中国で「買って、使って、返す」という行為が当たり前になりつつあるとして、新たなモラル問題が話題になっている。
舞台衣装の一大生産地として知られる山東省曹県(そうけん)では、中国の児童節(6月1日)に合わせた発表会シーズンが終わると、大量の返品が相次ぎ、商店側が悲鳴を上げている。
返送されてきた衣装には、化粧品の汚れや汗染み、破れ、装飾品の紛失など、明らかに使用済みと分かるものが少なくないという。ある店主は、15着まとめて購入した客から5日後にほぼ全品が返品され、汚れや付属品の欠品で再販売できなくなったと明かした。
本来、ネット通販の「7日間返品保証」は、サイズ違いやイメージ違いなど、消費者を守るための制度だ。しかし近年は、演出衣装を「1回だけ使って返す無料レンタル」のように利用するケースが増えているという。
現地メディアによると、繁忙期には「10着売って9着返品される」店もある。返品率が50~70%を超える店舗も珍しくなく、利益が出ないどころか赤字になる事業者も出ている。
さらに商店側の不満を大きくしているのが、ECプラットフォームの運営方針だ。商品がまだ店に戻ってきていない段階で購入者へ返金が行われたり、店側が発送前の状態を撮影した証拠動画を提出しても、AI審査では購入者側が優先され、返金が認められてしまうケースがある。
実は、この現象は今回が初めてではない。今年4月には、陝西省の中学校で、学校行事で使用した演出衣装を保護者らが集団で返品する問題が発覚した。さらに昨年は、遼寧省瀋陽市の学校で、教師が生徒たちに「運動会で使ったら返品すればいい」と指示し、60人以上が使用済みのスカートを一斉返品する騒動も起きている。
こうした悪質な返品が広がった結果、店側も異例の対策に追い込まれている。
最近では、取り外すと返品できなくなる巨大タグを付けたり、暗証番号付きの鍵でファスナーを固定したり、さらには服に灰皿をぶら下げる店まで登場した。
いずれも発想は同じだ。ぶら下げたままでは恥ずかしくて外出できず、外してしまうと返品できない。「一度着て外出してから返品する客」を防ぐため、店側はあの手この手の対策に追われている。
「信頼」ではなく、「外せない仕組み」で商品を守らなければならないところまで追い込まれている。
それでも被害は収まらず、高級ブランドの一部では、ライブ配信業者や撮影スタジオが集中する地域を、事実上「町ごとブラックリスト化」し、そもそも注文できない仕組みを導入する動きも出始めている。
一度使って返す。教師が教え、保護者が実践し、店側は灰皿をぶら下げ、ブランドは町ごと締め出す。問題なのは、こうした異常な光景が、少しずつ「普通」になり始めていることなのかもしれない。

ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。