中国では、中共トップの習近平がこれまでに出版した書籍が150冊を超えるとされるが、その多くが書店で大量に売れ残っているという。
一部の大型書店では9割引きでも売れず、埃をかぶったまま放置されているという「国家指導者のイメージダウン待ったなしの由々しき事態」を伝える投稿が、華人圏でも話題になっている。
並ぶ書籍の多くは、習近平の政治思想をまとめた公式シリーズ本や、演説や書簡を編集した本で、内容が重複しているとの指摘が多い。
習近平の出版ラッシュは2012年の就任以降に本格化した。中央党史と文献研究院(「公式資料」を作る党直属の機関)の公式サイトだけでも、習近平の「重要著作」が数十冊並んでいる。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、習近平は就任以来すでに300冊以上の書籍を「出版した」とされる。さらにAmazon傘下で英語圏最大の読書コミュニティサイト「Goodreads」では、習近平名義の書籍が205冊確認できる。
公式に確認できる発行物だけでも150冊を超えるが、これらの大半は演説の書き起こしや書簡の再編集で、内容の重複が目立つ。実際の執筆が本人なのかも不明で、中共の宣伝部門がまとめて量産しているとの見方が強い。
数字を基に計算すると、
・150冊の場合:就任13年で年平均11、12冊
・300冊の場合:年平均23冊前後となる。
つまり少なく見積もっても年に10冊以上、多い年には「月に1冊ペース」で出版されている計算になる。もしこれらがすべて本人の執筆なら、一般の作家でも震えるほどの超多作ぶりであり、多忙な国家指導者の実務と両立するのはほぼ不可能である。読者から「やはり何かがおかしい」という声が上がるのも当然といえる。
書店に並ぶ習近平の本が売れない理由について、中国語圏では
「いくら安売りされても読みたいと思えない」
「またどこかに『方向指示』をされそうで怖い」
といった声も上がり、読者の間にも警戒感が広がっている。
「方向を指し示す(指明方向)」は日本では馴染みのない表現だが、中国の官製メディアでは習近平を称賛する常套句で、「总书记为我们指明了方向(総書記が私たちに進むべき方向を示した)」といった表現が頻繁に使われる。
さらに、中国語圏のユーザーが、官製メディア「新華社」や「人民日報」に掲載された記事を集計したところ、習近平はこの9年間でおよそ250もの「方向」を示したといわれている。平均すると三日に一度は国家の「新たな進路」を提示していた計算だ。
こうした「方向指示」の多さについては、華人圏のネット上でも批判的な声が多い。「基本的に指し示されたものは全部失敗に終わる」「あの方向指示は国民にとって災難しかない」といった皮肉が広がり、習近平の度重なる「謎の進路指示」は、いまや華人圏ではすっかり笑いの定番ネタになっている。
それでも中共の官製メディアは、習近平があらゆる分野で「方向を指し示した」と持ち上げ続けてきた。
習近平の「方向指示乱発」と「政策迷走」については、中国系アメリカ人で政治活動家の作家・陳破空(ちん はくう)氏も厳しく批判している。陳氏は「彼が指し示した方向は失敗か混乱のどちらかだ」と述べ「その結果、この国全体がどん底へ向かっている」と結んでいる。
売れ残った大量の出版物は、国民が静かに示した「本音」なのだろう。読まなくても中身が想像できる本は、どれだけ安くしても手に取られない。
棚に積み上がった在庫は、国民が示すもうひとつの「方向」すなわち「これ以上はつき合いきれない」という明確な意思表示なのかもしれない。
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