「来るぞ」。
誰がどこから聞きつけたのかは分からない。だが「侵略者が来る」という噂が、店主たちの間を一気に駆け抜けた。
中国・河北省保定市の商業街。次の瞬間、飲食店もコンビニも市場も、シャッターが一斉に下りた。
街は無人になった。残ったのは、閉ざされた店先と不気味な静けさだけだった。

現地では12月24日以降、店が一斉に閉店したことで、外食もできず、家で料理をしようにも食材が買えないという困惑が広がった。
「侵略者」の正体は、市場監督当局の検査だ。戦う者はいない。店主たちに迷いはなかった。選択肢は、逃げる一択だった。
理由は単純である。検査に応じた瞬間、問題の有無は意味を失う。なければ探され、見つからなければ作られ、最後は罰金になる。合格か不合格かを決めるのは誰か。分からない。だから閉める。
(シャッターを下ろした商店が並ぶ商業街、2025年12月、中国河北省保定市)
後日、中国メディアの取材に対し、現地の市場監督管理局は「検査は行っているが、閉店を強制したわけではない」と説明した。
しかし、なぜ商店主たちがここまで一斉にシャッターを下ろす事態になったのかについて、当局は理由を語らない。だが、市民の側はよく知っている。
「年末だし、ボーナスの時期だろう」そう考えれば、なぜ罰金が必要なのかも、なぜ店が消えたのかも、すべて辻褄が合う。

今回だけではない。「侵略者」が来るたび、街は生き残るために自ら息を止めてきた。
2024年、広東省潮州市・汕頭市で消防検査が始まると、店主たちは「略奪者が来たぞ」と声を張り上げ、次々と隣の店に知らせて回った。
知らせを聞いた店主たちは、次の瞬間、迷いもなくシャッターを下ろし、店先に出していた簡易テーブルや椅子を撤去し始めた。まだ料理の前に座っていた客は、箸を止めたまま固まった。
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