「昨日まで普通に聴けたのに、急に出てこない」。
中国のネット上で、そんな戸惑いの声が広がった。
マレーシア出身の歌手、梁静茹のヒット曲の一つ
「可惜不是你(あなたでないのが惜しい)」が、中国のSNSや音楽配信アプリ上で突然表示されなくなった。
世界的に削除されたわけではない。
YouTubeなど海外の動画サイトでは、現在も視聴できる。
見えなくなったのは、中国国内向けのプラットフォームだけだ。
中国SNS・ウェイボー(微博)では「可惜不是你」に関する検索結果が表示されなくなり、
音楽配信サービスでも一時的に楽曲が非表示となった。
この動きが注目されたのは、ベネズエラの前大統領ニコラス・マドゥロ夫妻が拘束されたとする海外報道と、ほぼ同じ時期だったためである。

「何」が惜しかったのか
中国では、最高指導者を名指しで批判することはできない。
その代わり、流行語や歌のタイトルに本音を重ねる文化がある。
「可惜不是你」は、本来は失恋をテーマにした楽曲である。
しかし中国のネット空間では、「捕まったのが別の人物だったらよかった」という皮肉を込めた言い回しとして使われてきた。
中国語では「惜(シー)」と「習(シー)」が同じ発音である。
このため、この言葉は中共党首・習近平を暗に指す表現として読まれてきた。
中国では、国内外の重要な政治人物が死亡したり、襲撃されたり、拘束されたりするたびに、「可惜不是你」を再生し、コメント欄に曲名と同じ言葉を残す行動が繰り返されてきた。
惜しかったのは、いったい誰なのか。
説明はいらない。これだけで、皆が分かる。
つまり、問題になったのは、歌そのものではない。
人々がその歌に重ねた思いだ。
「可惜不是你」。
その一言に、人々はそれぞれの相手を思い浮かべる。
だが、あまりにも多くの人が同じ相手を思い浮かべてしまった。
その事実こそが、中共当局にとって、見過ごせない危機だ。
だから、この歌は消えた。
人々が言葉にできず、歌に託してきた「別の意味」が、封じられたのである。

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