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ドイツで中共スパイ事件審理開始 軍事・政治情報漏洩の全容

2025/08/08
更新: 2025/08/08

8月、ドイツで中国共産党(中共)スパイ事件の審理を開始。政治・軍事機密の流出、反体制派への監視など事件の全容が明らかにされ注目を集めている。

ドイツ・ドレスデン高等裁判所で中共スパイ事件の公判が始まり、大きな注目を集めている。被告人はドイツ議員マキシミリアン・クラー(Maximilian Krah)氏の元中国系アシスタント郭建と、共犯の疑いを持つYaqi X.である。裁判所は9月末までに13回の公判を実施する予定である。

8月5日の初公判では、調査員が30分かけて14ページに及ぶ起訴状を読み上げ、多くの詳細を明らかにした。内容は、中共がドイツおよびEUの政治・軍事・経済に広範な浸透を行い、在外反体制派を監視していた事実である。

特に重大なスパイ活動の疑いがあるため、44歳の郭建は最長10年の懲役、39歳のYaqi X.は最長5年の懲役に直面する可能性がある。ドイツ議員クラー氏は現時点で起訴対象になっていないが、9月3日に証人として出廷する予定である。ドレスデン検察局はクラー氏に対し、マネーロンダリングや収賄の罪状で捜査を進めている。

起訴状が明らかにした驚くべき詳細 中共スパイによる全面的な情報収集

郭建はかつてヨーロッパ議会のドイツ選択党(AfD)議員クラー氏のアシスタントを務め、2019年からブリュッセルで認定議会アシスタント(APA)として勤務していた。ドイツ連邦検察庁の起訴状によれば、郭建は2002年から中共情報機関に協力し、次の任務を遂行していた。

1. ヨーロッパ議会における情報収集

郭建は職務を利用して500件以上のヨーロッパ議会文書を収集・保存し、そのうち少なくとも11件は機密文書であった。これらはヨーロッパ議会の協議や意思決定過程に関するものである。

2024年1月8日、彼は私用車の中から電話をかけ、中共情報官にヨーロッパ議会の交渉進捗を報告した。1月11日には、正体不明の中共情報機関所属の男性と通話し、ヨーロッパ議会の緊急手続きの進捗や意思決定過程を詳細に説明した。

2024年2月、郭建は中国滞在中に機密文書を含むUSBメモリを中共情報機関へ直接手渡した。さらに3月11日には、中共情報部門のために32ページに及ぶ中国語文書を作成し、2021年1月29日~24年2月29日に中国関連で可決した81項目のヨーロッパ議会決議を評価・分析した。内容は人権、政治・安全保障、経済・貿易・投資分野に及んでいた。

2. ドイツ政界上層部の監視

郭建はAfDのアリス・ヴィーデル氏やティーノ・クルパラ党首など党指導部の個人情報を収集した。複数の中国語文書には党運営や指導者の私生活に関するクラー氏との会話記録が含まれている。

2023年12月2日には、クラー事務所長ヨルク・ソボレフスキ氏が、アメリカ中央情報局(CIA)に雇われたイギリス人記者がヨーロッパの極右政党に潜入して影響を与えようとしているとの発言を記録した。2024年1月7日には、「午前茶」と題した文書において、クラー氏がアメリカ連邦捜査局(FBI)から事情聴取を受けた件や、ヴィーデル氏、クルパラ氏の立場について記した。

同日、郭建は「人工ダイヤモンドプロジェクト」と題する文書で、AfD議員ヤン・ヴェンツェル・シュミット氏との昼食会談内容をまとめた。シュミット氏は当時ザクセン=アンハルト州の書記長で、クルパラ陣営の重要な人物であった。

文書によれば、2024年1月4日、両者はマクデブルク市中心部のスペイン料理店で会合し、人工ダイヤモンド取引を主題に話し合った。シュミット氏は取引に関心を示し、郭建はシュミット氏と中国企業2社の連携を仲介し、価格や手続きについて合意した。郭建はレストランでシュミット氏に人造ダイヤを渡し、その後、シュミット氏から党内事情や党首に関する情報を得た。シュミット氏は会談の事実は認めたが、具体的な会話内容については否定した。

3. 中共反体制派の追跡

郭建は中共批判者を装い、ドイツ在住の中共反体制派が参加する複数のTelegramグループに潜入し、個人情報を収集した。彼は1001行と2万4171行の二つのExcelリストを作成し、多数の反体制派SNSアカウント情報を記録した。長いリストには身分証番号、住所、電話番号、経歴など詳細情報が含まれ、21人のドイツ在住者を特定した。

