小泉防衛相「核は触れざるを得ない」 背景に中国共産党の核急拡大と「核の傘」の揺らぎ

2026/07/21
更新: 2026/07/21

小泉進次郎防衛相は7月17日に配信されたインターネット番組「言論テレビ」で、安全保障をめぐり「日本にとっては議論するのが難しい課題だが、触れざるを得ない一つは核だ」と述べた。核政策について現職閣僚として踏み込んだ発言であり、政府が年内に予定する安全保障関連3文書の改定を前に、議論の射程を広げる姿勢を示したものといえる。

小泉防衛相は、マクロン仏大統領が保有核弾頭数を増やすと表明したことや、フィンランド議会が有事の際に自国領内への核兵器持ち込みを可能にする改正法案を可決したことを列挙した。ロシアのウクライナ侵攻後に欧州で進む核抑止力強化の動きを踏まえ、「危機感を持って、あらゆる政策をタブーなく議論し、進めなければいけない」と強調。非核三原則の「持ち込ませず」の見直しを持論とする高市早苗首相の路線とも一致している。

日本では長く、核武装はもとより核をめぐる議論自体がタブーとされてきた。世界唯一の戦争被爆国として広島・長崎の惨禍を経験し、国民の間に根強い反核感情が定着したためだ。

戦後日本は平和主義を掲げる憲法の下、専守防衛を国是とし、核兵器の保有を選択肢から外してきた。1967年12月、佐藤栄作首相が衆院予算委員会で核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とする非核三原則を表明し、71年11月には沖縄返還を控えた衆院本会議でこれを遵守すべきとする決議が採択された。

日本は米国の「核の傘」に安全を委ね、76年には核拡散防止条約(NPT)を批准。以来、核保有はむろん、核共有や持ち込みの是非を公に論じること自体が、政治的に避けられてきた経緯がある。

閣僚がこうした発言に踏み込む背景には、日本を取り巻く安全保障環境の構造的な悪化がある。令和7年版防衛白書では、中国の軍事動向を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置づけており「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」に直面しているとの認識を示している。

白書は、2024年8月の中国軍機による領空侵犯や、尖閣諸島周辺で力による一方的な現状変更の試みが執拗に継続していること、台湾周辺で統一に向けた作戦の一部が演練されている可能性を挙げ、海警局を前面に立てたグレーゾーン事態への警戒を強めている。中国が過去30年以上、透明性を欠いたまま核・ミサイル戦力を中心に軍事力を急速に強化してきたとも指摘した。

その核戦力の実体は、米国防総省の年次報告「中国軍事力報告」に示されている。同報告は2024年半ば時点で中国が運用可能な核弾頭を600発超保有すると推計し、2030年までに1千発超に達すると予測してきた。2025年12月公表の最新版では、弾頭数は2024年を通じて600発台前半にとどまり生産ペースは鈍化したとしつつ、2030年に向けた拡大の軌道自体は維持されると評価している。中国はすべての大陸間弾道ミサイル(ICBM)で米本土を射程に収めており、その狙いは有事の際の第三国介入を抑止することにあるとされる。

こうした中国の核拡大は、日本が依存してきた米国の「核の傘」すなわち拡大抑止の信頼性に影を落とす。米シンクタンクの全米アジア研究所(NBR)は6月に公表した報告で、地域の安全保障環境の悪化、同盟の力学の変化、各国の国内政治要因が、米国主導の拡大核抑止の枠組みを維持できるか否かの「転換点」へと関係国を押しやっていると分析した。小泉防衛相が欧州の事例を引いたのは、同盟国が自前の核オプションや核共有へと傾く国際的潮流を意識したものと読める。

ただし、小泉氏は非核三原則の見直しそのものには明言を避けた。朝日新聞によると「今までのものを守ることが先に来て、真に日本を守ることは後に来ているのではないか」と述べ、原則堅持を訴える野党を批判するにとどめている。年内の安保3文書改定に向け、核をめぐる議論がどこまで具体化するかが焦点となる。