中国・福建省漳州市(しょうしゅうし)の飲食店で、「滷味(ルーウェイ)」と呼ばれる煮込み料理に麻薬が混ぜられていたことが発覚し、店主が拘留された。料理からはモルヒネやコデインなどの麻薬性成分が検出され、ネット上で大きな波紋を呼んでいる。
滷味とは、八角やシナモン、クローブなどの香辛料に、しょうゆや砂糖を加えて長時間煮込む中国の定番料理である。大人から子どもまで広く愛され、豚の大腸や内臓、鶏肉、豆腐、卵などさまざまな食材が使われる。独特の香りと濃い味付けが特徴で、家庭でも作られる一方、街角の屋台でも人気が高い。日本の「煮込み」や「角煮」に近い存在といえる。
現地の市場管理当局によると、店主はせき止め薬「複方甘草片」を大量に買い込み、煮込みに使用していた。薬入り料理の売り上げは2千万円以上にのぼり、甘みやコクを強める作用で客に「また食べたい」と思わせていた。薬を混ぜれば高価な食材や手間をかけずとも「やみつきの味」を演出でき、結果的にリピーターを増やせる。まさに危険な商売の手口である。
事件が報じられると、SNSでは「滷味だけじゃない、火鍋店も徹底的に調べたら多くの店が閉まるだろう」といった声が広がった。こうした薬の成分を含む添加物への依存は、中国の飲食業界全体に広がっており、消費者の健康を脅かす深刻な問題となっている。
実際、中国の飲食業界では見た目や味を人工的に作り出すために様々な添加物が使われている。たとえば「牛骨スープ」と称する鍋が粉末調味料を湯で溶いただけだったり、豚腸や牛の胃袋を薬品で処理して白く見せたりする事例がある。さらに、肉を鮮やかに保つために毒性や発がん性が指摘される亜硝酸ナトリウムを違法に使うケースも少なくない。こうした実態を支えているのが、中国における食品添加物の急増である。1980年代には数十種類しかなかった添加物は、今では2400種類を超え、市場も急拡大を続けている。
見た目が鮮やかで安い料理の裏には、「やみつきにさせるための仕掛け」が潜んでいる。信頼を裏切る味づくりを続ける限り、中国の食卓から安心は遠のくばかりである。
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