タイとカンボジアの国境紛争が激化。トランプ大統領の停戦発表をタイが否定し、F-16空爆でカジノや特殊詐欺拠点が次々崩壊した。
アメリカのトランプ大統領は12月12日、タイとカンボジアが停戦協定に達したと発表した。しかし、タイ側はすぐにトランプ大統領の発言を否定した。両国の戦闘はここ数日間続いており、しかもますます激しくなっており、事態がエスカレートする傾向を見せている。
現職のタイ首相アヌティン氏は強硬な姿勢を示し、メディアに対して、タイが停戦を拒否する理由の一つは、国境の県がカンボジアのロケット弾による攻撃を受け続けていることだと述べた。タイ側によれば、戦略上の目的は領土の占領ではなく、国境沿いのいくつかの高地を制圧し、空軍の力によって国境地域のカンボジア軍事力を徹底的に壊滅させることにあるという。
タイとカンボジアの国境地帯では、戦闘の拡大に伴い、これまでグレーな経済拠点とされてきたカジノ群が、戦場で最も目立つ攻撃対象へと急速に変貌している。
空爆を受けた国境の特殊詐欺拠点
12月13日、タイ空軍のF-16戦闘機がカンボジア西部ポーサット州にあるカジノと特殊詐欺拠点を攻撃し、建物は最初の爆撃で大きく損傷した後、約5分後に再度攻撃を受け、構造の大部分が崩壊した。
同じ日、プレアヴィヒア州でも別のF16がカジノ施設と付近の軍事哨所を標的に、レーザー誘導爆弾「GBU-12」を投下したとされ、大規模な火災と黒煙が確認された。これらの映像から、カジノが前線の指揮・監視拠点として利用されていた可能性が高いとみられている。
また、夜間に撮影された映像では、別のカジノ施設が同型の爆弾で攻撃を受け、高層階が大きく破壊される様子が映っている。こうした空爆は単発的ではなく、連日実施されている作戦の一環とされている。
「越境犯罪対策」との位置づけ
タイ軍は、国境沿いにある複数のカジノ施設や特殊詐欺の拠点を「軍事目標」であり「犯罪の温床」であると位置づけ、作戦を継続している。
カンボジア西部から北部にかけての国境地帯には、戦闘前からカジノ施設や「パーク型」と呼ばれる特殊詐欺施設が密集し、多くのタイ人や中国人客を引きつけていた。
しかし、戦火の拡大により、警備や電源設備が整ったこれらの建物がカンボジア軍に接収され、狙撃や監視に利用されるようになったとされる。特に高層構造のカジノ施設は、国境一帯を見下ろす位置にあり、実質的に要塞として使われていたとの見方もある。
カジノと権力構造
カジノ施設が戦火の焦点となる背景には、カンボジアで長年にわたり形成されてきた政治・経済ネットワークの存在がある。
複数の調査や報道によれば、カジノおよび特殊詐欺産業の規模は数十億ドルに達し、中国系犯罪組織や有力一族との関係も深いとされる。
カンボジアのフン・セン前首相の一族は、側近や関連企業を通じて国境都市に大型カジノや統合型リゾートを設立し、政財界の資金源としてきたと指摘されている。
こうした利権構造が、フン・セン一族とタイの元首相のタクシン・シナワット(兄)やインラック・シナワット(妹)、ペートンターン・シナワット(タクシンの次女)などを輩出したシナワット一族との関係悪化につながり、今回の国境衝突の一因となっているとの分析もある。
「非軍事化」と「犯罪撲滅」を掲げる作戦
タイ政府は、今回の軍事行動を「越境犯罪対策」の一環として説明している。
タイ軍は声明の中で、カンボジア領内の国境近くにあるカジノや特殊詐欺の施設を、軍事的および犯罪的機能を失うまで継続的に攻撃するとしている。
また、平時においても国境観光の制限や自国民の渡航抑制などを通じ、違法ギャンブルや詐欺行為の拡大防止を図る方針を示している。
戦火が塗り替える「カジノ地図」
空爆や国境封鎖により、多くのカジノは営業停止や収益急減に追い込まれており、地域経済への影響が広がっている。
しかし、専門家は、個々の施設が破壊されても、その背後にある詐欺や資金洗浄のネットワークは拠点を移し、分散化やオンライン化によって存続する可能性が高いと指摘している。
「カジノを破壊することは第一歩にすぎず、この産業構造を根本から断ち切ることは容易ではない」との見方が出ている。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。