120件を超える研究を対象とした新たなレビュー(過去の研究を総合的に分析した論文)により、不眠症を含むさまざまな疾患に対して、医療用大麻の使用を支持する確かな証拠はほとんどないことが結論づけられた。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、大麻から抽出される化学成分であるカンナビノイドについて、抗がん剤治療に伴って起こる吐き気や嘔吐、てんかん発作など、限られた症状に対して承認している。一方で、食欲不振や不眠症、慢性的な痛みなどの症状を抱える患者の中には、FDAの承認対象外で医師から処方されたり、州法で認められた制度を通じて入手したりした医療用大麻やカンナビノイドを使用している人も少なくない。
しかし、2010年1月から9月までに公表された関連研究を精査した結果、多くの疾患について、医療用大麻の有効性を裏付ける「十分な科学的根拠は確認できなかった」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)などの研究者らは結論づけた。この論文は、11月26日付で米国医師会雑誌(Journal of the American Medical Association)に掲載された。
今回の結論は、無作為に被験者を分けて偽薬(プラセボ)と比較する臨床試験を含む、120件以上の研究結果をもとに導き出された。
本研究の著者の一人で、UCLAヘルス精神医療・生物行動科学部門の臨床講師を務めるマイケル・スー医師は声いで、多くの人が症状の改善を期待して大麻を使用している一方、医療用大麻の有効性については、一般に広がっているイメージと科学的根拠との間に大きな隔たりがあると指摘した。その上で、患者と医療用大麻について話し合う際には、安全性と科学的根拠に基づいた判断ができるよう、医療従事者が明確な説明と指針を示すことが不可欠だと強調した。さらに、医療用大麻について科学的に分かっていることと、まだ分かっていないことの両方を、患者に率直に伝える必要があると述べた。
その一方で、医療用大麻やカンナビノイド製品の使用により、口の渇きや下痢、めまいなどの副作用が生じる可能性が指摘されており、長期間使用した場合の健康への影響については、現時点では十分に解明されていない。
研究者らは一方で、抗がん剤治療に伴う吐き気や嘔吐など、限られた症状については、医療用大麻やカンナビノイドの有効性を示す一定の科学的根拠があると述べている。ただし、本レビューにはいくつかの限界もあり、分析対象とした研究について、偏り(バイアス)の影響を十分に評価していない点や、対象研究の中に観察研究が含まれている点が指摘された。
スー医師は「医療用大麻の潜在的な利益とリスクをより深く理解するためには、さらなる研究が不可欠である。より厳密な研究を支援することで、より明確な指針を示し、患者に対する臨床ケアの向上につなげることができる」と述べた。
利益相反の開示として、スー医師は、若者向けにメンタルヘルス関連コンテンツの制作やコーチングを提供するプラットフォーム「Healthy Gamer」の諮問委員会のメンバーであることを報告している。本研究は、グレーター・ロサンゼルス退役軍人医療センターの支援を受けて実施されたが、研究の設計や実施、データの解釈には関与していないと著者らは述べている。
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