摘する。

「COVID-19の際に何が起こったかを見てみれば分かる。ワクチンには莫大な予算が投じられた一方で、保健医療体制全体の強化や治療法の開発にはほとんど予算が割かれなかった。ワクチンは効率的で費用対効果が高く、唯一の解決策であるかのような“神話”が存在している」と彼女は述べている。

「そして、人々は医療の継続性という全体像を忘れてしまっている」とも付け加えた。

2021年5月4日、シアトルにあるビル&メリンダ・ゲイツ財団の前を歩く歩行者。ゲイツ財団はWHOにとって、米国に次いで2番目に大きな寄付者である。WHOは、栄養や衛生といった地域密着型の保健対策の推進から、中央集権的な官僚機構主導によるワクチンといった商品ベースの疾病対策へと舵を切ったと批判する声もある。David Ryder/Getty Images

疾病と闘う者たち vs 健康を促進する者たち

グローバルな公衆衛生における優先順位の違いの背後には、根本的なイデオロギー上の分断があると、ポール女史は説明する。

「この分野には、基本的に二種類の人間がいる。病気と闘う人たちと、健康を促進しようとする人たちだ」と彼女は語った。

病気と闘うスタイルについて、ポール女史は次のように述べる。「そのやり方のほうが、ずっと派手だし、公衆や資金提供者を説得するのも簡単なのだ。病気を撲滅しようとしている自分に誇りや興奮を覚える人々もいるが、そうした人たちは他の病気の存在や、病気の根本原因をすっかり忘れてしまう」

病気を個別に切り分けて扱うやり方では、すべての病原体から人々を守るための根本的な条件を、公衆衛生の専門家たちが見落としてしまう可能性があると、ポール女史は指摘する。

「パンデミックにどう備え、どう防ぐべきか? 本来は、単に自国の医療体制を強化することで足りるはずだ。もし健全な医療制度があり、国民が健康であるなら──たとえばMAHA(Make America Healthy Again)アジェンダのように──その状態こそが未来のパンデミックへの備えとなるのだ」

何をもって「成功」と見なすかという点も、しばしば誤解を招くとポール女史は付け加えている。

「たとえば、費用対効果の分析によれば、仮に1,000ドルを投資すれば、ワクチンやその他の医療措置によって1人の命を救えることになる。だから、ある子どもが10種類のワクチンを接種すれば、その子は10回命を救われたとカウントされることになる。だが、その子は翌日に栄養失調で死ぬかもしれない」と彼女は述べた。

彼女はまた、看護師を増員することがどれほど命を救うのかを数字で示すのは簡単ではないとも指摘している。

モハメド・ラミネ・ドラメ博士は、公衆衛生システムおよび政策の専門家であり、数十年にわたりアフリカ各地でWHOや欧州各国政府の仕事に携わってきた人物である。彼もまた、世界銀行、WHO、欧州連合などのプログラムにおいて同様の課題があると述べている。

「プロジェクトは必ずしも現地の人々や関係者と共同で設計されているわけではない」と彼は語り、「たいていは画一的な解決策を伴って持ち込まれる。2年以内で成果指標に到達しなければならない、という具合だ」と述べた。

彼によれば、子どもの90%にワクチンを接種するという目標を達成すること自体は可能である。しかしその一方で、「マラリアや下痢、呼吸器感染症に対応する医療サービスは提供されておらず、人々はマラリアで死ぬことになる」とも指摘している。

ドラメ博士は、GAVIワクチン・アライアンスの独立審査委員会のメンバーでもあり、最近の国際保健の取り組みが緊急対応に偏りすぎていると警鐘を鳴らしている。

ポール女史は、疾病負担(病気の広がりと影響)や死亡率の根本には社会経済的・政治的要因があると強調する。彼女は、パンデミック予防政策を含むグローバルヘルスの現状が、技術的解決策への過度な依存に陥っていることに懸念を示している。

