論評
米軍がニコラス・マドゥロ大統領を拘束したことで、世界中で戦略の見直しが余儀なくされている。ヨーロッパ、中東、アジア、とりわけ中南米諸国の政府や企業の指導者たちは、軍事、外交、経済、金融の各分野における計画を再考せざるを得なくなった。
とりわけ大きな打撃を受けたのが中国だ。経済面だけでなく、中国共産党のトップである習近平が掲げてきた人民元の世界的覇権という野望にも狂いが生じている。事態が落ち着くまでには時間がかかりそうだが、中国が直面する問題のいくつかはすでに明らかになり始めている。
マドゥロ氏拘束作戦や、彼に突き付けられた刑事責任については、すでに多くの論評がなされており、ここで繰り返す意味はない。中国共産党(中共)政府が今後どのような軍事・外交行動に出るかについての推測も、専門家に委ねるべきだろう。しかし、最近の一連の出来事が、中共の経済・金融・通貨戦略をいかに揺るがしたかについては、語るべきことが多い。
中共が直面している課題は主に三つある。第一に、ベネズエラは中国(中共)政府、国有企業、さらには複数の民間企業に対して多額の債務を負っているが、それが今後返済されるのか、またどのような形で処理されるのか、現時点では不透明だ。第二に、マドゥロ政権はこれまで、石油を中国に送ることで債務の一部を履行してきたが、この流れが今後も続くかどうかは、いまやアメリカ政府の判断に委ねられている。第三に、マドゥロ政権下のベネズエラは、人民元を国際通貨に押し上げようとする習近平の構想を後押ししてきたが、そうした協力関係はもはや終わった。
中国の金融リスクは決して小さくない。アメリカの動きを受け、中国の最高金融監督機関である国家金融監督管理局は、国内の銀行や主要な金融機関に対し、ベネズエラ関連の与信状況を報告し、リスク管理を強化するよう求めた。
公式筋は総額についてほとんど明らかにしていないが、戦略国際問題研究所(CSIS)は、中国の対ベネズエラ融資を約620億ドルと推計しており、これは中国の対中南米融資全体の半分以上に当たる。これほど巨額の資金をめぐる問題は、どのような状況でも小さなことではないが、中国の金融が依然として不動産危機の余波や、地方政府が債務を履行できずにいる問題に苦しんでいる現状を踏まえるとなおさらだ。
融資の多くは中国開発銀行に集中しており、ベネズエラのエネルギー、港湾、通信関連プロジェクトにひも付けられている。中国石油天然気集団は、ベネズエラ国営石油会社ペトロレオス・デ・ベネズエラ(PDVSA)との合弁事業を通じて、エネルギー分野の事業を主導してきた。
インフラ投資の大半、とりわけ港湾施設は、中共の一帯一路構想を通じて進められており、通信分野では華為技術(ファーウェイ)が同国の4Gネットワークを運営している。さらに中興通訊(ZTE)は、国民が公共サービスを利用するための国家ID「ホームランドカード」の開発を担っており、これは監視の手段にもなり得るもので、中共が豊富な経験を持つ分野でもある。
これほど巨額の債務を抱えているにもかかわらず、中国にとっても世界全体にとっても、ベネズエラ産原油の重要性はそれほど高くない。マドゥロ政権、さらにその前のチャベス政権の下で長年にわたり産業基盤が放置された結果、世界最大級の確認埋蔵量を持ちながら、生産量は大きく落ち込んでいる。最盛期には1日約300万バレルを産出していたが、OPECによれば、現在は約93万4千バレルにとどまっている。
中国向けに1日100万バレルを供給する契約はあるものの、近年は、債務を返済するためのバーター契約に基づき、1日当たり約47万バレルしか送っていない。中国にとってベネズエラは最大の供給先となっているが、中国全体の海上輸入量に占める割合は4.5%にすぎない。仮にアメリカが供給遮断に踏み切ったとしても、中共はロシア産原油などで不足分を補うことができるが、それは中共が進めてきた供給網の多様化の取り組みに逆行することになる。
石油や債務以上に、中共にとってより懸念すべきは、人民元の国際化のパートナーを失ったことだ。ベネズエラは石油の価格をほとんどの産油国が採用しているドルではなく人民元で設定し、すべての国際取引を人民元で行っていた。こうした慣行は、国際取引の主要な決済手段としてドルに挑み、最終的には「世界的な準備通貨」としてドルに代わるという習近平の野望を後押ししていた。
ワシントンがベネズエラの石油に対して何を決定しようとも、その価格設定は再びドルに戻ることになり、その結果、ドルの基軸通貨としての地位は一段と強まり、人民元の存在感は大きく後退する。
より広い視点では、最近の一連の出来事は、中国の中南米進出の将来に疑問を投げかけている。アメリカの強硬な姿勢に不安を抱いた中南米諸国が、対米圧力を和らげる受け皿として中国に近づくのではないかとの見方も出ている。
他方で、より説得力のある見方として、今回のアメリカの行動は、中国の投資家に中南米への進出をためらわせ、同時に中南米各国政府にとっても中共政府との関係構築を慎重にさせるという指摘もある。
中共政府は、ワシントンの動きにもかかわらず、中南米での歩みを一歩も引かないと表明している。
もっとも、中共が中南米でどこまで進出できるかは、中共政府の決意よりも、中南米各国の反応にかかっており、その反応は依然として極めて不透明だ。実際、この初期段階において、状況全体が依然として極めて不透明なままだ。

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