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中共 WTO交渉で新たな特別待遇を求めない理由とは?

2025/09/25
更新: 2025/09/25

9月23日、中国共産党(中共)の李強首相はニューヨークで開催された第80回国連総会の関連行事に出席し、WTOの現在と今後の交渉において、新たに「特別待遇(SDT)」を求めないと表明した。

この発表は、中国がWTOに加盟してから24年を経た節目となった。長年、アメリカをはじめとする西側諸国は、中国経済の規模がすでに発展途上国の特権に見合わないとして、この特典を放棄するよう求めてきた。中国自身も世界第二の経済大国と自称している。

WTOのオコンジョ=イウェアラ事務局長は、この決定を歓迎し「WTO改革を支持する強いシグナルであり、全加盟国にとってより公平な競争環境の形成に役立つ」と述べた。同氏は5月に「日経アジア」の取材に対し、一部の国は自らを発展途上国と位置付け続け、協定の履行免除や遵守期限の延長といった特典を享受していると指摘していたが、中国を名指ししていなかった。

一方で、中国より1年遅れてWTOに加盟した台湾は2018年に「発展途上国」待遇を放棄し、「先進国」としてWTO活動や義務を担う立場へ転換。韓国も2019年に特別待遇を求めないと発表している。

トランプ米大統領は1期目の際、「中国や他の主要経済国が発展途上国としての特別待遇を放棄しない限り、WTOの有意義な改革は不可能だ」と公言していた。

中共の言葉のレトリック 途上国地位維持の構え

今回の決定は、数か月にわたり続く米中貿易摩擦や、WTO内部改革への圧力が高まる中で出された。世界最大の貿易大国である中国のこの姿勢は、国際的な圧力を和らげる一方、発展途上国としての身分を維持する柔軟性を残す狙いがあるとみられている。

中国共産党商務部の当局者は23日、「関税戦争や一部の国による輸入制限的な保護主義的措置が世界貿易体制を揺るがす中、SDTを放棄するのは世界貿易体制を後押しするためだ」と述べた。ただし同時に、中共は依然として自らを発展途上国と位置付けると強調した。

中共駐WTO代表団の李毅宏臨時代理も「この決定は、中国が発展途上国である地位を変えるものではなく、WTOにおけるその立場も変わらない」と説明している。

シンガポール経営大学ロースクールの教授で、WTO法の専門家でもある高樹超氏はXに投稿し、中共の決定は「今後のWTO交渉で新たな特別待遇を求めない」という限定的なものであり、発展途上国としての地位を放棄するものでもなければ、WTO以外の交渉で特別待遇を求めないことを意味するものでもないと説明した。

高氏は「(さらに)これが既存の特別待遇を放棄することを意味するわけでもない。たとえば、中共が加盟時に得た権利、農業国内助成の最小限度許容助成(AMSデ・ミニマス)の8.5%などはそのまま残る」と補足した。

同氏は、中共が今回の発表に踏み切った理由について「一つは米中交渉を促進する姿勢を示すため、もう一つは先手を打ってアメリカが改めて中共に発展途上国の地位放棄を迫ることを防ぐ狙いがある」と分析している。

元米通商代表「中共の声明は数年遅い」

トランプ氏が大統領に復帰した後も、米中間の貿易摩擦は数か月にわたり続いている。双方は一時的な休戦合意を結び、交渉を通じて延長を図っているものの、アメリカが中共からの輸入品に課した高関税は依然として残っている。

同時に、貿易戦争のさなかに世界経済や貿易情勢が変化するなか、WTO内部でも改革を求める声が強まっている。

アジア協会政策研究所の上級副総裁で、元米国通商代表部のベテラン交渉官でもあるウェンディ・カトラー氏は、ブルームバーグに対し「中共の声明はすでに数年遅い」と語った。

「WTOには明確な交渉アジェンダがなく、改革の歩みも遅い。声明自体は歓迎すべきだが、実際の効果は限られる」と指摘した。

EU商会「中共は世界的な関税反発に直面」

フィナンシャル・タイムズ紙は、中国EU商会のイエンス・エスケルンド会長は「中共は現在、世界的な関税反発の危険に直面している」と警告したと伝えた。

同氏は、中共が抱える過剰な生産能力が、製造業の生産拡大が経済成長を上回っていることに表れていると指摘。さらに人民元の下落が加わり、中国製品は価格の優位性によって、多くの国で現地企業を押しのけていると述べた。

「私たちは彼らに、毎年世界輸出に占めるシェアを1%ずつ拡大していくような軌跡は持続不可能だと伝えようとしている」とエスケルンド氏は語り、「事態が悪化する前に、製品貿易のバランスをどう取り戻すかを話し合うべきだ」と強調した。

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長も7月の訪中後の会見で、「世界的に関税障壁が高まるなかで、EUと中共の関係を再均衡させる必要性はこれまでになく切実だ」と指摘。

そのうえで、中共当局に対し過剰生産問題の解決に向けた具体的な行動と成果を求め、「さもなければEUは現在の開放的な姿勢を維持できなくなる」と警告した。
 

林燕