「世界の保健課題の多くは、健康を左右する社会的・経済的・政治的要因、すなわち甚大な格差や多数のリスク要因に起因している。問題は政治的なものであって、技術的なものではない」と彼女は述べた。

2025年4月7日、ウガンダのアパック地区で、保健担当官がマラリアワクチンについて地域住民に説明した後、マラリア迅速診断検査のために乳児から血液サンプルを採取している。WHOによると、結核、HIV、マラリアといった「貧困と疎外」に関連する疾患は、依然として年間200万人以上を死に至らしめている。批判的な人々は、WHOがこれらの問題への対策に十分な資源を投入していないと指摘している。 Hajarah Nalwadda/Getty Images

 

WHOからの脱退および米国による他国への援助削減は、短期的には世界中の保健プログラムに影響を及ぼすが、最終的には有益になる可能性があると一部の専門家は主張している。

米国の援助撤回は、HIV対策プログラムにとって打撃となっており、完全に消滅したプログラムも存在する。また、結核対策のための資金はほぼ半減していることが、2025年5月に開かれた米上院外交委員会での証言によって明らかとなった。

他の関係者は、WHOの予算不足が、途上国における予防接種、母子保健プログラム、緊急事態への備えを混乱させることを指摘している。その一方で、米国は疾病監視の恩恵を失うことになると、2025年3月に『International Journal of Health Policy and Management』に掲載された社説は述べている。

しかし、WHOの問題は米国の脱退以前から存在していた。米国の支援があったとしても、WHOにおける重要な取り組みの多くは慢性的な資金不足に悩まされており、この状況はパンデミック予防への資金の偏重や、ドナー(資金提供者)による優先事項の押し付けによってさらに悪化しているとベル氏は主張している。

世界的な飢餓危機も深刻さを増しており、2023年には世界食糧計画(WFP)が最大64%の資金不足を記録したと報告されている。

WHOと提携し、米国が毎年数百億ドルを拠出してきた「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」もまた、慢性的な資金不足に直面しており、その運営管理の不備や詐欺疑惑について批判を受けている。

そして、USAIDは、ホワイトハウスの声明や司法省による告発によれば、詐欺、浪費、不正使用の疑惑に悩まされてきた。

ポール女史は、アメリカの撤退が短期的にはWHO(世界保健機関)のプログラムに頼る国々にとって悪影響を与えると見ているが、それによって同機関はジュネーブ本部や地域事務所の人員を含めた冗長性を排除せざるを得なくなり、結果的に改革を促すことになると指摘している。

最近の予算削減はすでに改善をもたらしていると、同氏は述べた。「新しいプログラムは完璧ではないが、以前よりもはるかに良くなっている」

削減の対象となった多くのプログラムは、そもそもあまり効率的でも効果的でもなかったと彼女は付け加えた。重複や非効率性は、資金が「縦割り」で編成され、特定のプログラム、疾病、あるいは分野に向けて指定されていたことに起因していた。

2022年から2023年の2年間でWHOに12億8000万ドルを拠出していたアメリカが抜けたことで、WHOは予算削減と加盟国負担金の増額を余儀なくされ、この負担金がWHO全体予算の40%を占めることとなった。

2025年4月24日、ケニアのキスムにあるクオヨ郡立病院(かつてUSAIDの支援を受けていた施設)の廊下で患者たちが待つ。キスムはケニアで最もHIV感染率が高い都市の一つで、成人人口の約17.6%がウイルスに感染しており、これは全国平均の約5倍に相当する。 Michel Lunanga/Getty Images

中国がその空白を埋めるのか?  

