ここ最近、中国政府は反日ムードを積極的に演出してきた。
日本の芸能関連のイベントは中断され、訪日旅行は制限され、ネットにも「お国の立場」を強調する投稿が目立つ。
ところが、上海の現場に立ってみれば、その緊張感は、寿司の前では完全にかき消されていた。
中国・上海で6日、日本の回転ずしチェーン「スシロー」が2店舗同時にオープンした。朝から店の前には人が押し寄せ、待機列は約700組、最長14時間待ちに達した。翌日以降も勢いは衰えず、7日は2〜3時間待ちが続き、8日も1〜2時間待ちの行列ができた。初日だけの「話題作り」ではなく、週末を通じて満席状態が続いたのである。ここ数週間、政治面では日中関係の緊張が続いているが、行列の熱気の前ではまったく存在感がない。
客の声は実にあっさりしている。
「旅行で食べておいしかったから来ただけ。政治とは関係ない」
「大トロが好き。並ぶ価値はあるよ」
政府がどれだけ反日ムードを演出しても、現場には「食べる自由」がしっかり息づいている。胃袋は指示では動かない。おいしいものを前にすると、人は自然と列に並ぶ。たとえその店が、政治的に微妙な相手のものであってもだ。

ネット上には
「こんな敏感な時期に日本寿司屋の行列、当局の連日の努力が水の泡だ」
「愛国心を胸に、全力で寿司を食って日本を困らせよう!」
といった冗談も並ぶ。
中国語圏のセルフメディアも、この盛況ぶりをネタに面白おかしく皮肉を飛ばしている。たとえば、こんな調子である。
「反日だの何だのと騒いでいたけど……胃袋は嘘をつかないわね」
「日本を批判しながら寿司に14時間並ぶ国、世界でも珍しいでしょ」
「愛国心より大トロ。これが現実」
「政治は難しくても、寿司はわかりやすい。うまいから並ぶ。それだけ」
「反日教育20年より、大トロ1皿の説得力のほうが強かった」
「国家プロパガンダ VS 大トロ。勝者:大トロ(圧勝)」
政治の緊張とは別世界のように、現場の空気は驚くほど軽やかだ。緊張ムードが流れる一方、市民の感覚は案外シンプルだ。
政治的な摩擦が何かと話題になる日々だが、今回の光景は、生活者の「本音」を静かに物語っている。おいしいものの前では、難しい話はひとまず脇に置かれる。それが今の中国のリアルである。

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