郭建は「白紙運動」参加者の身元を特定しようとし、2023年1月にはミュンヘンで学生と対面して名前を聞き出そうと試みた。4月には別の学生と接触し、その学生の姓が「程」で山東出身であることを確認した。さらに中国語雑誌『茫茫』(MangMang)を調査し、偽装寄付を通じて運営情報を入手しようとした。

4. ドイツの軍事情報の収集

郭建の共犯者であるYaqi X.は、ライプツィヒ/ハレ空港のPortGround GmbH社でカスタマーサービスマネージャーを務めていた。Yaqi X.は2023年8月~24年2月の間、郭建に対して軍用機、貨物、乗客データなど、空港輸送に関する多くの情報を提供した。

例えば、2023年8月16日~24年2月19日までの間、彼女はドイツの軍用機や車両の写真を繰り返し送信した。

2023年8月18日には、イスラエル航空工業の無人機輸送に関するメールと航空貨物伝票を渡した。

2023年10月13日には、Heron無人機の輸送情報を含む表と、トヨタ・ランドクルーザー装甲車5台をテルアビブへ輸送する見積書を送信した。

2023年10月19日と25日には、放射性貨物であることを示す情報を送った。

2023年12月5日には、ドイツ最大の軍事企業グループであるライングメタル社の従業員の乗客リスト(氏名、誕生日、パスポート情報など)を送信した。

2024年3月25日と26日には、ドイツ連邦軍の4月・5月の飛行および部隊移動に関するデータを渡した。

これらの情報は、中共の情報機関がドイツ連邦軍の軍事力や部隊の動向、さらにドイツの外交・安全保障政策の意図を推測するのに十分な内容である。

ドイツ連邦検察官モルヴァイザー(Stephan Morweiser)氏は、「この事件は、中国がドイツおよびEUの政治、軍事、経済的利益を全面的にスパイしようとする意図を象徴的に示す」と述べた。

ドイツメディア ドイツ近代史上最深刻のスパイ事件

ドイツのメディアは、この事件をドイツ近代史上最も深刻なスパイ事件の一つと位置付けている。ドレスデン高等裁判所での審理では、厳重な警備体制を敷き、傍聴者は電子機器の持ち込みを禁止され、厚い防弾ガラス越しにのみ傍聴を許可した。

2025年8月5日、ドイツで中共スパイ郭建の審理が行われた (ドレスデン高等地方裁判所)

郭建は初日の審理でマスクを着用して法廷に入り、すべての告発に対して終始沈黙を守った。Yaqi X.は事前に準備した陳述を読み上げ、2015年にドイツに留学した際、郭建がWeChatを通じて連絡を取り、積極的に支援を申し出た経緯を説明した。郭建はドイツ語に堪能で、ドイツの事情にも精通していた。彼は既婚者であったが、二人は短期間の恋愛関係にあった。

Yaqi X.は郭建に航空機、貨物、乗客名簿の写真などを送った事実を認めた。彼女は郭建を少し謎めいた人物と感じていたが、空港情報を求める理由については疑念を抱かなかったと述べた。

裁判長シュリューター=シュターツ(Hans Schlüter-Staats)氏は、「郭建が繰り返し情報を求めたとき、疑問を持たなかったのか」と問いかけた。Yaqi X.は髪を耳にかけ、不安な表情を見せた後、通訳に近づき、小声で「当時はそれらの情報が中共の情報機関に渡るとは考えなかった」と語った。

ドイツ刑法第99条に基づき、郭建は特に重大なスパイ活動の容疑で最長10年の懲役刑を受ける可能性がある。一方、Yaqi X.の罪は比較的軽く、最長5年の懲役刑が科される見込みである。さらに、ドレスデンの検察当局は2025年5月から議員クラー氏に対してマネーロンダリングや収賄の疑いで捜査を進めている。

2025年8月5日、ドイツで中共スパイYaqi X.の審理が行われた(ドレスデン高等地方裁判所)

この事件は、中共の情報機関によるドイツおよびEUへの浸透の実態を明らかにすると同時に、ドイツの要人に対する安全対策の脆弱性も浮き彫りにした。ドイツ連邦検察庁は、ドイツがNATOにおいて重要な役割を果たし、中共の情報機関が主要な標的として狙っていることを強調した。この事件の審理は、ドイツの情報安全政策に重要な示唆を与えるものであり、今後もドイツおよび国際メディアが厳しく注視し続けるであろう。

王亦笑