オーソリタリアン(権威主義的)な国家が、その後の空白に入り込むのではないかと懸念する声がある。

スタンフォード大学フーバー研究所の客員フェローであるケネス・バーナード氏は、2024年1月にKFFヘルスニュースに対して次のように述べた。「それは単に愚かなことだ。アメリカがWHOから脱退すれば、世界の保健分野における指導的立場に空白が生じる。それを中国が埋めることになるが、それは明らかにアメリカの国益にかなうものではない」

トランプ政権は、アメリカがWHOの資金の大半を拠出しているにもかかわらず、中国のような国がその運営に「不当な影響力」を行使している点に不満を示している。

歴史的に見て、中国はその人口規模に比して、アメリカほど多くの資金を拠出してきたわけではない。たとえば2024~2025年の拠出額は、中国が1億7500万ドルであるのに対し、アメリカは2億6100万ドルとされていた。しかし近年、中国は今後5年間で5億ドルの任意拠出金を提供することを約束している。

ベル氏によれば、理論的には中国の人口規模を考慮すれば、WHOにおける影響力がより大きくなるのも当然である。ただし、WHOが諸国の保健政策を強制するのではなく、あくまで助言的な役割を担う限りにおいてだという。

パンデミック条約の最終草案の採択に際して、アメリカをはじめとする複数の国々は国家主権への懸念を理由に異議を唱えた。一方WHOは、同条約が国内法や国家の政策に介入する権限を与えるものではなく、渡航制限、ワクチン義務化、治療・診断措置、ロックダウンなどの要件を強制することはできないと明言している。

WHOからのアメリカの離脱は、国際保健分野の関係者にとって失望をもたらすものであり、彼らはそれを実質的な変革をもたらすことのない、単なる象徴的な行動にすぎないとみなしている。

より大きな問題:金融と企業の影響力

ベル氏は、この問題は単に条約やWHO(世界保健機関)だけの話にとどまらず、もっと根深いものだと指摘している。

彼は「WHOに警察のような強制力は必要ない」と言い、その背景には「パンデミック対策を最優先にし、そこに公的資金を大量に注ぎ込ませ、民間企業がそこから大きな利益を得ようとする、巨大な金融機関や企業の存在がある」と述べている。「各国にそれを受け入れさせる手段もいくらでもある」と付け加えた。

ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官は、2025年5月20日、ワシントンのキャピトル・ヒルにある上院小委員会で証言した。ケネディ氏は最近、GAVIがワクチンの安全性を軽視し、パンデミック中に反対意見を抑圧し、言論の自由を制限したとしてWHOと提携したことを批判した。 Madalina Vasiliu/The Epoch Times

とくに小さな国々は反対の声を上げにくいという。「たとえば、金融機関が『ワクチン義務化を行わなければ融資しない』『監視体制を強化しなければお金は出さない』などと条件をつけるようになれば、小国は従わざるを得なくなる」とベル氏は語った。

ケネディ長官が掲げるMAHA原則(公平で人道的な医療の実現)について、ポール女史はそれをきっかけに国際保健体制を見直すチャンスだとしつつも、現行の制度を改革する方向で進めるべきだと考えている。一方、ベル氏はケネディ長官のように現行制度とは別の新しい枠組みを作るべきだと考えており、その立場を支持している。

ドラメ博士は、アメリカの支援が減ることは、逆にアフリカ諸国にとって自分たちの公衆衛生への投資を強化し、外交にも力を入れ、外からの投資を呼び込むチャンスになると考えている。

「ビル・ゲイツがやっていることはありがたいが、アフリカにも同じような力を持つ人はいる」と語り、アフリカ出身の億万長者たちにも期待すべきだと訴えた。

また彼は、アフリカ国外に住む人々が毎年950億ドルを故郷に送っており、そのうちのたった1〜2%を医療分野に回すだけでも、各国の保健システムに大きな影響を与えられると指摘した。

HIVの大流行を例に出し、当初は世界保健機関(WHO)が機敏に対応できず、結局1996年に国連合同エイズ計画(UNAIDS)が立ち上がったことを引き合いに出した。

「WHOの組織は、根本的に見直す必要があると思う。いままで通りのやり方では、もうやっていけない」と語った。

ロサンゼルスおよびカリフォルニア州全域の問題を取材する調査報道記者。これまで、LAウィークリーやメディアニュース・グループの出版物をはじめとする様々なメディアにおいて、政治、芸術、文化、社会問題など多岐にわたるテーマを取り上げてきた。